ジリ貧コミュニティバスを復活させよ 〜自動車業界誌インタビュー②小山のプロジェクト編
自動車産業専門の調査研究会社「株式会社 FOURIN (フォーイン)」が発行する「FOURIN 世界自動車法政策調査月報」というレポートにインタビュー記事が掲載されました。ご好意でインタビュー記事の転載許可をもらいましたので、このnoteで紹介したいと思います。
タイトル「小山市、モビリティ・マネジメントでバス利用者数の増加に取り組み、2021年度は2017年度比27%増の84万人に」
まだ①を読んでいない方はコチラから↓
5.小山市のプロジェクトスタート
実は最初から3つやろうと決めて始めたわけではありません。工夫して、少し改善して、効果を確かめてやっていくことが大切だと思います。
まず小山市のバスはほぼ1時間に1本くらいなのですけれど、バスの時間に合わせて生活してもらえれば意外と使えます。使える割に、まだ知らない人が多いようだったので、そういう方にも乗ってもらえるように情報を発信しようというのがプロジェクトの始まりでした。特に若い人は「バスを使うなんてダサい」と思っています。そんな人に使い方やライフスタイルを提案すれば利用する人が増えるだろうと思って始めたのがバスの情報紙Bloom!です。
Bloom!の検討会の中で、新しい情報発信をやるのにサービスが何も変わらないのでは利用者もがっかりするのではないかという意見をもらい、以前からアイデアがあった全線乗り放題の定期券norocaを作ることにしました。
定期券は、月に8,000円とか1万円では毎日乗る人しか買いません。私が関わったことのある筑波大学のバスの定期券は年間4,200円でした。安くすることで、いつも乗るわけではないが、もしかしたら乗るかもしれないという人が購入してくれることは経験で知っていました。テーマパークの年間パスのように、パスがあるからテーマパークに行く、定期券があるからあえてバスに乗るという現象を期待しました。そこで筑波大学バスを参考に、思い切って7割引にしました。ただ、値下げしたことでおーバスの売上があまりにも下がると困るので、1年限定ということでスタートしました。
6.全線乗り放題定期券noroca
そういうわけではありません。パーソントリップ調査の結果から、高頻度で利用するユーザーはそれほどいないことがわかっていました。特に月1回とか1回未満のユーザーが多く、沿線住民の75%を占めました。その方たちが定期券を購入してくれることに期待しました。もちろん毎日片道200円払ってくれる人の方が収入源としては多いのですけれども、それ以外の方も多かった。
プラスマイナス合計で、そんなにマイナスにならないだろうという大まかな収支計算をしました。減収は怖かったですが大赤字覚悟というほどではありません。結果、この2年間で減収は確認されていません。ほっとしています。
最初はマイナンバーカードを持っている人しか買えないようにしました。当時、市がマイナンバーカードの取得率向上に力を入れていたこともあります。始めたときはマイナンバーカードを申し込む人が続出しました。申し込んでも3ヵ月待たないと取れないことになり苦情も来ました。そのときはマイナンバーカードの申込書だけで定期券を買えるようにしました。
そもそも定期券購入者はそれまで約100人しかいませんでした。路線を乗り継ぐ人が多いのに定期券を2枚買わないといけない不便な仕様でした。定期券でなくて回数券を利用する人が多かった。そうしたこともあり今までの金額は何だったのかという声はありませんでした。
ICカードを使えるようにしてほしいという声は今でもあります。ただ、ICカードを導入するには1車両に300万~500万円(導入検討当時の試算)がかかります。小山市のバスは全部で20台くらいありますし、ランニングコストもずっとかかります。
そうすると今の小山市のバスの事業規模(約2.7億円/年)ではICカードは身の丈に合っていない。そこで、とりあえず紙の定期券になりました。
7.スマホ定期券とICカード
スマホ定期券もずっと研究していました。ただ読み取り機器を車両に置くとメンテナンス経費が発生します。悩んでいた時に、東武トップツアーズの方がLINEを使って画面を運転手に見せるだけで利用できる手法を提案してくれました。利用者が使いやすく、メンテナンス経費も不要の素晴らしい手法で、半年で実現に至りました。
ただ、このやり方にも弱点があってODデータといわれる出発地と目的地のデータが取れません。ICカードではタッチした記録が残るので、どこのバス停にいつ行ったかがわかります。パーソントリップ調査と一緒でどこの路線のどの時間帯にニーズがいま集中しているのかがデータとしてわかります。
しかし、LINEを使うやり方ではわからない。画面を見せるだけなので記録は残りません。どの地点でアプリを開いたのかはわかりますが正確ではないですし、データの編集が必要になります。
今後はQRコードを付けて、乗降時にQRの読み込みをすることが必要かなと私は思っています。QRコードの導入費用はICカードに比べれば安いですから。
ICカードのSuicaはおーバスにはハイスペックすぎます。山手線や中央線に合わせているので、読み取る時間が短く済むように、世界最高峰のハイスペックに作られています。それを全国に普及させようというのは大変なことです。
世界最高スペックのICカードでそれなりに全国どこでも行けるようになりましたが、それは民間事業者が公共交通を発展させてきて、今もなお、事業として成立させているおかげです。海外にはSuicaのようなハイスペックなものはありません。
私が一番希望するのは、国なりがICカードを義務化して予算を全部用意して導入することです。ただ、そうすると相当な予算が必要となります。導入時のイニシャルコストだけでなく、毎年のランニングコストも必要です。そこまでして世の中をICカードで統一するべきものなのかは、私にはわかりません。
8.MaaS的なプロジェクトも
市内におーラジカードというものがあって、無料で取得できて、市内の店舗にカードを提示すると割引を受けられます。norocaを見せて同じ割引が受けられれば、定期券を持っているとお得な気分になるだろうと考えて、おーラジと交渉して、導入することができました。現状は、それで終わってしまっています。
東急グループが定期券に追加料金を払うと毎日そばが一杯食べられるとか、映画が見放題になるという取り組みをしていましたが、映画や温泉など一個ずつのサービスに対してお金がかからないものはサブスクと親和性が高いと思います。
私はバスを利用するライフスタイルごと提供したいので、バスプラス生活サービスという形で、市内の生活サービス事業者にサブスクの輪に入ってもらいたいという野望があります。しかし、ここは私たち市役所の不得意分野で、調整して資金配分しなくてはいけませんが、市職員の人的リソースをそこまで割けていません。
9.生活情報紙Bloom!
モビリティ・マネジメントで何をするべきかという技術は蓄積されていて、路線図と時刻表を配ることは当然にやるべきこととして位置付けられています。今回工夫したのは、それを情報紙Bloom!の中に溶け込ませるにはどうしたらいいかということです。
全市民と会話したいという私の想いがありました。Bloom!は老若男女色々な人に読んでいただき、さらに疑似的なコミュニケーションがとれる工夫を添えて、四つ折りのタブロイド紙にしました。
第1号で路線図を配り、路線とバス停の場所をわかるようにして、小山市の素敵なスポットを紹介しました。
路線図は独立してご家庭の壁に貼れるようにするために、冊子の中に配置しています。飾っても見栄えの良いデザインを工夫しました。時刻表は第2号の付録にしました。またそれぞれの号には市役所に感想や意見を出せる手紙をつけました。
3号では、それらの意見に対しての市の回答を丁寧に真摯に作成し掲載しました。また市民全員に読んでもらえるように、市内のイベント、観光スポット、子供向けの塗り絵や図鑑などさまざまな記事を掲載しました。
最初に市内全戸配布を目標として掲げました。では、どうやって配るのかと言うと、市の広報誌を配る自治会という配布チャンネルがあります。自治会にお願いして、Bloom!を一枚ずつ織り込んで配布してもらいました。面倒なので相当嫌がられたとは思いますが、一生懸命作ったからどうしてもといって優秀な部下が交渉して了承をとってくれました。要請があれば手伝いにも行ったと聞いています。私ひとりでは絶対できませんでした。
優秀で小山のバスを便利にするという熱意溢れる部下が四人います。彼らなくしては一つもできません。定期券導入に必要な行政手続を4ヵ月でやってくれました。私は企画を練ってやろうと旗を振るだけです。あとは政治的な説得はしますけれども、細かい仕事は全部やってくれました。
ユーザーが全然違います。紙はお年寄りに圧倒的に届いています。Bloom!配布後に電話をかけてきてくれた方の多くはお年寄りでした。SNSは若い人が見ています。FacebookとかInstagramにも有料広告を出しました。しかし、norocaを売るための広告として一番機能したのは車内広告でした。
おーバスの各SNSリンク先
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全国例外なくコロナの影響でバス利用者は減っていますが、小山市のバス利用者数は毎年増えています。2021年度は83.7万人でした。しかし、新規路線も含めた様々な施策の複合効果であるため、全線乗り放題定期券の効果なのかBloom!の効果なのかは完全に区別はできません。
ただ、Bloom!を配るたびに苦情の電話が減って、10分の1くらいに減りました。皆さん、特に電話をかけてくるような人たちは読んでくれたのだと思います。あと、アンケートでおーバスが好き、街が好きと答える人の割合も増えました。
ちなみにバス利用者が増え、年間15.2万人から83.7万人になったことはすごいことです。しかし、小山市と人口が同規模(15~20万人)で年間400万人とか600万人のバス利用者がいる都市があります。
現在の小山市の計画目標は2040年までに210万人としていますが、更に上の600万人を目指したいと考えています。
本編は以上です。過疎地域の移動問題・自動運転・ウォーカブルについて語る続編を読んでもらえたら嬉しいです。
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