【検証】ヴィクトリアマイルで何が起こったのか

※火曜AMには上げないと鮮度落ちるよなぁと思って、結構殴り書きみたいになっていますが、ご了承ください。。


ヴィクトリアマイルは単勝ブービー人気の馬が勝つという大波乱となりました。

これは無理と白旗をあげる方もいれば、
テンハッピーローズは拾った、という方もいました。

自分が当てられなかった主要因は明らかで、
「想定ペースの違い」にあります。

2024年 ヴィクトリアマイル ラップ
12.2-10.5-11.1-11.6-11.4-11.6-11.7-11.7
前半3F 33.8秒 前半5F 56.8 レース上がり 35.0

前半はハナ争いにこだわり過ぎた結果なので、致し方ない部分もありますが、中盤についても、何故緩めなかったのか理解に苦しむ11.4-11.6の23.0秒。

逃げたコンクシェルはもはや1200m以上全力疾走していたような状態です。1,200m 1分8秒4、1,400m 1分20秒1はいずれもそれぞれの距離での時計としても遜色ありません。暴走逃げと言っても良いと思います。

そんなペースになれば、前提条件は破綻します。
想定とは真逆の適性の馬たちが来ることになります。

実際、2着馬はフィアスプライドはあくまで押さえの△、3着馬マスクトディーヴァはこの中では上位として評価していましたが、1、4、5着馬はすべて消していました。自分が想定している、例年のようなペースであれば、理屈では馬券内に来れるハズがないからです。

では、今回のヴィクトリアマイルで何が起こっていたのか、をラップ、そして馬場差の観点から解説していきます。


§1:好走レンジで分かる「異常」な結果

NHKマイルCでも紹介した「好走レンジ」ですが、馬場差と中盤を補正することにより、「好走レンジ内に入る=例年通りの傾向」である、ということを示します。

一方で、いくら馬場差と中盤を補正しても、どうしても例年の傾向からハズれるケースも存在します。

傾向からハズれるケースの実例

例えば、朝日杯FS。
GⅠとは言え、まだ数戦戦っただけの馬が多いために、レベルが一定でないケースが多く、馬券内に入った割に変な位置になっているものがあります。

基本は真ん中より下の方に、印が集まっていますが、いくつか、その集団からえらく離れているものがあるのが分かると思います。これらが、異常値になります。

ちなみに、黒い部分を好走レンジと定義していますが、これには理由があります。4つの角を形成しているのが、
・サリオス
・ステラヴェローチェ
・グレナディアガーズ
・ステルヴィオ
だからです。この面々を見れば、説明は不要ですよね。とは言え、他のレースと比べてレンジがえらく広い。これは、2歳時点での能力差もあると思われるので、この辺りは致し方ないと思います。

※ステラが32秒使えるわけないじゃんとつっこみがありそうですが、あくまで、これくらいで走れれば馬券内だよという範囲を表しており、その馬自身の能力を表しているわけではありません

で、青丸で囲ったグループ、これは2022年組です。
「あぁ…」と思った方もいるでしょう。そう、低レベルと言われて久しい現4歳世代です。

1着ドルチェモア、2着ダノンタッチダウンは3歳になって以降、馬券内が一度もなし。3着レイベリングは条件戦を連勝しますが、トップスピードが低い。そのため、東京では馬券内に入れず、オープンに上がっても苦労しています。

例年の好走ラインから大きく外れていた2022年組

また、青丸の左下に*が2つありますが、これは2019年組。2着のタイセイビジョンと3着のグランレイです。

タイセイビジョンは2022年組と比べれば、NHKマイルCや富士Sでもそこそこの着順までは来ていましたが、花開いたのは1,200m。グランレイは未だ条件馬ですが、やはり1,200mを主戦にしています。

つまり、「傾向からハズれる馬」というのは、
本来はそのレースの適性外であるのにも関わらず、何らかの要因によって馬券内に来てしまっている状態を表しているわけです。

そしてその要因というのは、「ペース」であったり、或いは「相手関係」であったりするわけです。


で、今年のヴィクトリアマイルは?

では、これを踏まえて、今年のヴィクトリアマイルの上位3頭を好走レンジに当てはめて見てみましょう。
※馬場差と中盤は今回のヴィクトリアマイルの結果を反映しています

先にご覧いただいた朝日杯FSと同様、好走レンジから完全に外れていることが分かります。
NHKマイルCではジャンタルマンタルが好走レンジの中にしっかりおさまっていたのとは対照的ですよね。

つまり、今年のヴィクトリアマイルは、3頭すべてが例年の傾向から外れる異常な決着だった、と言えます。その要因は一体何なのでしょうか?


§2:比較で分かる今年のレースレベル

5/13緑のチャンネルで放映された「先週の結果分析」にて、今年のヴィクトリアマイルは、馬場差が-1.8だったと発表されました。

過去にこの馬場差と同じだった年があります。2019年です。

2019年 ヴィクトリアマイル出馬表

この年は、アエロリットが積極的にレースを運び、ラップは以下のようになりました。

2019年 ヴィクトリアマイル
12.3-10.6-10.8-11.1-11.3-11.2-11.5-11.7
前半3F 33.7秒 中盤22.4秒 レース上がり 34.4秒

2024年 ヴィクトリアマイル
12.2-10.5-11.1-11.6-11.4-11.6-11.7-11.7
前半3F 33.8秒 中盤23.0秒 レース上がり 35.0秒

奇しくも、前半3Fは今年とわずか0.1秒差。中盤は2019年の方がさらに締まっています。馬場差が同じであることを考えれば、今年よりも2019年の方がもっと厳しいレースになっていると言えます。

ですが、、馬券内に入った3頭の前半3Fと上がり3Fを比較すると…

お分かりいただけただろうか・・・?

2019年の上位3頭は、今年の1着馬よりも前半3Fを速く走りながら、上がり3Fも速く走っています。しかも、中盤は2019年の方がさらにペースが締まっているにも関わらず、です。

つまり、今年のレースレベルは2019年と比べてかなり低い、ということです。さらに言うと、今年の1着馬は、2019年では2桁着順の数値になっています。

ちなみに、NHKマイルCも同じ馬場差-1.8です。
中盤が緩んでいるため、補正が必要ですが、その補正をしてもジャンタルマンタルの方が恐らく上ではないかという計算になっています。

いかに今年のレベルが低かったか、を物語っているのではないでしょうか。


§3:テンハッピーローズが勝った理由

なるほど、今年が異常な結果であったことは分かった。そしてレースレベルはかなり低い可能性が高い。でも、何故テンハッピーローズが勝ったんだ?何が起こったんだ?こう思う方は多いでしょう。

「レースレベルが低かったから馬券内に来れた」も間違いではありませんが、十分な説明とは言えません。

ポイントは大きく2つあると考えています。

①1,400m質のラップ
②掛かったレース上がり

何のことかわかりづらいと思うので、順立てて説明していきます。


①1,400m質のラップ

今回、テンハッピーローズが勝った時点で、ある程度ペースがきつかっただろうというのはすぐに見当がつきました。

その理由は端的にいうと、以下のポスト。

そのミナレットの年というのが2015年で、その時のラップがこちら。

2015年 ヴィクトリアマイル
ラップ 12.1-11.0-11.2-11.2-11.4-11.2-11.6-12.2
前半3F 34.3秒 前半5F 56.9 レース上がり 35.0

2024年 ヴィクトリアマイル
ラップ12.2-10.5-11.1-11.6-11.4-11.6-11.7-11.7
前半3F 33.8秒 前半5F 56.8 レース上がり 35.0

前半3Fこそ、2015年は多少遅いですが、中盤は今年よりもさらにキツい22.6秒。これにより、1,000mはほぼ同じタイム、レース上がりも同じ35.0秒となりました。

人によっては、このレースを「1,400m質のレース」と言います。

たかだか200mしか違わないじゃないか?何が違うんだよ?と思う人もいでしょう。しかし、この200mの違いが実は非常に大きな差になるんです。

以下は、2020年以降OP以上のレースでの前半3F/5Fのタイムを1,400mと1,600mで分けて集計したデータです。

芝1,400mのOP以上のレース
前半3F平均 34.3秒 1F平均11.5秒
前半5F平均 57.3秒 ※中盤平均23.0


芝1,600mのOP以上のレース
前半3F平均 34.9秒 1F平均11.7秒
前半5F平均 58.5秒 ※中盤平均23.6

1,400mと1,600m、意外に結構なタイム差があると思いませんか?

前半3Fが34秒台前半、5Fが57秒台前半、しかも中盤も緩まず、11秒台前半が連発するレースラップ。
こういうレースを「1,400m質のレース」と言い表します。
こうなると何が起こるかというと、、、

1,600m主体の馬は、いつもよりキツイペースで走ることになるため、
脚を削られ、上がりが掛かるわけです。

一方で1,400m主体の馬は、いつもと同じペースで走るため、キツくはない。あとは200mの距離延長がどれだけ影響するか、にかかってきます。

とは言え、いつもより速く走る分、1,600m主体の馬の方がキツさは上。

特に、追走力がそこまで高くない馬、或いは中盤で脚を溜めて、ラスト600mでのスパートに勝負を賭けたい馬は、相当にしんどいハズです。

しかも、§2で触れた通り、今年はレベル自体がかなり低かった。
全体的に追走能力が低い馬ばかりだったことで、相対的に浮上してきたのがテンハッピーローズだったというわけです。


②掛かったレース上がり

そしてもう1つのポイントがレース上がりです。

今年のレース上がりは35.0秒でしたが、これより遅かったのは、今年を除く過去16回の内、たったの2回。1回は先程のミナレット。そして残る1回は2011年でした。

さらに面白いのは、それ以外の年のレース上がりは34.4秒より速いレースばかり。非常に極端な傾向になっていますよね。

では、何故レースの上がりが掛かったらテンハッピーローズが来るか?というと、テンハッピーローズの32秒台の上がりは、前半3Fが36秒台とかなり後方で構えているからこそ出せるものだからです。

①で書いた通り、1,400mの平均前半3Fは34.3秒です。2秒近くも遅く走って、勝てるほどオープンクラスは甘くありません。
テンハッピーローズが32秒台を出せる時は、普段上がりが使えない馬でも33秒台が使えます。

例えば、パラダイスS。

上がり32秒台を使って3着でしたが、逃げていたメイショウチタンと、テンハッピーローズとの差は最初の600mで1.4秒の差が開いていました。これを差すためには、上がりで1.4秒以上の差をつけなくてはならないわけです。

パラダイスSの決着構造

この時出した32.7秒という上がり、確かに非常に速いのですが、この時、メイショウチタンもキャリアハイの上がり33.8秒を使っています。その差は-1.1だったため、メイショウチタンを交わせずに0.3秒負けています。

つまり、京王杯SCのレッドモンレーヴのように、どんな状況でも前を飲み込むような上がりの脚ではない。

こういう場合、上がりの脚は武器にならないため、むしろ控えた方が有利な展開、例えば前潰れレースや厳しい展開のレースの方が好ましいとなるわけです。(だからこそ、通常のヴィクトリアマイルの決着ではまず来られない適性の馬なのです)


また、阪神牝馬Sはかなりのスローだったわけですが、それで上がり3F33.2秒。200mの距離延長で32秒台前半のような上がりはまず使えないということはほぼ確定的でした。

しかも、同じ位置にいたウンブライルよりも上がりが0.3秒遅い、自分より前にいたシングザットソングと同じ上がりでは、1,600mに延長しても上がり上位の脚を持っているとは到底言えません。(内の馬場がダメだったという意見もありますが、その翌週は内を通った馬がダメではなかったと思います)

つまり、1,400mを主戦場にしている馬の中では上位の上がりを使えるが、200m延長すればそれが薄れる、という印象です。

テンハッピーローズを押さえた理由としてよく挙がっていたものの一つに、「32秒台の上がりが使える」というのがありましたが、ここまで来れば、根拠としては変だと分かるでしょう。

むしろテンハッピーローズの強さは、1,400mで上位には来られる基礎スピード(追走力)の高さにあり、上がりが掛かることで相対的に浮上してくる、という見解を以て押さえるのが論理的に正しい結論になります。(そして同時に、スローペースで押さえるような馬ではないことも分かります)

EXTRA

ちなみに、他にも色々な理由が挙げられていましたね。

例えば、サウスポーだからという理由。
左回りと右回りで、何が、どのくらい変わるのでしょうか?そういったデータがない以上、憶測にすぎません。
※これは個人的な意見ですが、回りがそのままコース構造や求められる適性と密接に結びつくため、ただ「右回りだから」「左回りだから」というのはほぼ理由になっていないと考えています。

また、左回りが良いなら、何故中京1,400mでは負けているのでしょうか?
何故、得意な東京のオーロCで6着に敗れているのでしょうか?
右回りが苦手なら、六甲アイランドSは?
これら1つ1つにきちんとした説明が出来ないのであれば、納得させられる説明とは言えません。


§4:ナミュールの敗因

戦前から指摘していた通り、ナミュールは上がりの脚が突出して速いわけではありませんし、ここ数戦の好走は適性が向いていたことが大きい。

(前略)ラップが不明なドバイ以外、全部適性が向いているんですよね。

富士Sは前半3F34.0秒で中盤も全く緩まなかった、とてつもない持続力レース。32秒台の上がりは必要ない、というかどんな怪物でも出ません。
ここでの持ち時計は確かに優秀なのですが、このレースはほぼ一息もつくことなく、ひたすら走り続けて出た時計であって、ヴィクトリアマイルとは全く異なる性質のレース。再現性は皆無です。

マイルCSは京都開催終盤で馬場はボロボロ。馬場差-0.1で時計が掛かり気味で、これまた上がり32秒台は必要ありません。同様に持続力レースが得意なソウルラッシュが2着に来たのもその証左です。

香港マイルは洋芝ですし、説明不要でしょう。

というわけで、秋以降、連続して重賞で馬券内に入り続けていますが、あくまで馬場やペースが、ナミュールの適性と合致しているからに過ぎません。(これはソウルラッシュも同じで、安田記念では凡走すると見ています)

「2024年版ヴィクトリアマイル(GⅠ)考え方」より

昨年のマイルCSで上がり33.0秒を使って、後方から一気に前を飲み込みましたが、このレースはそもそも前潰れ

見た目のインパクトに惑わされる人が多いですが、後方一気が決まる時は、前が止まっているケースが多くの割合を占めます。つまり、展開利が起こっているわけです。

馬場がボロボロで飛ばせば前が止まる京都と、超高速馬場で前が止まりにくい東京とでは、状況が違いすぎますから、後方一気を決めようとしても、その通りになるわけがありません。

特にナミュールの場合、高速馬場で32秒台の上がりを使うような馬ではなく、速い脚をジワジワと持続させる馬ですから、東京で好走するためには位置をとることが絶対条件になるわけです。

故に、今回の敗因は「スタートの出遅れ」にあります。
今回のナミュールの個別ラップを見てみると、以下のようになっています。

ナミュール個別 前半3F 36.0 ⇒ 中盤 22.5 ⇒ 上がり3F 33.8
レース     前半3F 33.8 ⇒ 中盤 23.0 ⇒ 上がり3F 35.0

上がりが遅いなと感じたかもしれませんが、上がり3F33.8秒はこの状況下で出せるナミュールの限界値だと思います。

そもそも、マイルCSでの中盤は23.9秒。GⅠのマイルレースとしては遅い部類です。上がりの脚が溜まっているのも当然ではないでしょうか。

また、昨年と比較しても、

今年/ナミュール 前半3F 36.0 ⇒ 中盤 22.5 ⇒ 上がり3F 33.8
昨年/ナミュール 前半3F 35.1 ⇒ 中盤 24.2 ⇒ 上がり3F 33.5

今年よりも昨年の方が上がりは速いですが、それは中盤が緩んだから。

一方、今回はレースの中盤が23.0秒。しかも、上記の通り、そこからさらに0.5秒も速く走っています。

恐らく、出遅れのリカバリーのために少しジワジワ位置を上げていたためと思われますが、中盤から、1,000mを全速力で走っているような状態では、マイルCSのような上がりを出せるはずがありません。

キャリアハイの上がりが33.0秒で、元々上がりの脚に限界があるタイプですから、それよりも過酷な条件で同じような上がりの脚が使えると望んでも、無理があるというものです。

状態が良くなかったのでは?という意見も見られますが、
計算上、昨年のパフォーマンスを今年の馬場差・中盤に補正して当てはめても、恐らくほぼ同じような上がりになっていたという結果になっており、著しく状態が悪かったとは到底思えません。

たまにこの手の「敗因がわからない」「本来の脚ではなかった」系のコメントを見ますが、馬がどんな状況でも自身の上がりを使える機械か何かと思ってるのかなと不思議に思います。


§5:その他の馬について

2着 フィアスプライド

中盤の緩みが少ないターコイズSを先行押し切りしているように、持続力のレースには強い馬です。

この枠なら、ルメール騎手が先行させて粘ることを選ぶであろうことは分かっていたので、本来なら上がり勝負では適性外も、持続力で粘る可能性を考えて押さえてはいたという具合です。

3着 マスクトディーヴァ

色々不利はあったようですが、位置をとれたことで何とか能力でここまで浮上させた、という印象。

そもそもマイルが合ってはいないので、中距離に回った方が良いと思います。

4着 ドゥアイズ

上がりが掛かると必ず上位に来る馬です。なので、この馬が上位に来ている時点で上がりが掛かっているレースだと言えます。

もちろん、リゲルSで33.1秒で2着に来たこともありますが、この時のレースレベルは壊滅的なので、ドゥアイズでも来れてしまったと解釈するのが良いです。

ウンブライルよりも出せる上がりのスピードは低いですが、基礎スピードそのものは高いので、阪神牝馬Sでは負けて、今回先着しているのはこういった理由です。

5着 ルージュリナージュ

元々スピード能力に乏しいので、普通に追走していたら脚を使って終わりでしたが、今回は最後方に控えて脚を溜める形に。

そこに、先行した馬たちがバテるようなペースになったことで、相対的に浮上してきたと言えます。


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