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百寺巡礼(023)高台寺 京都 2022年8月26日

高台寺――ねねの思い出と共に。。。

京都の夏の終わり、暑さがやや和らいだ夕暮れ時、私は再び高台寺を訪れていた。この寺は、何度来てもその格調の高さに心を奪われる。五木寛之が記したように、「ねねは愛する人の思い出とともに、人生の後半の二十数年間をここで過ごし、その生涯を終えた。」まさにその言葉通り、この場所には静けさと、どこか哀しみを伴った力強さが宿っている。

高台寺を初めて訪れた時、私は思わず立ち止まった。目の前に広がる庭園、そこに流れる水の音、そして何よりも、ねねがここで過ごしたという事実が、私の心を深く揺さぶった。豊臣秀吉の妻でありながら、やがてその栄華が失われ、静かな晩年をこの地で送ったねね。彼女の心の中には、どれほどの思いがあったのだろうか。

その時、五木寛之の言葉が心に響く。彼が書いたように、ねねは「豊臣家の残光をなつかしむようにして、静かな最期を遂げた」と。天下を治めた夫の後ろで、どんな想いを抱えて過ごしたのだろうか。数十年を共に過ごした彼女の心は、豪華な宮殿での生活を後にしても、ずっと彼の影を追い続けたのではないだろうか。

私は、あの日から今日まで何度もこの寺を訪れ、そのたびにねねの心の中に触れるような気がしている。そして、この寺でのひとときが私にとっても静かな浄化の時間となる。思い出すのは、ここで初めて写経をした日のこと。手を動かしながら、筆先が心を整えていく感覚があった。言葉にできない思いが、あの瞬間、文字となって現れたように感じられた。

庭の石畳を歩きながら、ふと見上げると、月が雲間から顔を覗かせていた。ねねのように、静かな最期を迎えたのではないかと思わせるその光景が、私は好きだ。静寂の中に佇むこの寺院は、まるで過去と現在が交錯する時のようだ。


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