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「異国」(中島みゆき)アイデンティティ喪失からの脱却。

中島みゆきの「異国」という歌詞は、故郷やアイデンティティ、帰属意識に対する深い葛藤と喪失感が描かれています。主人公は、自分が生きてきた町や故郷に対して拒絶され、帰る場所がないという孤独な心情を吐露しています。この歌詞では、故郷への愛憎、存在の根拠を失った不安定な自己、そしてその中で生き続ける葛藤が強く表現されています。

1. 「ふるさと」の喪失

「とめられながらも去る町ならば ふるさとと呼ばせてもくれるだろう」

この部分では、もし自分を引き止めてくれる町があれば、それを「ふるさと」と呼ぶことができたかもしれないという願望が語られています。しかし、主人公はそういった町を持たず、自分が育った場所からも拒絶されていることが暗示されています。「ふるさと」とは本来、愛着を持ち、戻るべき場所であるはずなのに、それを主人公は持てないという状況が描かれています。

2. 町に拒絶される存在

「二度と来るなと唾を吐く町 私がそこで生きてたことさえ 覚えもないねと町が云うなら 臨終の際にもそこは異国だ」


故郷が主人公を拒絶し、そこで生きたことさえも忘れられているという悲しみが語られています。故郷にとって、主人公の存在は無価値であり、そこに自分の居場所はないことが強調されています。もし故郷から拒絶されるならば、その土地は死の際にさえ「異国」であり、自分が安住できる場所にはならないという孤独感が浮かび上がります。

3. 居場所を求める苦悩

「百年してもあたしは死ねない あたしを埋める場所などないから」


ここでは、主人公が居場所を見つけられずにさまよう姿が描かれています。自分を埋める場所、つまり自分が安らぎや安心を感じられる場所が見つからないため、永遠に生き続けるような感覚を持っています。死ねないという言葉は、アイデンティティや帰属感を持てないことへの苦しみと繋がっています。

4. 故郷への矛盾した感情

「悪口ひとつも自慢のように ふるさとの話はあたたかい 忘れたふりを装いながらも 靴をぬぐ場所があけてある ふるさと」


故郷に対する矛盾した感情が描かれています。自分を拒絶したはずの「ふるさと」に対して、どこかで温かさを感じており、そこに戻りたい気持ちが消えません。それにもかかわらず、自分はその温かさを感じる資格がない、戻るべき場所がないと認識しているという複雑な感情が浮かび上がります。

5. 永久に終わらない帰り支度

「百億粒の灰になってもあたし 帰り支度をしつづける」


主人公は、自分の居場所を見つけることができず、帰る場所がないまま死後もさまよう運命にあります。たとえ体が灰となっても、心は常に帰る準備をしているという永遠の帰属感の欠如が強調されています。このフレーズは、自分が戻るべき場所がどこにもないことへの絶望を強く表しています。

6. 異国の象徴

「町はあたしを死んでも呼ばない あたしはふるさとの話に入れない」


町が自分を呼ばない、つまり故郷が自分を受け入れないという苦しみが再度語られます。故郷の話に入れないということは、自分が故郷に対する一体感を持てないことを意味しており、結果的にその場所は自分にとって「異国」であるという認識に至ります。ここでは、故郷とアイデンティティが切り離されてしまった主人公の孤独感が表現されています。

総括

「異国」という歌詞は、故郷に対する強い愛情と同時に、拒絶され、居場所を持てない孤独な心情を描いた作品です。故郷という安らぎの象徴が、主人公にとっては異国と同じく遠い存在になってしまい、永遠に戻ることができないという悲しみが貫かれています。この歌詞は、帰属感やアイデンティティを失った人々の苦悩を表し、自分の居場所を見つけられないという孤独感を深く掘り下げています。

なぜ主人公(わたし)はこんな風になってしまったのか?

主人公がこのような深い孤独感や喪失感に陥ってしまった理由について、いくつかの要因が考えられます。歌詞全体から読み取れるのは、**故郷や社会とのつながりが断たれ、居場所を失ってしまったという状況**です。以下、その理由をいくつか探ってみます。

1. 故郷からの拒絶

主人公は、自分が生まれ育った町、つまり「ふるさと」に対して拒絶されたという感覚を持っています。故郷が自分を引き止めてくれるどころか、二度と来るなと唾を吐き、そこに自分が存在したことすら覚えていない、という認識が歌詞に表れています。このように、自分が過去にいた場所でさえも、存在を否定されるという経験が、主人公を深く傷つけ、帰る場所がないという孤独な感情を生み出しています。

2. アイデンティティの喪失

「町はあたしを死んでも呼ばない」「あたしはふるさとの話に入れない」という部分から、主人公は自分のアイデンティティの一部であった「ふるさと」に帰ることができず、そこに自分の存在が認められないという強い喪失感を抱いていることが分かります。人は、故郷や家族、友人などのコミュニティを通じて、自分が誰であるかを感じ、確立します。しかし、主人公はその「ふるさと」にさえ受け入れられず、自分がどこに属するのかを見失っている状態です。これが、彼女が「異国」にいるような感覚に陥ってしまう原因です。

3. 帰属意識の欠如

「帰り支度をし続ける」というフレーズからも、主人公が常に「帰る場所」を探している様子が伺えます。人間は、精神的な安定や安心を感じるために、どこかに帰属したい、居場所を持ちたいという欲求があります。しかし、主人公はどこにもその「帰る場所」を見つけられず、常に彷徨っている状態です。たとえ故郷が存在しても、そこが自分を受け入れてくれるとは限らず、むしろ拒絶されていると感じているため、安心して自分を預けられる場所がありません。

4. 過去の記憶や関係の断絶

「町が私を覚えていない」という表現は、過去に築いた関係や記憶が切り離されてしまったことを示唆しています。ふるさとやかつての生活は、今では主人公にとって遠い過去のものとなり、誰も自分の存在を覚えていないという孤独感を強調しています。過去のつながりが消え去ってしまうことは、精神的な支えを失うことを意味し、それが彼女をより一層孤立させています。

5. 外部との断絶

「ふるさと」の喪失だけでなく、周囲の人々からも孤立していることが感じられます。町や人々は主人公を「呼ばない」し、彼女がそこで生きていたことを「覚えていない」という表現は、彼女が社会やコミュニティから疎外されていることを示唆しています。社会からの疎外感は、自分の存在意義を見失わせ、さらなる孤独感を招きます。

6. 存在を否定される感覚

この歌詞では、主人公が自分の存在が否定される感覚を強く持っています。「あたしはふるさとの話に入れない」「あの世も地獄もあたしには異国だ」という表現から、自分の居場所がどこにもなく、過去も未来も存在しないような感覚に陥っています。これは、主人公が自分自身の存在価値を見出せなくなっていることの象徴です。

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結論

主人公がこのような感情に陥ったのは、故郷や社会からの拒絶、過去の関係の断絶、そして自分のアイデンティティや居場所を見失ったことが原因です。帰る場所を失った主人公は、孤独の中で常に帰属を求めながらも、その答えを見つけることができずに苦しんでいます。これが「異国」というタイトルに象徴されるように、自分にとって故郷さえも遠く、馴染みのない場所であるという深い喪失感と孤独感を生み出しています。

解決方法はあるか?

断絶された世の中で主人公がうまく生きていくための、具体的な方法として以下の点が考えられます:

1. 自己理解を深める

自分の感情や思考を内省し、なぜ自分が孤独を感じているのかを掘り下げる。日記を書く、瞑想するなど、自分の心と向き合う時間を定期的に設けることで、自己理解を深める。

2. 新しいコミュニティを探す

自分に合った新しいコミュニティを見つける。オンラインや趣味を通じて、共通の関心を持つ人々とつながることができる。自分の背景や過去にこだわらず、新しいつながりを築いていく。

3. 自己肯定感を高める

小さな達成を積み重ねて、自己肯定感を少しずつ高める。自分の強みや得意なことに焦点を当て、自分を肯定する習慣を持つ。失敗しても自己批判に陥らず、自分を許すことも重要。

4. 過去に囚われすぎない

故郷や過去に執着することを減らし、未来に目を向ける。新しい経験を通じて、自分のアイデンティティを作り直す意識を持つ。過去に固執せず、変化を受け入れることで、心が軽くなる。

5. 自己表現を大切にする

自分の感情を芸術や創作活動、趣味に表現する。音楽、絵画、文章など、自分が孤独を感じたときに心を表現できる手段を持つことが、心の安定に繋がる。

6. プロフェッショナルのサポートを受ける

孤独や疎外感が深い場合、カウンセリングやセラピーを受けることで、心のサポートを得る。第三者の視点からアドバイスを受けることで、新たな気づきが生まれることもある。

これらを実践することで、主人公は他者からの承認に依存せず、自分自身で前に進む力を得られるでしょう。

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