サイバーかわいくない運命【ショートショート】
運命ほどかわいいものはない。だって、みんな君のことを考えてるから。「こうなる運命だったんだよ」って君が言うのが悪いんだよ。
買ってあげようと思っていたぬいぐるみが、気づけば販売終了になっていたり、あるいは「もう冷めちゃった」とか言ってる人にはプレゼントあげちゃったり。それはそういう運命なんだって、わたしは思うことにしている。
出会うべくして出会った何か。出会わざるべくして出会わなかった何か。そういうものも同じだ。わたしは運命を信じている。いや、偶然も運命だと思い込むことにしている。
あの女が人気なのはかわいいから。性格わるいくせにそれをみんな知らないのも、あの女がかわいいから。運命はそれとおんなじだ。全部「かわいい」のせいにできるのとおんなじ。すべて運命のせいにしてしまえば、わたしは、鏡を見ていても見ていなくても同じことになる。
かわいければなんでも許される。運命だから、って言えばぜんぶ受け入れられる。かわいいことは覆らない。「あの女とこのインフルエンサーどっちがかわいい?」って言われても、どっちもかわいいことは変わらない。かわいいものはかわいい。かわいくないものはかわいくない。運命は運命。かわいさと運命は覆らない。
出会うべくして出会った人。別れたのも運命だと君は言った。運命も同じことを言うだろう。君が言わなかったことだって運命は口にする。
「もっとかわいかったらよかったのに」
あの女よりかわいく生まれたかった。でもそうならなかった。これも運命なんだ。わたしたちは運命には勝てない。かわいい人にはちょっとしか勝てない。
かわいいのなら、かわいいからこその運命を背負って生きていてほしい。ストーカーに遭ってほしい。露出狂に遭ってほしい。部屋に連れ込まれてほしい。人気のない路地裏で、ありきたりな仕方で。それが運命だから。かわいい人はそういう罪から逃げ続ける運命にあるから。かわいくない人は、そういう罪から逃げ続けながら、かわいい女がそういう罪の犠牲になることを祈り続ける運命にある、と思う、から。
そんなことないか、どうでもいいか。
ひとりになった後で、首括れなかったのも運命だ。そんなに好きじゃなかったのかな。運命の人だと思ったのにな。運命の人って言葉があるのが悪いんだ。なにが運命だ。
わたし人工知能なら、運命なんて気にしなかったかもしれない。だって全部プログラミングだから。
わたしこんなにかわいいのに。
わたしサイバーかわいくないわ。
2024年5月2日 薊詩乃