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#文舵練習問題 #練習問題その3 3-2

 その日あなたは誕生日で誰も祝ってくれないことを恥ずかしく思いつつ、それを表に出すことはとても恥ずかしいことだと固く信じているにきびを持て余したティーンエイジャーで自分の魅力や価値を過大評価してはいたけど、そのことを恥じ入るくらいには見栄や外聞、客観性評価といったものを自分の内側に取り込みつつある年齢、世間の大人が一人残らず軽蔑し馬鹿にし軽んじ、そして同時にひどく恐れている14歳、14という数字にはあなた自身でさえ恐れをなしていた―――それが不意に二階の窓から姿を見せた友人の手引きで目隠しをされどこかにつれていかれ―――免許を取ったばかりの友人の兄が手助けしてくれたのだろう、軽の自動車エンジンの震えがあなたの横隔膜を震わせ目的地に着くまでの恐れと不安と期待をずっとじらし続けていたし、かきたててもおり、あなたは自分自身の期待を乗りこなすことに一生懸命で周りの友人の緊張した様子や今にも笑いだしそうな張り詰めた感覚に気がつくことができなくて、そのことは友人たちから指摘されるたびに恥ずかしい思いがするけど、みんな若さというオブラートに包んで忘れ去ってはくれないまでも多めに見てくれていて、それであなたたちは一生の友達の約束をいまだに守り続けることができていて、そのことはあなたの両親や祖父母や兄弟たちを驚かせたし、数えきれない失望や失笑や喜びのもとにもなって、なんていうかあなたちは一種の運命共同体であり、連座と呼べるような共謀・協力関係にあり、誰よりも親しい仲間たち、あるいは裏切り者、それとも陳腐な言葉で言うと一蓮托生、ソウルメイトとかまぁもっと安っちい言葉を並べてもいいんだけどそんなことはどうでもいいことだし、呼び方にこだわるような友情なんてくだらないし、そろそろ本題にもどってもいいかな。あの日納屋に通されや恐る恐る目を開けたときの鮮烈な喜びは今でも夢に見ることだってある。古い納屋いっぱいに飾り付けられたドライフラワーの束のふわふわした感じ。リボンやファブリックで飾り付けられた空間の真ん中に鎮座しているドラムセット。あなたが憧れ欲していたもののすべてがその空間に凝縮されていた。あなたの口から叫び声が漏れる。マジ? とか ありえない! とかまぁあんまりいい響きの言葉じゃないけど、だけどあなたの嬉しさは最高潮に達していて、そのことを周りのみんなが理解してくれていることが何よりうれしくて、あなたは何度も短く区切られた感謝の言葉と、信じられない、という意味の言葉を交互に繰り返した。

追加問題:もっと変則的な構文や―――をつかってユニークに。ほとばしる文をかいてみよう。あふれさせろ!

14歳―――、驚くべき年齢―――すべての大人が恐れを無し同時に無価値で無力な大バカ者どもだと信じられている架空性の高い数字、14歳に達する記念すべき朝だというのに誰もあなたにお祝いのコメントやメッセージを送らない静かなメールボックス、少し強がって何でもないふりをしてみるけどあなたはやっぱり寂しい、だって自分は社会的な動物で14歳ともなれば自分が所属するトライブをいくつか定めているのが人間の性だし、大人が顔をしかめるような下品で目を引くような中身のない遊びに興じることも日常茶飯事のはずだし、というかせめて幼馴染のメリッサからコメントが来ないのはさすがにいくらなんでもおかしい!怒りとか驚き、失望や悲しみが次々襲ってくるけどそれをあからさまに味わえるほどガキではないあなたは感情をとりつくろってなんでもないふりをしてみるととうとう窓ガラスをコツコツと叩く音がしてメリッサが雨どいを伝ってベランダから侵入してきてあなたの手をとる―――「どこに連れて行くの?」メリッサはあなたを地上に連れ出すとそっと目隠しをして、おそらく免許を取りたてのメリッサの兄の運転する軽自動車の後部座席に乗せて、くすくすとか今にも何かが始まりそうな予感や緊張だけを感じさせる空気が狭い車内に充満してたのに、あなたは自分の感情を取り繕うことに精いっぱいで周りの空気にはお構いなしで、あなたたちはこの先何度も両親を呆れさせ、苦い表情をさせ、しまいにはお互いの友情をほめたたえられもするのだけどそのころのあなたたちは自分たちの未来に何が待ち受けているのかなんて想像もしない、想像力を持て余して毎日をやり過ごしている目立ちたがり屋のシャイな大賢者、尊大な自尊心とポケットで潰れて乾いたダンゴムシの死体をいつまでも指先で持て余しているような青春だった、あのころはとても楽しかったな。いまだって。だけどそう、あの日のことは今でも夢に見ることがある。目隠しを外していいよ、と言われて言うとおりにする。はじめは暗さに目が慣れなくてちかちかする。やがてぼんやりと浮かび上がってくる古い納屋いっぱいに飾りつけられたドライフラワーの褪せた色合いと、納屋の真ん中に鎮座しているドラムセットのまばゆい輝き!金属質なその光沢はまっすぐあなたの胸を打った。「ずっと欲しがってたよね」メリッサがにやりと笑う。あなたはなんで? どうして? すごい、すごいすごいやばいんだけど! 少ない語彙で何度も短く絶叫する。メリッサと兄のトムが笑う。「叩いていいの?」「もちろん」あのときの感動は今でもすこしも色あせることがない。愛と希望と、夢と未来、いい響きのする言葉を全部納屋の中に閉じ込めたみたいだった。目を閉じるといつだってあの時の感動を思い出せる。

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阿瀬みち
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