とりわけっ子
あなたのご飯はこのくらい、と定義するようでなんだか取り分けるのは苦手だ。
だから、焼き肉も、すき焼きも、お鍋も、大好物だけど、不確かな関係性で食べるご飯は寿司が一番だ。
とはいえ、寿司はお金がかかるので、どうしたって、とりわけっ子が必要だ。
とりわけっ子は大体どんな組織にも存在する。なんとなく、どうする?という雰囲気が流れた空間で、率先してとりわけ始める存在。
誰か偉いひと、みんなでつついてこう、と一言いえばいいのに。
男の人でそれを言う人はいない。
男の人で、とりわけっ子はまれだ。
でも、今日のとりわけっ子は男の子。
さっき、初めてあったどこの人か知らない人。
気心の知れた人同士の新年会のはずなのに、誰かがしれっと紛れ込ませていた。
いつも、この人たちとご飯の時は、各々つつくスタイルなんだけどなあ、とぼんやりと思いながら、パキパキと取り分けていく彼を眺めている。
連れてきたはずの誰かはすっかりお酒に飲まれて、誰も彼もべろんべろんだ。
「そろそろ締めますか」
とりわけっ子の彼が、そうぼそっと言う。
誰も聞いちゃいない。
彼が取り分けた料理が、どの取り皿にも少しずつ残っていて、とっても寂しそうだった。
もらったお会計は、思っていたより金額が行っていたけれど、彼の払います、という言葉を遮って、彼以外の全員で割り勘する。
すみません、店を出ながら彼が、ひっそりと伝えてきた。
そのとき、ようやくちゃんと彼の顔を見た。
困った顔、2時間近く見続けていた綺麗な彼の手がリンクする。
こうやって、どこでも生きているんだろうな。
こうやって、みんなから好かれるんだろうな。
天邪鬼になる心だけ残して、ずっと取り分けてくれたから、ありがとう、と一言言った。
彼が、いつか、とりわけっ子をやめられる場所に巡り合えますように。