宝塚記念(GⅠ)の考え方
JRAの指定席が徐々に新サイトへ移行しておりますが、
新サイト、めちゃくちゃ使いづらい気がするのは私だけでしょうか。特にGⅠの先着発売における挙動はどうなのかと。。
旧サイトだと、GⅠ先着発売でもほぼ一発で入れるタイミングがあるのですが、その技が使えないのは本当にしんどい…。
とまぁそれはともかく、いよいよ上半期最後のGⅠとなりました。
現役最強馬とも言われるイクイノックスの参戦により、Twitter界隈は異様に盛り上がっておりますが、
こういう時こそ、断片的なデータを引っ張り出して考えるのではなく、冷静に大前提から考えていくことが大事です。
特に、先週の阪神の馬場は、昨年・一昨年と比べてもかなりの高速化が見られました。下の表は、過去3年の宝塚記念前週の代表的なレースの馬場差と宝塚記念当日の馬場差をまとめたものです。
この馬場差は、グリーンチャンネルの先週の結果分析で発表されているものですが、かなり信頼できる数値なので、使っております。マイナスの数値が高くなる程馬場は軽くなります。
見れば分かりますが、垂水SもマーメイドSも過去2年よりマイナスの数値が高い、つまり馬場が軽いですよね。ちなみにマーメイドSの-1.7は、私が参考にしているサイトに残っている記録の中で最軽タイです。
で、今週はちょっとした雨予報はあるものの、今のところは大きな降雨はなさそう・・・ということで、本当に、例年の宝塚記念のイメージで予想をして良いのでしょうか?
宝塚記念の傾向
改修を潮目に変わりつつある傾向
さて、宝塚記念と言えば、
破天荒な馬が世紀の大出遅れをかましたり、
香港から急遽参戦した馬の馬体重が-27kgだったのに2着来たり、
断然1番人気の馬が前半から競りかけられまくって沈没したり、
直前に大雨が降って、いきなり重馬場巧者が馬券内きたり、
なかなか荒れるイメージの強いGⅠ。
梅雨時期で雨が多く、芝が傷んで時計が掛かることも大きな要因でした。
が、京都競馬場の改修を機にこの傾向に変化が出ているのをご存知でしょうか?
以下の宝塚記念の過去ラップの「馬場差」を見てください。
2020年以前は2017年の-1.1が最もマイナス方向、つまり馬場が軽い状態にありましたが、2021年、2022年はそれを超える馬場差-1.4、-1.5。しかも2年連続で軽い。
2020年秋から京都競馬場が改修に入り、阪神競馬場でのロングランが必至となったことで阪神の馬場整備方針も大きく変わり、梅雨時期のこの開催でも阪神は高速馬場が標準になってきたのです。
実際、6/18開催のレースでも明らかな馬場の高速具合が見て取れます。
もちろん、高速馬場だから33~34秒台の上がり勝負になるとか、そういうことではありません。いくら高速馬場と言えど、ラップの構成次第では上がりが当然のように掛かることは、マーメイドSをご覧になれば分かることでしょう。
では、何が言いたいかというと、以前のようにタフなだけではダメだということです。
同じ舞台でタフなレースになったケースと言えば、去年や一昨年のエリザベス女王杯が挙げられますが、ああいう決着にはなりづらいでしょう。
良馬場の可能性が高い以上、むしろしっかりとしたスピード能力が求められます。
過去の傾向やイメージのままで、今年の宝塚記念の予想をするのは果たして正しいのでしょうか?
阪神内回りコースの鉄則
では、どう考えていくのが良いか…ですが、実はこうした高速馬場の方が考え方は逆にシンプルになります。
馬場が重かったり、荒れていたりすると、どういうペースになるかわかりづらいですし、ペースに対する負荷もつかみづらいのですが、高速馬場であればペースも、ラップに対する負荷も読みやすくなります。
下の表は過去15年分の宝塚記念3着以内の馬の脚質表です。
近年良馬場で開催され、馬場差もマイナス方向だった2022年、2021年、2019年を見ると…
ほぼ逃げ、先行馬で固まっております。なお、3着の差し馬はデアリングタクト。言わずと知れた三冠馬です。
で、この3年間のラップの共通するものは何かと言いますと…4F/5Fロンスパ。ラスト800~1,000mがずっと11秒台前半~後半で流れているのです。
勘の良い方なら気づくと思いますが、このラップは阪神内回りコースで頻発する、阪神内回りコースの特徴とも言えるものです。
今年の大阪杯も後半1200mがずっと11秒台の持続ラップでしたし、GⅠだと昨年の大阪杯も、昨年の秋華賞も、一昨年の秋華賞も、ロンスパ。
※GⅡ以下だと当てはまらないことも多いです
つまりは、阪神内回りコースは、基本ロンスパになると言っても過言ではないのです。良馬場であればなおさら。
ロンスパになると何が起こるのか
ロンスパのメカニズム
昨年の菊花賞の記事でも書きましたが、今年の大阪杯バージョンに直して解説しましょう。
上の画像は、大阪杯の800m通過直前のタイミングです。先頭のジャックドールから1番ジェラルディーナまでが大体1.0秒ほど離れています。
たかが1秒、されど1秒。
下にも書いている通り、レースラップは先頭の馬が刻んでいるラップです。後ろの馬が前を捕まえるためには、当然ながらこれよりも速く走る必要がありますよね。
ここで、11秒台前半〜後半が持続するロングスパートが効いてくるわけです。
例えば、残り200mで追いつこうと思ったら、7~9Fのラップ合計34.3秒より1秒速い33.3秒で走る必要があります。
まぁ、別に追いつかなくても良いですが、0.1~0.2秒後ろまでつけようと思ったらどの道33.5秒とか使わなくてはなりません。
この上がり、府中の長い直線で使うような上がりですよね?
馬が速いスピードを持続させられる距離は大体400mだと言われていますから、600mを33秒台で走っていたら仮に射程距離に入れられたとしても、残り200mでどれだけ余力が残っているでしょうか?
しかも、大阪杯の場合はその手前から11,4-11.7と速いラップを刻み続けています。当日もなかなかの高速馬場でしたが、いくら高速馬場でも11秒台がこれだけ続けば、重賞クラスの馬でも脚があがります。
ロンスパを後方から追い込んだり、差し切るというのは物理的にかなり難しいんです。
条件戦レベルなら、前の馬がロンスパ仕掛けても残り200mで大きく垂れたりもするので、まだ差し切ることも出来ますが、GⅠ、しかも高速馬場ともなれば別。
だからこそ、大阪杯の時、後ろからになるジェラルディーナは軽視したわけです。
というわけで、ロンスパになるとどうなるかというと、
前が残りやすいく、差し追込が利きづらいというのが正解です。
たまに、予想家の方で、ロンスパになったレースを「ただの前残りレース」と揶揄する人がいますが、そういう単純な話ではありません。
ロンスパを差してくる馬
さて、ロンスパを差し追い込むのは物理的にかなり厳しい、ということは分かって頂けたかと思いますが、昨年、そんな中でただ1頭差してきた馬がいました。
デアリングタクトですね。
そして、同様のことは先程例にも挙げた大阪杯でもありました。ジェラルディーナと同じ位置にいながら、ただ1頭、ジャックドールに迫った馬、スターズオンアースですね。
通過順位を見て頂ければ分かりますが、2頭とも道中2桁番手を追走し、4角で8~9番手までは押し上げています。
そこから前にいる馬たちを差してきているわけですが、何故こういった芸当が出来るのでしょうか。
これも、当noteを見て頂いている方なら察しが付くかもしれません。
2頭に共通するのは何でしょうか?もちろん、3冠牝馬クラシックを経験しているわけですが、その大きな特徴といえば…
はい、マイル経験です。
マイル経験って、本当に重宝するんですよね。
上の表は短距離~長距離における様々な数値の基準(目安)です。
見て頂ければ分かりますが、マイル路線というのは道中1F平均は11秒台前半~後半くらいです。一方、中距離路線になると12秒台前半と緩くなります。
マイラーと中距離路線の馬の大きな違いは「追走力」だと言われますが、
この道中1F平均がグッと引き上がる中で、追走して最後に上がりが使えるか否かが、マイラーかそうでないかの線引きになるわけです。
昨今、リステッドのマイルに、ココロノトウダイ、オニャンコポン、グラティアスといった、元々中距離を走っていた馬が出走していますが、個人的にいつも軽視しているのはこの道中1F平均差を埋めるだけのスピード能力を持ち得ていないから、です。
たまに馬券内入ることはあっても、基本的な追走力が乏しいため、展開やらなにやらハマらないとリステッドですら馬券内が怪しい。そういう馬ですから重視することはまずないのです。
逆に中距離からマイルに転向しても評価したのが、安田記念でも4着に入ったガイアフォース。この馬については、小倉で11秒台後半が持続するレースで勝ち切っていました。
だからこそ、「追走力」を持ち合わせている可能性があるなと踏んだわけです。
話を宝塚記念に戻しましょう。
ラスト800~1,000mがずっと11秒台前半~後半で流れるレースでの負荷はお話しした通りですが、こうしたペースを中距離馬が走れば、最後の余力はほとんど残っていません。
なので、残り200mで一時的に先行勢との差を詰められたとしても、脚を使い切ってしまい、その後離されてしまいます。
しかし、マイラーはこうしたペースを常日頃から経験している、或いは経験していたわけですから、当然消耗度合は中距離馬よりも少ないのです。
だからこそ、デアリングタクトやスターズオンアースは最後に差してきているのです。
ちなみに、2018年の大阪杯でのペルシアンナイトも同様の事例です。
で、今年そういった馬がいるかと言えば…カラテですね。
(ダノンザキッドは先行すると思われるため)
前走前が全く開かなかったので、果たしてどこまで対応できるかは分かりませんが、持続力レースになって上がりが掛かるのは歓迎のクチです。
超高速馬場が打ち消すロンスパ
と、ここまで散々「後半ロンスパになって持続力勝負になりますよ~」と書いてきましたが、1つだけ不安もあります。
逃げ馬がドゥラエレーデかユニコーンライオンしかいないという点です。
ドゥラエレーデがしっかりとした逃げを打ってくれればまだ良いですが、ユニコーンライオンに関しては正直「逃げが甘い」です。
いくつか例を挙げましょう。
京都記念以外の3レースについては、前半1,000mがフラット~スローペースです。そこから後半800mでロンスパになっているんですが、最後の1Fが11秒台でまとめられています。
勝ち馬の上がりを見ると、33秒台。宝塚記念だけはクロノジェネシスでも34.4秒ですが、これは先行しての上がりタイム。
つまり、高速/超高速馬場だと、4Fロンスパ程度では後続の脚が全く削げていないというわけです。
今年の大阪杯でジャックドールが刻んだラップを覚えていますでしょうか。
800m~1,000m区間からもう11秒台のラップを刻んでいます。
大阪杯の日、同条件で明石特別というレースがありましたが、その時のラップがこちら。
いかにもユニコーンライオンが刻みそうなラップですが、ロンスパのレースになっているものの、逃げ馬が上がり34.0秒で逃げ切っています。それだけ馬場が軽かったわけです。(馬場差は-1.5)
武豊騎手が800~1,000m区間から早々にペースを上げている理由はまさにここにあります。
実際、インタビューで「きょうの馬場状態だと(1000メートル通過)59秒ぐらいで入りたかった」と言っているように、前半を少し速いペースで入り、後半1,000mロンスパにすることで、後続の脚を削ぐ作戦だったと思われます。
戦前、結構速く仕掛けないと上がり勝負になってしまうだろうと思っていたので、このラップを見た瞬間、ホント舌を巻きました。。
高速馬場ではこのくらいしないと、なかなか脚が削げないというのが分かる事例です。
こうなると、いつもの上がり35秒台が標準的なレースではなく、2年前のように、34秒台の上がりを使う必要があるレースになる可能性も考えられます。
この場合、イクイノックスやジャスティンパレスはかなり高い確率で来ると思われますね。
以上が、今年の宝塚記念で考えるべきポイントです。
ユニコーンライオンがいくのか、ドゥラエレーデがいくのか、作戦は枠が出てからになると思いますが、陣営の作戦、ロンスパになりやすい内回りコース、ロンスパを打ち消しかねない高速馬場、複数の変数を鑑みながら、「ロンスパ持続力戦」「上がり勝負」など、いくつかのケースを考えながら予想を組み立てていくことが重要になります。
各馬のテン1F/3F比較表
というわけで、ここまで見て頂いた方に、いつもTwitterで出している表をこちらに掲載。まぁアンカーリンクで飛んじゃえるんですけど…苦笑
なお、回避のブローザホーン、ウインマイティーは除いています。
最もテンが速いのはユニコーンライオン。次いでアスクビクターモア、ドゥラエレーデと続きます。
アスクは逃げないと思われますので、数値実績面からもやはりユニコーンライオンかドゥラエレーデが逃げることになりそうですね。