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心理臨床学会自主シンポジウム「精神分析的臨床のフロントライン(4)―コーヒーブレイク✖️私たちは何を考えているか✖️ブリコラージュ—」開催報告
2024年9月22日(日)19:15〜21:15、日本心理臨床学会にて自主シンポジウムを開催しました。約110名の方にオンラインでご参加いただきました。ご参加くださった皆様、ありがとうございました。
これまで、一連のシンポジウムを経て分かってきたことは、フロントラインの仕事は現場に出向き、そこにあるものを使って、目の前の問題と取り組んでいく手仕事だということです。人類学者のクロード・レヴィ=ストロースはそれを「ブリコラージュ」と呼びました。本来の用途かどうかは別にして、手元にある端切れや端材で当座の役に立つものを作る。現場に身を投じ、自分自身もまた素材の一つになる。フロントラインの仕事とはそのようなものであるし、私たちの臨床の仕事の全容は実際のところそのようなものかもしれません。一つ、たしかなことはこちらのあるべき型を持ち込むこととは違う、ということです。
本シンポジウムでは、これまで様々な領域でのフロントラインの実践を紹介してきましたが、今回はコーヒーブレイク(小休止)として、これまでの登壇者が集まり、自分の頭の中をお話ししました。指定討論者も置かず、登壇者が今、何を考えて仕事をしているのかを話して、実践のヒントになればとの思いで開催しました。
企画・木下直紀(聖マリアンナ医科大学病院精神療法・ストレスケアセンター)司会・重宗祥子(さちクリニック )・森一也 (南青山心理相談室・京都大学大学院)
話題提供・木下直紀・坂口 正浩 (川崎市中部児童相談所)・岩倉拓 (あざみ野心理オフィス)・日置千佳(東京都公立学校スクールカウンセラー)
<話題提供>
総合病院精神科の日常業務と『臨床精神分析』
トップバッターは木下直紀さんです。木下さんは、総合病院精神科の知能検査で考えていることを話しました。内容は検査の技術や数値解釈ではなく、業務の運用方法(オペレーション)です。4つのポイントを述べました。①検査結果を能力水準だけでなく、身体不調や精神変調、心理的要因が作用する複合的なデータと見なすこと。②所見を基礎情報(生活歴、家族歴)の報告に終わらないこと。③臨床業務として有用で、面白いところに注力できるように作業の最適化を図ること。④精神分析的な理解は恣意的に使うのではなく、辻褄が合わない時ほどその意味を考える必要があること。そして、構造化された心理療法に限らず、こうした日常業務も2023年度に話題提供した「コロナ禍での職員支援」も、精神分析的な理解を使った「臨床精神分析」(井元2024)と広く捉えることを提案しました。
心理職の児童福祉司として
次に坂口正浩さんの話題提供です。坂口さんは、心理職として4月に児童相談所の福祉司に異動した経験を振り返り、児童の一時保護の場面から、現場で考えていることを振り返りました。身体的虐待が見られた児童について、援助方針会議では一時保護の是非に意見が分かれましたが、最終的には児童の安全を最優先し、母親との関係を考慮しつつも強制的な保護を決定しました。この過程で、坂口さんは児童にとっての最善の利益と、所内の職員が意思決定へ積極的に関与するよう促すことを重視しました。坂口さんは、心理職の福祉司としての役割に悩んでいる渦中にあると話し、対人援助職としての取り組みや職員の意思決定の幅を広げること、また、現場に自分が巻き込まれることと、俯瞰して状況を見つめることとのバランスを取ることを大切にしていると述べました。
多職種連携スタッフ間の力動的地図
次は岩倉拓さんです。岩倉さんは、スタッフや多職種協働の際に起こってくるスタッフ間の関係に、クライエントの心的内界が、外界のスタッフの関係性として現れてくることを臨床経験から語りました。クライエントのこころの部分、その葛藤や矛盾がスタッフにそれぞれ投影され、それが「現実化」する様を描写しました。そして、そのあり方をスタッフと共有することの臨床的有用性について話しました。それは集団における「転移」の様相であり、その集団・組織には「個人の逆転移」に相当する集団自体がもつ葛藤や特徴もあるので、集団のアセスメントも重要であるとしました。また、さらにその集団において、権威や指示関係などの権威勾配がある場合には、それが強く影響するのでその権力関係も力動的地図を描き、考慮することの重要性を指摘しました。
学校での教員支援を支えるもの
最後は日置千佳さんです。日置さんは公立学校スクールカウンセラーとして教員支援をした経験とそこで考えていることを共有し、このような実践を精神分析の応用臨床としてこのシンポジウムで語り続けている理由を考察しました。2022年度に話題提供した「3分間コンサルテーション」と「教育相談部会の5年」を振り返り、新たに「大人が思春期心性を持ち込む場としての中学校」という理解を教員に投げかけ、保護者対応を支える場面を示しました。そこに通底しているのは、困難の中に身を置きながら、そこに持ち込まれていること・起きていることを分かろうとし、対話を続けようとすることです。それを支える心理臨床家としての思考が精神分析理論に支えられているさまを、日置さんは「母国語、オペレーティングシステムのようなもの」に例えて論じました。
<フリーディスカッションとアンケートの声から>
フリーディスカッションでは、フロアからチャットで質問や感想をいただきました。ご発言くださった皆様、アンケートで感想を送ってくださった皆様、本当にありがとうございました。当日のディスカッションとアンケートで寄せられた声を合わせてご紹介します。
権力勾配・権威勾配
ディスカッションでは、どうすれば権力勾配から自由になれるのだろうか、という議論がなされました。まず権力勾配に気づくことの重要性や、権力勾配が臨床実践に与えている影響について考察することの重要性が挙げられていました。
アンケートでも多くの参加者がこのテーマに言及しており、特に現場における力関係や権威勾配の影響について考えた方が多かったようです。「フラットな関係を作ることの難しさ」や「権力の偏りを完全になくすことは難しいが、揺れ動く状態を維持することの重要性」など、現実的な視点が挙げられています。
精神分析的アプローチの有用性
精神分析的理解が、クライエントだけでなく、周囲の支援者やチーム内の力動理解にも役立つという感想が挙げられています。精神分析の知識が個人のみではなく、チーム医療の力動やクライエントとの関係性の理解にに活かせるという洞察は、実践に役立つ考え方として受け止められていたようです。
現場のリアリティ
それぞれの立場で、現場での苦労や工夫を共有し合い、それが励みになったという声が多数ありました。特に、複雑なケースや多職種連携が求められる現場で、心理職の役割について考える機会となったという感想がありました。
「ありあわせ」の概念
参加者の中には、自身の臨床において「ありあわせ」で対応していることを再認識したという感想もありました。理論や技法に依存せず、その場その場で最善を尽くすというアプローチが肯定的に受け取られているようでした。
心理職の存在意義と多職種連携
特に権力勾配の中で心理士の役割をどう位置づけるかという点が、多くの参加者にとって重要なテーマだったようです。病院や教育機関での心理士の存在感、そして他職種との関わり方について改めて取り組んでいこうとする考えが多く挙げられていました。
継続的な研鑽の必要性
多くの参加者が、今回のシンポジウムを通じて自身の臨床を見つめ直し、今後も継続的に学び続けたいという意欲を持っていることが感じられました。
(尚、ディスカッションとアンケートのまとめについて、生成AIによる要約を活用しました)
以上が、今回のシンポジウムの報告となります。今回のシンポジウムを通じて、さまざまな思考の種が生まれたと思っています。今後のシンポジウムにもご期待ください。