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MaaS発祥の地フィンランドの公共交通と都市計画レポート(トゥルク編)

2022年5月29日から6月5日までフィンランドのヘルシンキ(2日半)とトゥルク(4日間)に行ってきました。目的は、国際会議 ECOMM(European Conference on Mobility Management)への出席・発表です。ECOMM発表、トゥルク市まち歩きツアー、交通政策担当者との意見交換、HP情報などを基にレポートします。

トゥルク市とは

ヘルシンキの西側約160km、フィンランドの最南西にある人口約20万人(国内6位)の街。ただし、自治体合併をしなかった(観光協会ガイドさん曰く揉めてできなかったら)ため市域は狭いそうです。周辺都市を含めた都市圏人口は約34万人で国内3番目の規模です。
歴史は長く、1229年に成立、1809年から1812年までフィンランドの首都でした。街のキャッチコピーの1つは「Oldest City」。街の人は、古い街であることに誇りを持っているようでした。
また街の中心をアウラ川という素敵な川が流れ、バルト海に流れ込んでいます。
後述しますが、トゥルク市はこのアウラ川を中心に都市再生を進めています。

トゥルク市のまちなかビジョン(表紙)

交通環境(バス以外)

市内の交通手段は、バスが大部分を担っています。

バスの話の前に、船、飛行機、高速道路、鉄道についても軽く触れておきます。
アウラ川がバルト海に流れ込む箇所に港(トゥルク港)があり、人流・物流においてフィンランドの西への玄関口になっています。また中心街北に8kmほどの地点に空港があり、国内主要都市や近隣外国都市を結ぶ便が就航しています。高速道路は、放射状に4路線、市内バイパス1路線が走っています。

鉄道は、VRグループ(フィンランド国鉄)がトゥルクとタンペレ・ヘルシンキに向かう路線のみを営業。市内にトゥルク中央駅以外にも、トゥルク港駅、クピッター駅があって、3つの長距離列車用鉄道駅を有するのはトゥルクがフィンランド唯一です。

トゥルク中央駅構内
トゥルク中央駅 駅舎


こうしてまとめると、トゥルク市はフィンランドの中でも交通の要衝といえる場所であることがわかります。

さて最後に、トゥルクには1972年まで路面電車がありました。最盛期は午前6時から午後10時まで6分間隔で走っていたそうです。しかしモータリゼーションの進展によって、邪魔ものあつかいされて廃止になりました。しかし、現在はトゥルクとその近郊を結ぶ路面電車の建設が計画されているようです。(路面電車が廃止される流れは日本と同じようですね。)

トゥルク市のバス(ユーザー視点)

はじめに言っておきます。とても素晴らしいサービスだと思いました。当たり前のことをきちんとやっています。
では何が良いと思ったか、まずユーザーの視点で紹介します。

FÖLI Toimintakertomus 2020 より引用

車両が大きくてかっこいい

街中に黄色の大きなバスが走っています。まちのシンボルになるし、車内が混雑しないので座れます。また車内はバリアフリーで、ベビーカーを折り畳まずにそのまま乗れるので子供連れに優しい。アシストシルバーカーを押しながら乗っている方もいてお年寄りにも優しい。

街中で大型のバス(ボルボ製とか)が走っている
広い車内(早朝、港から乗ったので誰も乗っていませんが途中からどんどん乗ってきます)
子供連れでお出かけするママ友

ライトユーザーに優しい

(案内がわかりやすい、路線・便数がたくさんある)
すべての路線に番号(英記号)が割り振られ、バス車両、バス停、時刻表、バスロケ、全て統一して表記されています。このため、乗りたいバスの番号さえわかれば、地名や路線名など知らない、読めない状態でもバスに乗ることができます。特に自分が乗りたいバスのバス停を探すとき、バス停にどんどん来るバスの中から乗りたいバスを特定するのにとても便利で安心しました。

左上:バス車両、左下:バス停、中央:時刻表、右:バスロケ

運営者が1つで色が黄色に統一されているので、街の中で黄色いものを見ればバスに関することだとわかるのも、初心者、観光旅行者に優しいと思いました。
そして何と言っても路線数と便数がものすごくあります。ちょっとバスを逃してしまっても次が来たり、別の路線に乗れたりします。これならバスでお出掛けしようという気になるものです。

路線一覧(これで半分)

GoogleMapが使える

GoogleMapに路線情報、バスの位置情報が表示されます。
このため、あらかじめバスについて調べていなくても気軽にバスの乗れます。検索すればどのバス(何番のバス)に乗れば良いかを教えてくれるのです。
そして乗るバスの番号さえわかれば、あとは上述した通りの案内に沿ってバスに乗るだけです。またGoogleMapにバスの現在位置と遅延時刻が表示されるのもいいですね。なかなか来なくてもう行ってしまったのかと心配になることもありません。

GoogleMapの検索結果 右は港から空港までの1番路線

ちなみに、バス路線網は都市圏の反対から中心地を通って、その反対まで運行しているものが多い印象でした。1番路線は、トゥルク港からトゥルク空港を結ぶ路線でした。

運賃設計がいい感じ!

ECOMM参加者は滞在期間中バス乗り放題チケットを渡されていたので、今回の旅では運賃の支払いはありませんでした。(こういう会議と連携するのも素晴らしい!)

このチケットを持っていなかったら、2時間で大人3ユーロ(夜間4ユーロ)です。距離運賃や1回運賃ではないので、乗換する人、長い距離乗る人でも同じ運賃で気軽に乗れるシンプル運賃でわかりやすいなと思いました。

ちなみに、2時間3ユーロ(400円)って高いと思いませんか?笑
これは、長期間定期券やオンラインで買うと安くなる仕組みになっていて、シーズンチケット365日(全路線乗り放題(多分))は535ユーロ(約7万円)、オンラインバリューチケットは2時間2.2ユーロだったりします。

それにしても定期券すごく安いですよね。ものすごく路線数、便数があって、月6000円で市内乗り放題。ECOMMの講演でも、定期券の大幅値下げをして、市民から「給料があがったようだ」「気軽に街にいけるようになった」と感謝の言葉が届いていると言っていました。

ちなみに、専用アプリがあって、多くの人がアプリを使っている印象でした。
MaaS界で有名なWhimでも検索〜運賃支払、乗車までできます。WhimはApple Payで運賃を支払えるので、わざわざアプリダウンロードしてクレジットカード登録をする手間が不要。旅行者に優しいですが、オンラインでも2時間3ユーロです。(AppleやWhimの手数料分があるから仕方なしですね)あとWhimは検索時間が若干もたつくのイマイチでした。

左:専用アプリFOLI 右:Whim検索結果(市街地から空港)

トゥルク市のバス(運営視点)

では、このような素晴らしいバス、どのように運行しているか運営視点でレポートします。

まず、バスは、トゥルク市地域公共交通委員会(FÖLI)によって運営されています。

FÖLIは、トゥルクと5自治体(ライシオ、カーリナ、ナーンタリ、リエト、ルスコ)で構成されています。この体制は2014年7月から始まり、その際にバス路線の大改革を行って今の姿の原型になったそうです。ちなみに、このFÖLIに2017年夏から水上バスも加わっています。またFÖLIはバス車両や運転手は保有しておらず、地域の交通事業者にバスサービスを委託しています。

FÖLIを構成する6つの自治体

利用者数はコロナ前まで増加傾向で、2010年1,986万人、2013年2,102万人、(ここでFÖLI体制へ)2015年2,438万人、2019年2,627万人、2020年1,684万人(コロナ禍で減少)となっています。
運んでいる人数すごいですね。路面電車が廃止されて今はバスで頑張っていることで有名な岐阜市(人口40万人)が1,730万人(2019年)ですから、それよりも運んでいて大したものです。

そして、投入している費用も桁違いです。

総事業費
2020年:73億円(5200万ユーロ)※コロナ禍で減便?
2019年:76億円(5400万ユーロ) 

運行収入
2020年:34億円(2400万ユーロ)※コロナ禍で減収
2019年:48億円(3400万ユーロ)

収支率
2020年:47%
2019年:63%

収支率、めっちゃいいです!びっくりです。これは市の計画で路面電車をつくろうという話が出てくるのもわかります。
ちなみに、フランスでは、パリ39.8%、地方都市平均17.3%(2013年とちょっと古いデータ)です。
もちろん、運行収入から不足する分は税金で賄っています。

委員会の方に「何故こんなに税金を投入(2020年で39億円)できるのか」聞いてみました。すると「道路や公園と同じく、公共インフラとして投資するという考えが一般的だから」と回答をもらいました。当たり前のことをちゃんとやるってこういうことですね。
また「regional land use planning(地域土地利用計画)には法的拘束力があるのに、Regional Transport Plans(地域交通計画)に法的拘束力がない」ことに悩んでいました。クルマを不便にする規制はどこの国も大変なんですよね。それにしても日本でも同じ状況なのに、公共交通への投資の違い。考えさせられますね。。。。

交通関係の行政計画(土地利用計画だけ法的拘束力がある)

素晴らしいことに、モビリティ・マネジメントアクションプラン2021-2025なんてものもあります。

トゥルク市全体の交通

では、トゥルクの都市全体では、どれくらいバスが使われていて、クルマ利用は少ないのか、データをもらったので紹介します。

結論から言うと、トゥルク含むフィンランドも日本と同様にクルマ社会です。

フィンランド各都市の交通機関分担率
  • 交通機関分担率は
    トゥルク(都市圏人口34万人)
     鉄道バス7%、クルマ59%(2017年)
    ヘルシンキ(人口63万人)
     鉄道バス18%、クルマ47%(2017年)

    日本との比較では
    盛岡(人口30万人)
     鉄道3%、バス5%、クルマ52%(2015年)
    岐阜(人口40万人)
     鉄道4%、バス3%、クルマ64%(2015年)
    熊本(人口74万人)
     鉄道2%、バス4%、クルマ59%(2015年)
    東京
     鉄道44%、バス3%、クルマ11%(2017年)
    ※比較先は独断と偏見で選んでいます。それにしても日本の地方都市はデータが古い・・(2015全国PTデータ見つけたので更新しました)
    盛岡は頑張ってますね。岐阜は公共交通頑張っている(名古屋に鉄道で行っている人が多いだけかも)けどクルマも多すぎ。熊本はもっと頑張れ。そして如何に東京がすごいかわかります。比較すると日本は公共交通に公的支出をそこまでしなくても公共交通が便利な国であると言えるかもしれません。

トゥルクの距離別交通期間分担率

トゥルクは鉄道網が貧弱なので長距離移動をクルマに取られている印象です。会議を通して、世界の都市がクルマ社会にどう立ち向かうか、悩んでいることを体感しました。

おまけに電動キックボード

フィンランドは、ものすごく電動キックボードが普及しています。まちの至る所に置いてあって、どこで借りて、どこで返しても自由です。使えるエリア、返すことができないエリアはアプリでわかります。川の中とか、歴史的なエリア(トゥルク城敷地など)は禁止エリアになっていました。私はWhimで借りてトゥルク城に停めようとしたら、駐車禁止エリアですと警告を受けてしまいました。Whimは旅行者でも借りることができるので便利です。

左:まちじゅうキックボードだらけ 中央:禁止エリア図示 右:禁止エリア説明

しかし、便利は便利ですが、課題もあります。

1つ目は景観問題です。
まちの至るところに打ち捨てられていて、明らかに景観に悪い影響を及ぼしています。特にヘルシンキでは顕著でした。美しい街並みを作ってきたこの街の人たちはどう思っているのでしょうか。

無秩序においてあるキックボード

2つ目は安全問題です。
乗車にはヘルメットが推奨されていますが、被っている人はほとんどいませんでした。また歩道にたくさんキックボードが置いてあるので歩くのに邪魔ですし、ぶつかります。また歩行者を縫って走行するので衝突事故たくさん起きているんだろうな・・・と推察します。

ちなみに行政の都市・交通担当者は現状に上記の問題意識をもっていて、よく思っていませんでした。規制緩和や法の網を潜って広まってしまっていると嘆いていました。

歩道にたくさん置いてあるキックボード ヘルメットを被らない利用者

ウォーカブルシティとまちなかビジョン

進む公共空間活用

トゥルクのまちなかは、中心地のシェアドスペース、道路空間へのパークレット設置、アウラ側沿いの河川空間活用など、ウォーカブルシティの取り組みがたくさんありました。

まちの中心地(まちなかビジョンの挿絵)
中心地のシェアドスペース
まちなかのパークレット(雨が降っていて利用者がいませんでした)
河川空間活用
川沿いのパークレット?(こちらも朝なので利用者なし)
レストランとして活用されている船(アウラ川のなか)

<2022.6.10追記>
トゥルク市のアウラ川活用は一見の価値有です。「Aurajoen ja sen rantojen käytön yleisperiaatteet (アウラ川とその河川敷の利用についての一般原則 )」を制定して、活用を認めていました。特に河川内にレストラン使用のためだけの船がたくさん置いてありました。船が大きくて橋をくぐれず、置いてあるだけになっています。作るときも船底だけ持ってきて現地で建てたそうです。原則はで、「レストラン船は、川の景観において重要な役割を果たしています。」とはじまっているところが気合を感じますw


まちなかビジョン

トゥルク市は「Keskustavisio Kaupunkistrategia 2029(セントラルビジョン 都市戦略2029」という、まちなか再生計画を作っています。
原文

トゥルク市のまちなかビジョン(表紙)

そのなかのビジョンの役割がとても良いと思ったので紹介します。

  • 年間を通じて、公共空間の向上、中心市街地の機能の統合、中心空間での活発な文化生活やイベントのための条件を確保する。

  • 市街地の居住者と雇用を増やし、市街地が有力な投資先であるという信頼を回復する。

  • あらゆる交通手段による都心のアクセス性と流動性を確保し、デジタル化やその他の新しいサービスのためのイノベーションプラットフォームとしての都心の可能性を促進します。

上記の通り、公共空間の活用、交通に関することが最上位概念に位置付けられています。(あらゆる交通となっているのが多分クルマ社会への配慮でしょうか・・・)

ビジョンの中で、いくつか事業が位置づけられていますが、2つ紹介したいと思います。

1つの目の事業は、アウラ川にビーチを作るそうですw
さすがにロードマップの後半ですが、できたらすごいですね。実現に向けて社会実験を進めているようです。

アウラ側沿いに建設予定の文化と体験ができるビーチ

2つ目の事業は、路面電車整備と歩行者空間・歩行者専用道の拡充です。
ビジョンに、「新しい公共交通システム」「歩行者専用道の拡充」を位置付けています。他にもフリンジパーキング場の設置も計画しているようです。都市計画と公共交通はセットで考えるお手本のような計画。まちなかビジョンの中にここまで強く交通のことを位置付けることは日本でも見習うべきと思いました。

オレンジ:新交通システムの整備予定線 オレンジの円:歩行者中心ゾーン P:駐車場設置
オレンジ:新交通システムの整備予定線 青:歩行者専用道の設置予定線

今後は、路面電車マスタープランは、2022年秋に完成する予定。2024年から2025年頃に路面電車の建設に関する投資決定を市議会で審議するそうです。

最後に


いかがだったでしょうか。トゥルク市は、街のいたるところで工事をしていて元気な街だなぁと思ったら、こんな立派な計画と立派な公共交通で成長を続けている街だと言うことがわかりました。楽しんで読んでもらえたら幸いです。

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