特許出願技術動向調査の活用法①
ベンチャー企業にとっての特許調査
テック系ベンチャーをやっていると、「特許出さなくて大丈夫かな?」「競合はどんな特許を出しているんだろう?」「そもそも類似特許を出している競合他社ってどんな会社があるんだろう?」と言う疑問を持つことも多いのではないかと思います。
内部事情的にそうでないとしても、資金調達の際に「特許どうなってるの?」と言う質問されることは避けては通れません。
とはいえ、創業初期に大規模な特許調査をすることは資金的に厳しいものがあります。そんな時に、もし類似のテーマがあったら超ラッキー、無くても調査の指針になるかもしれないものとして、特許庁が出している"特許出願技術動向調査"をご紹介したいと思います。
特許出願技術動向調査とは
特許出願技術動向調査とは、特許庁が毎年決まったテーマに沿って特許情報を網羅的に調査するもので、レポートがこちらのサイトに公開されています。
その概要は下記のように記載されています。
つまり、特許情報を基準にして、日本の産業が優位にあるのかそうでないのかなどを分析し、企業や大学で研究開発テーマをどうするかの参考になるようなことを目指して調べられているものです。
近年では、令和5年度調査として、
(一般)パッシブZEH・ZEB
(機械)ドローン
(化学)全固体電池
(電気・電子)ヘルスケアインフォマティクス
(分野横断)量子計算機関連技術
の結果が公開されています。それぞれ、調査結果のpdfと、講義動画が公開されています。ざっくり流し見したいときは動画を、じっくり分析したいときはpdfを見るのが良いのではないかと思います。
活用シーン
具体的な活用シーンをいくつか挙げてみます。
開発方向性の参考情報としての活用
自分の会社、専門領域と同じか類似の調査がある場合、最も有効利用できる可能性が高いです。特許情報から未来の予測を立てることはもちろん可能ですが、特許情報というのは、基本的には1~2年以上前に提案/申請された技術情報の集合体なので、過去の情報、つまり先行技術の調査がメインになります。動向調査のレポートでは、特定のテーマの中で、更に技術領域や国、企業ごとに出願情報を分け、その傾向分析などが行われています。
例えばですが、ドローンの特許を機体の形式で分けて出願数を年ごとにわけたものが上記の図になります。これを見ると、回転翼機(一般的にドローンと言われてよく想像される形態のもの)の出願がすべての年において多く、固定翼機に関するものは比較して少ないことがわかります。
これを見て、今から開発するものが回転翼機であれば、それは技術的にはレッドオーシャンである可能性があり、一方で、技術開発における市場規模が大きい領域であることが分かります。
それをもとに、方向性を変えても良いですし、そのまま突き進んでも良いわけですが、市場や他社の動きを知ったうえで意思決定するのと、成り行きシーズのみで意思決定するのとでは、説得力が違いますし、万が一将来的にピボットする場合にも的確な意思決定ができます。
DD対策として
投資を大きく受けるうえで、DDは避けては通れないステップです。その中でも技術DDの中でこのような調査を活かすことができます。
例えば、「競合他社としてどのような会社を想定しているか?」のような質問は鉄板ですが、知財情報をもとに、どこが競合としてありうるかを確認できます。
例えば、上記表のようなものが調査結果にあります。ドローンでは言わずと知れたDJIが上位にいます。それ以外にナイルワークス、ソニーはドローンメーカーの中の一つですが、フォードモーターのような自動車メーカーや、ウォルマートなどの小売りが特許を出願しており、競合となり得たり、場合によっては技術の売り先の候補になり得ることが分かります。
また、「他社所有の特許で業務上障壁になり得る重要な特許」や、「他社の参入を拒む障壁になり得る自社所有の特許」を聞かれることも多いです。この場合にも、他社の出願状況や出願数、領域を見ることで、各社、各国が重要視している領域の特許を見ることができます。
特許出願の指針にする
自社で特許を出願するうえで、「これは特許として出すべきか?」「出すとして、どの国で出すべきか?」など検討する場合があると思います。
その場合に例えば、
このような表を見ることで、各国がどの国で特許出願をしているかがわかります。例えば、日本企業のソニーは米国で、日本以上に特許出願をしていて、米国重視をしており、同様の技術領域やターゲット市場であれば、日本だけでなく、最低でも米国出願は考えた方が良いのでは?という判断ができます。逆に、韓国で出しているのは韓国企業のLGを除くとほとんど無いので、一旦ドローンに関しては韓国での出願は不要かな、という判断ができます。
もっと活用しよう
このレベルの特許調査を特許事務所にオーダーメイドですると、多少絞ったとしても1千万円ではとてもじゃないですができません。なので、こういうものをいかに使えるかが特に資金力が無いタイミングでのベンチャーにとって重要であると思います。
もちろん、大規模に自前で調査できるような資金力がある場合、個別に重要な技術領域、特許領域を持っていて、オーダーメイドの調査をしてもらわないといけないタイミングはあります。その時は、ベースとしてこういった特許調査を活用することで費用を削減することができます。
また、調査を依頼する場合、自分で特許調査をする場合に「なんとなくどの国がこの技術領域で強いか知りたい。」とだけしか言えないと、調査結果と元々知りたい結果がずれてしまう場合もありますが、全然違う領域だとしても、この技術動向調査のこの表、この図のような分析がしたい。と言うだけで、スムーズに話が進みます。
次回以降、どれかテーマを選んで、その結果を見ながらどう考えたら良いかを説明したいと思います。
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