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百寺巡礼 (029) 石山寺 滋賀 2022年10月24日。

石山寺に足を踏み入れると、そこは時がゆっくりと流れる場所だ。NHKの大河ドラマでも何度も登場し、紫式部が足しげく通ったと言われるこの名刹には、どこか特別な静けさが漂っている。紫式部がここに通い、あの名作『源氏物語』を生み出した場所としても知られ、私はその歴史の重みを感じながら境内を歩いた。

ある日、私はこの寺を訪れた際、手土産として「東京・ひよこ」を献上した。普段は入れない胎内巡りという貴重な体験をそのお返しとしていただくことができた。寺に手土産を持参するというのは私の巡礼の習慣であり、その時々の寺の反応が千差万別であることが、何とも言えず面白い。ある寺では静かに受け取られ、また別の寺では温かい歓迎を受ける。その反応を予測し、比較しながら楽しんでいる自分がいるのだ。

しかし、手土産を手にした瞬間に、ふと五木寛之の言葉が胸に響く。「恋しくばたづね来てみよ唐橋の石立つ山は母のふるさと」。これは蓮如とその母にまつわる物語だ。母の愛に恵まれなかった蓮如が、母を思う心を詠んだ歌である。私はその歌を思い出し、石山寺の静寂に包まれた時間が、過去の人々の心の痕跡と重なっていくのを感じた。

物語とは、人々の心の中で生き続けるものだ。何世代を超えて、心の奥深くに刻まれ、人々を動かし続ける力を持っている。その力に触れるために、私はこうして百寺巡礼を続け、過去と現在が交錯するその瞬間を味わい続ける。人間の心の中には、時を超えた力強い物語が今も生きている。


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