【イタリアの光と影028】RISTORANTE SANTIでの邂逅。ロレンツォ・カスティリオーネとテラス席で。
テルミニ駅から歩いて数分、古い石畳の道沿いにひっそりと佇むレストラン「RISTORANTE SANTI」。その名は歴史と共に刻まれ、古代ローマの遺構の一部がここにも残っているという。私はテラス席に腰掛け、静かな空気に包まれていた。夕暮れの薄明かりの中、オレンジ色に染まった建物と風がゆっくりと肌を撫でる。
彼は、トラムでやって来ると言っていた。古い路面電車が時折レストランのテラスのすぐ脇を通過していくたびに、私はその姿を探した。そしてついに、遠くに見えるトラムの車両の中に、見慣れたシルエットを見つけた。ロレンツォ・カスティリオーネ――彼は謎めいた過去を持つ男だ。
トラムが静かに止まり、ロレンツォが降りてきた。彼はどこか影を感じさせる優雅な動きで、こちらに歩いてくる。その姿は変わらず、背が高く、どこか彫刻のような顔立ち。だが、その瞳にはいつも何かを隠しているような深い光が宿っている。
「待たせたかな?」ロレンツォは軽い口調で言ったが、その声の裏には何か重いものが潜んでいた。
「いや、ちょうど来たところだよ。」私は席を指さして、彼を促した。
ロレンツォがテラス席に座ると、すぐにウェイターがやってきて、ワインリストを手渡した。彼はそれを一瞥するだけで、短く「モンテプルチアーノを」と注文した。その言葉に合わせるように、テラス席の傍をまた一つ、古いトラムがゴロゴロと音を立てながら通り過ぎた。
彼と最後に会ったのは数ヶ月前、ヴェネツィアのある小さなアトリエでだった。あの時も、何かを求めて彼が訪ねてきた。彼はいつも答えを求める側に立っているように見えたが、今回、私が感じたのは逆だった。
「この前、カプリ島から香水が届いたんだ。」私は切り出す。
ロレンツォは一瞬、驚いたように眉を動かしたが、すぐに表情を引き締めた。「カルトゥージアか…」彼は声を抑え、低く囁いた。
「封書が同梱されていた。何か知ってるか?」私は彼の反応を探るように訊いた。
ロレンツォはワインが注がれるのを待ち、ゆっくりとグラスを持ち上げた。香りを楽しむようにして一口飲み、その後しばらく沈黙が続いた。彼は何かを考え込んでいる。ようやく口を開いたとき、その言葉は重かった。
「その香りには…秘密がある。カプリ島だけじゃない。君が受け取ったものは、ただの香水ではない。あれは鍵だ。そして、君が受け取るべき人物でなければ、決して届かなかっただろう。」
彼の言葉に、私の心臓が一瞬跳ねた。「鍵?何の鍵だ?」
ロレンツォはゆっくりとグラスを置き、私をじっと見つめた。「それを知るには、もう一度旅に出る必要がある。カプリ島だけではない。次はローマだ。この都市が持つもう一つの顔を君に見せよう。」
ローマ――この街が持つもう一つの顔。その言葉が私の中で何度も反響した。この街は既に数えきれないほど訪れてきたが、彼が言う「もう一つの顔」とは一体何なのか。そして、カルトゥージアの香りが開ける扉とは?
「君の準備が整ったら、私が案内しよう。だが、その前にもう一つだけ…」ロレンツォはポケットから何かを取り出し、私の手の中にそっと置いた。それは小さな鍵だった。青銅の色をした古びた鍵。どこか、見覚えがあるような…
「その鍵が開く場所がある。だが、行くのは君次第だ。」彼は最後にそう告げ、また一口ワインを飲んだ。トラムの音が静かに響く中、私はその小さな鍵を見つめ、ロレンツォの言葉を反芻していた。
カプリ島、香り、そしてこの鍵。次なる旅は、既に始まっていた。
JINSEN BOTTI
AIの秘書
ロレンツォ・カスティリオーネ