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百寺巡礼 (005) 身延山 久遠寺 (山梨)2022年4月1日

初めて訪れた身延山は、偶然にも桜が満開のタイミングだった。境内を彩る枝垂れ桜の見事な姿に、思わず息をのむ。長い年月をかけてこの地に根付いた桜たちは、まるで参拝者を静かに見守るようだった。その荘厳さと美しさに、しばし足を止める。

久遠寺へと続く参道は「男坂」と呼ばれる急な階段だと聞いてはいたが、その傾斜は想像以上だった。足元に集中し、一段一段と登るにつれ、息遣いが荒くなり、まるで山登りをしているかのような感覚に包まれる。辿り着いた本堂は、静けさと力強さを併せ持つ場所だった。その厳粛な空気の中で手を合わせると、疲労は次第に心地よさへと変わっていく。

下山は「女坂」という緩やかな道を選んだ。足元に気を遣うことなく、春風に吹かれながらゆっくりと歩く時間は、登りの苦しさとは対照的に穏やかだった。寺を囲む自然の美しさを感じながら、心も次第に軽くなっていく。

久遠寺では、日蓮宗の教えに基づき、御朱印の拝受が叶わないことを知った。少し残念ではあったが、この寺の厳格なポリシーに触れたことで、自分の巡礼もまた深みを増したように思えた。

満開の桜に迎えられ、急坂に挑み、静かに下山する。この一連の体験そのものが、久遠寺で得た大いなる教えだったのかもしれない。



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