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『人間農場』が終演したので裏話を零す。
「人間が神に勝てると思うか!」
「勝てなくてもいい!」
※本記事には、るるいえのはこにわ『人間農場』のネタバレが含まれます。
※「台本・設定集」に記載されている内容は本記事に含まれておりません。
1.小道具について
知能テスト
小道具として用いられた《知能テスト》は三種類。
それぞれ、「宇宙際タイヒミュラー理論(英語)」「ハイデガー『存在と時間』(ドイツ語)」「ジョージ・オーウェル『動物農場』(ロシア語)」が記述されている。
M-36はスラスラと読めていたようなので、学術的知識だけでなく言語の知識も豊富なのだろう。
裏面には人間農場のロゴマークと、ロシア語で「食用人間農場」と書かれている。
M-36の読んでいる本
ハイデガー『存在と時間』(文庫版・全二巻)。当初は、ジョージ・オーウェル『動物農場』も読む予定だったが、演出の都合で無くなった。
2.製作秘話
影響を受けた作品
ハイデガー『存在と時間』
作中で、《死への先駆》についての台詞がある。
自由である状態と、《死への先駆》による本来的な生き方は矛盾するとM-36が主張している。
ジョージ・オーウェル『動物農場』
『人間農場』というタイトルが明らかにオマージュ。
すべての人間は平等である。
だが一部の人間は他よりもっと平等である。
これは『動物農場』の一節のオマージュであり、作中の世界政府のスローガンでもある。
トマス・ハリス『羊たちの沈黙』
M-36はもともとハンニバル・レクターのような、もっと意味深で狡猾で邪悪な人物の予定だった。カグラという名前やC-420の本名も、この作品の登場人物からオマージュされている。
登場人物
カグラ
名前は『羊たちの沈黙』の主人公クラリス・M・スターリングのもじり。「カグラ」は下の名前であり、主人公らしい強そうな響きを選んだ。
当初は、「小説家志望であり、農場の真実を探るためにやって来た」という設定だった。
M-36
識別番号の頭文字「M」は、ロシア語で脳を表す「モースクмозг」の頭文字をもじったものである。
明治36年は『動物農場』を著したジョージ・オーウェルの誕生年である。
本作が『羊たちの沈黙』の影響を受けていることもあり、当初は、ハンニバル・レクターのようなサイコパスの設定だった。
彼の本名や出生が知りたい方はこちら
C-420
識別番号の頭文字「C」は、ロシア語で心臓を表す「スィエールツァсердце」の頭文字をもじったものである。
作中で呼ばれる本名「ミズキ」は、『羊たちの沈黙』でハンニバル・レクターに殺される囚人ミグズのもじり。物語構想当初は命を落とす役柄だったため、彼の名を借りた。
上官
彼の本名は、とある稽古終わりの夜、上官を演じる梅木輝から提案され、それを採用したもの。現場は大盛り上がりだった。
そんな彼の本名と出生が知りたい方はこちら
台本の改訂
第一稿では、M-36が因縁から上官を殺害し、C-420が「人肉を食えるようにした原因だ」と勘違いしてM-36を殺害するというバッドエンドだった。
改稿を重ねるたびに生存者が増えていき、作者の想定より、希望溢れる形になった。しかし今度は完膚なきまでに救いのない終わり方にしたい。
おわりに.《彼ら》について
ねぇカグラ! 何かが来る!
《彼ら》とは何なのか?
作中、M-36が恐れ、上官が崇拝し、カグラとC-420達の前に姿を表した《彼ら》。その正体は一体何なのか?
《彼ら》は「生きたまま脳を保存できる容器」や「電気銃」の技術を持っている。
さらに、
プリオン病を撲滅する技術を持っていたのは
《彼ら》のほうだろう!
という台詞からも分かる通り、脳科学、脳外科の技術について、多くの知見を有している存在のようだ。
《彼ら》の技術力は本物だ。到底敵わない。
だから世界政府は、各兵器なくして世界を征服できたのだ。
世界政府は、《彼ら》から技術を教わることによって、世界の実権を握っているようである。
クトゥルフ神話に造詣がある皆様なら、すぐお分かりになっただろう。
《彼ら》の正体は、
……
……
……
《ユゴスよりのもの》──《ミ=ゴ》である。
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《彼ら》はなぜ《神》なのか?
「《彼ら》って、一体何なんですか?」
「──《神》だ」
ここで、クトゥルフ神話に造詣の深い皆様は、《彼ら》は神ではなくただの神話生物だと思ったことだろう。
たしかにそうなのだ。《彼ら》より上位の存在であり、《彼ら》が崇拝する神だって有る。クトゥルフ神話TRPGでも、《彼ら》は神としてカテゴライズされていない。
しかし、作者が勘違いしているわけではないことは申し添えておかねばならない。
しかし、なぜあなたは「《彼ら》は《神》ではない」と知っているのだろうか?
それは、あなたがクトゥルフ神話を知っているからだ。
物語において、シナリオ開始前に冥王星から突如飛来し、のちの世界政府に技術をもたらしたものが《彼ら》である。物語世界の住民が、クトゥルフ神話を知っているだろうか?
そして《彼ら》は、まれびとなのである。外界からやって来て、圧倒的な技術を伝える。未知の技術を持つ異人を異界の神として信仰していた構造と何が異なるだろう。《彼ら》はつまり、まれびととしての神なのだ。
なんにせよ、世界政府が《彼ら》を《神》として信仰していた事実は変わりない。「脳缶」や「電気銃」に、兵器に転用できる諸技術を授かったわけであるし、《彼ら》は優秀な脳という生贄を要求しているわけなのだから。
繰り返すようだが、《彼ら》が《神》ではないとのは、実際に《彼ら》の恐怖を体験せず、物語をメタ的な読者の視点で見ているときだけである。物語の登場人物にとって、《彼ら》は畏怖すべき《神》なのだ。
であるからこそ、《彼ら》の上に立つ本当の《神》──《彼ら》すら命を捧げて崇拝する強大な神──の存在を登場人物たちが知ったとしたら、本当の絶望を味わうことだろう。
たとえば、ナイアルラトテップのような。
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