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バスが変われば街が変わる?!ウォーカブルを実現するバス戦略
“まちなかウォーカブルのヒント”の公共交通担当を任命された浅見です。
私は、栃木県にある小山市役所で公共交通を担当しています。今回は、小山のバスの取り組み、ウォーカブルシティを目指す上で、実はバスって大切よねということをお伝えします。
はじめに:誰もが自由に移動できる世界をつくりたい!
3年前、フランスの地方都市を旅行で巡りました。
小山よりも人口が少ない都市でも、比較にならないほど公共交通が便利で、お年寄りや車椅子の方も笑顔でまちなかに出かけてきている姿が日常になっていて衝撃を受けました。
小山のバスで実現したい世界は、ずばり「クルマなしでも誰もが自由に移動できる街」です。
移動できることは人々の幸せに直結します。ちょっといいすぎかもですが、禁固刑(移動できない)が罰として成立するのもそのためだと思います。車を初めて持った時に感じた”どこにだって行ける”と思う高揚感、あれです。
見るからにウォーカブル!これ、平日の昼間なんです。
この様子を目撃してからは、小山のバスを圧倒的に便利にして、小山の人たちの気持ちが変わっていってほしい。「バスがある生活っていいじゃん、豊かだね。」「小山におーバスがあってよかった、クルマいらないじゃん。」そんな世界を目指すようになりました。
「ウォーカブル」は、「歩きたくなる」「クルマ中心から人中心へ」。クルマ以外のまちなかへのアクセス手段を確保するってウォーカブルにすごく大切です。
栃木県小山市 ~車社会すぎて路線バスが絶滅した都市~
小山市は人口16.8万人。市内を走る路線バスは市営の”おーバス”のみ、14路線とデマンドバスで、1日約2000人を運んでいます。しかし小山市民の移動手段は、バスはたったの0.3%、7割近くがクルマという現状です。このバスの割合は他の地方都市の8分の1。小山はクルマに乗る人が非常に多く、バスに乗る人はほとんどいない、歩く人も少ない街です。
小山にも、昔は路線バスがたくさん走っていました。しかし、みんながクルマを持つようになって、バスに乗る人が減って、儲からなくなり民間の路線バスは2008年に撤退しました。
超クルマ社会では、100m先のコンビニに行くにもクルマ。駅前に住んでいても駅ナカのスーパーではなく、クルマで5分の大型スーパー。安い商品を求めてクルマでお店をハシゴします。それ本当に安くなってます?こんな感じで、誰も歩こうとしません。反ウォーカブル!
現在は小山市役所がコミュニティバス”おーバス”を運行しています。どの路線も1時間に1本あればいいほうで、お世辞にも便利とは言えません。なので、まちのみんなには、「バスってダサい、お年寄りが乗るもの」と思われています。
コミュバスを格安で乗り放題に。定期券norocaの誕生
そこで、一昨年(2019年)、すべての人に、おーバスに「もっと気軽に」「いつでも」乗ってもらえるように、「noroca」という定期券をつくりました。
「超低価格」「長期間」「市内全線乗り放題」の3つの特徴をもつ紙製の定期券です。
これまでおーバスの定期は1路線1ヶ月8400円でした。
それを、半年や1年利用であれば1ヶ月約2300円と従来の7割引に、更に市内全路線※を乗り放題にしました。※導入当時11路線、現在12路線、2021.4~14路線予定
お陰様でnorocaはコロナ禍でも順調に販売枚数が増えていて、2019年度は値下げにも関わらず増収を達成しました!
特に学生定期券が4.8倍(2021.1.31現在)に増加。
バスに乗る若者が増えて、まちなかでバスを待つ若者が見られるようになって、それだけで街に活気がでてきたなーと実感。この取り組みはグッドデザイン賞を受賞しました。
バスに気軽に乗れると人の行動が変わる!norocaで何が起きた?
さて、norocaを買ったくれた方々に、どんなライフスタイルの変化が起きたか。ユーザーからのお便りを紹介したいと思います。
●「通勤やまちなかへの外出がとても楽になった、どの路線も乗れるのは嬉しい」
●「バスに出会えた時、近距離でも気がねなく乗れるので便利!」
●「高校生です。norocaのおかげで、お金が無い時も手軽にバスに乗車できるようになりました。通学だけでなくいろいろな場所に!」
●「老人会の何人かとnorocaを買ってミニハイキングに行こうと話しています」
読んでいただいて、お分かりの通り、老若男女みなさん「移動に対しての自由」を感じています。ウォーカブルが目指す姿、まちなかに気軽にこれらるようになった効果も伺えます。実際、アンケートではnoroca購入者の半数以上が、「いつもの目的以外でもバスを使うようになった」と回答。また購入者の85%の方がこれまで、定期券を買うほどバスを使っていたわけではなく、norocaができたから定期券を買ってくれた方です。
公共交通だからこそ実現できる世界
クルマがなくても自由に移動できると幸せがたくさんあります。
まずはお酒を飲めます!「今日はクルマだから飲めない」「代行呼びたいけど、なかなか来ない」なんてことはありません。ちなみに、私はバスどころか、徒歩圏に素敵なお店があるところに住んでいるので、子どもが寝た後に気軽に飲みに行きます。ウォーカブル!
次に駐車場を探してウロウロ、渋滞でイライラが解消します。クルマに乗っている人は1年間に平均42時間渋滞にハマっているそうです。バスなら本を読めるし、スマホも見られます。
最後に、「今日はバスでどこに出かけようかな」と自然とバスを選択肢にして、移動のハードルが下がります。まちなかにいった時に、「あ、バスがきたから、あそこまで足を伸ばしてみよう」なんて気軽に乗れると、偶然の移動が生まれます。クルマだと駐車料金も気になるし、駐車場に戻らないといけないので、決めたところしか行きませんよね。
更に、まちなかと公共交通の研究でわかっていることもいくつかあります。
まずバスや電車でまちなかに訪問するとクルマで行くより「滞在時間や消費金額が増加」します。商店街には嬉しい!またバスに乗ると地域や風土と接する時間が増えて「地域への愛着が深まる」なんて効果もあるそうです。おーバスでもその効果は見えてきています。
みんながバスを使うようになれば、まちなかの駐車場が必要無くなって、別の使い方に変わっていって、楽しいお店が増えるかもしれません。小山は、お母さんが、お父さんやお子さんを車で送迎している姿を良く見ます。みんながバスに乗ればこれも減って行っていくと思います。
illustrated by しおりん
ウォーカブルの観点からバスに求められること
さて、最後にウォーカブルシティとバスの関係を整理したいと思います。
1.バリアフリー化で、すべての人がまちなかに来られるようにする
まず、フランスのようにバスの車両と乗り場のバリアフリー化が必要です。車椅子の方やベビーカーの方、お年寄りに優しい環境を整備することで誰もが楽しく街を歩けるようににしたいです。バリアフリー対応バスを入れてもらって直ぐにクルマ椅子の方が使っていました。これまでここには来られなかった人が来れるようになったのか、と感動したものです。
2.バスのチョイ乗りで歩く人が増える
次に、バス停の間隔を狭めて、まちなかでは街区おきくらいにバス停を置きたいと思ってます。これによって、「お!バスきた、ちょっとあそこまで行こう」と足を伸ばす機会が増えます。LRTのまちなかと郊外の電停のイメージです。
3.まちなかのバス停を居心地良くする
最後に、バス停をバス待ちの方以外もくつろげる場所にしたいです。例えばパークレットのようなバス停なんてどうでしょう。バス停は車(車道)から徒歩(歩道)への交通結節点。そこが交流の場所にもなるなんて素敵ですよね。私はバスを待ってる時は積極的にお年寄りに話しかけます。かなりの確率で話が弾み、お互いとても楽しくなります。バスが変われば、街が変わる!と信じてこれからも頑張ります。
もし興味をもっていいただけたら、下のプレゼン動画も是非見てください!