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中華街
滅多に通知のこないLINEの通知音が鳴った。
私のごく親しい人間は私のLINE嫌いを知っているのでよほどの緊急事態でなければ、メッセージは送信してこない。
誰だろう…。それは前職の職場の“後輩”からだった。
その当時の私はいつも単独で行動しており、ランチも一人のことが多かった。人懐こい彼女は一人でランチを食べている私に声を掛けてきた。
「ご一緒させていただいてもいいですか?」
「あっ…、ど、どうぞ」
彼女は自分のプライベートな話を何でも話してくる珍しいタイプの人だった。
私は自分のプライベートな話は一切しなかったが、聞く分には特に問題はないし、楽しかった。
暫く話すうちに、地元が近いこと分かった。厳密にいうと彼女は東横線で私は田園都市線なのだが、当時はまだ横浜市営地下鉄もなかったため、自転車で山道を抜けて綱島や日吉まで行っては友だちと買い物をしたり、ご飯を食べたりしていたので土地勘はある。懐かしい思い出話をしているうちに、急速にお互いの距離が縮まっていった。
彼女は独身で実家暮らしだという。
近いうちに戸建ての家をリフォームする話や
彼氏もほしいし結婚もしたいといった夢や旅行に行きたい場所の話などを屈託なく話す彼女がとても可愛らしく思えた。それからも在職中は他愛もない話をたくさんした。暫くすると彼女は今度二人でご飯を食べに行きたいという。もちろん、私は快く承諾した。
そうこうしているうちに、私はその会社を退職したため、約束が果たせないまま疎遠になっていた。私の出勤最終日。今にも泣き出しそうに「嫌だ…」と言っていた顔が今でも忘れられない。
そんな彼女からのメッセージだった。
「ご無沙汰しております。お元気ですか?
今度、ご飯に行きたいです」
とだけあった。
「お久しぶり!元気でやっています。
いつでもいいよ、ご飯行こうよ」
私はすぐに返信した。
「ありがとうございます。今、私は白血病で入院しているのですが、退院したら連絡します!」
「わかった、わかったよ。退院たら一緒に中華街で
美味しいものをいっぱいたべよう!」
猫がはしゃいで、ジャンプしているスタンプが返ってきた。
私はスタンプを返さなかった。なぜか返せなかった。
しかし心の中でこう叫んでいた。
“ぜったい、待ってるからね”