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AILingual (小説)

第1章:何者かの囁き

「…今夜、8時に決行だ。あの大学の時計塔に…」
開発段階のAIで他人の考えを読み取る装置、アイリンガル(AILingual)から、微かな反応があった。
「…今夜、8時に決行だ。あの大学の時計塔に…」
田中翔太は飛び起きて、デスクの上に置いたアイリンガルのカメラの先を見た。
そこには、毎朝、同じ時間にやってくる鳩が。
翔太は思わず息を呑んだ。まさか、鳩が人間の会話を盗み聞いているとは思わなかった。だが、その内容は明らかに危険なものだった。
「時計塔…テロリスト…?」
翔太はすぐに警察に連絡を取る決心をした。しかし、電話を手に取りながら、彼はふと立ち止まった。どうやってこの情報を手に入れたのか、警察に説明できるだろうか?
「とにかく、やるしかない…」翔太は深呼吸をして、警察に電話をかけた。
「もしもし、警察ですか?聞いてください、すごく重要なことなんです…」
翔太が話を続ける中、彼の心臓はドキドキと高鳴り、何が起こるかは誰にもわからなかった。

田中翔太は、他の子供たちとは明らかに少し違っていた。彼の頭の中はいつも新しい発明のアイデアでいっぱいだったが、その中でも特に夢中になっていたのは、他人の考えを読み取る装置の開発だった。友達や家族がどんなことを考えているのか知ることができたら、もっと世界がわかるようになると思っていた。その装置の試作段階で、まさかこんなことになるなんて…。

翔太の胸の鼓動は、電話を切った後もしばらく続いた。

第2章:秘密の代償

翔太は警察に通報した翌日、学校の帰り道で心が落ち着かなかった。彼の頭の中では、昨夜の出来事がぐるぐると回っていた。警察に伝えた内容が本当に役立つのか、そしてどうしてそれを知っているのか、誰かに追及されたらどうしようと考えていた。
家に帰ると、母親がいつも通りの笑顔で出迎えてくれた。「おかえり、翔太。今日はどうだった?」
「うん、普通かな…」翔太はできるだけ平静を装って答えたが、心の中は嵐のようだった。
部屋に戻ると、翔太は机の上に置いてある装置を見つめた。「これが全部の原因だ…」彼はため息をつきながら、装置を手に取った。今までの彼にとって、装置はただの実験の道具だったが、今ではそれが自分や他人の命に関わるものだと実感していた。

その時、スマホが鳴った。警察からだった。翔太の心臓が一瞬止まるかのように感じたが、勇気を振り絞って電話に出た。
「もしもし、田中翔太さんですか?」冷静な男性の声が電話の向こうから聞こえてきた。
「はい、そうです…」翔太は声を震わせないように必死で答えた。
「昨日の通報についてお話ししたいのですが、少しお時間をいただけますか?」その声は、何かを見透かすようなトーンで続けた。
「はい…」翔太は何も隠せないことを悟り、観念した。

警察署に到着すると、翔太は緊張で胃が縮むような思いだった。彼を迎えた刑事は優しそうな中年の男性で、机の向こう側に座るように促した
「まず、昨日の情報提供、非常に感謝しています。おかげで、テロ計画は未然に防がれました。」刑事は微笑んで言ったが、翔太はその笑顔の裏に何かがあると感じた。
「でも、ひとつだけ気になることがあります。翔太君、一体どうやってあの情報を知ったのかな?」刑事はじっと翔太を見つめた。
翔太は息を飲んだ。「どうやって…」彼の頭の中は空白になった。説明できる言葉が見つからない。装置のことを話すべきか、それとも嘘をつくべきか…。一瞬で何百もの思考が駆け巡ったが、結局何も言えなかった。
刑事は少し眉をひそめたが、すぐに表情を和らげて言った。「無理に話さなくてもいいよ。でも、何か話したいことがあれば、いつでも言ってほしい。君の力を貸してくれると嬉しいからね。」
翔太はただ頷くしかなかった。装置のことを誰にも話せない、その重圧がさらに彼の心を押し潰していくようだった。

家に帰る途中、翔太はこれからどうするべきかを考えていた。装置の存在を隠し通すことはできるのか?それとも、もっと大きな危険が自分に降りかかるのだろうか?彼の中で新たな疑念と恐れが芽生えていた。
その夜、翔太はベッドに入りながら、ベランダに置いてある装置をじっと見つめていた。「これが、僕の人生を変えてしまったんだ…」
そして、眠りにつく前に彼は決心した。「もう一度、あの鳩の話を聞いてみよう。何か別の手がかりがあるかもしれない…」
翌朝、翔太は再び装置を手に取り、バルコニーに向けてデスクに置いた。果たして、この装置が一体何をもたらすのか? あの鳩が再びくるのか? 
翔太には知る由もない。

第3章:不吉な囁き

翔太はいつものように学校へ向かったが、心は昨日の出来事でいっぱいだった。彼は授業中も上の空で、ノートに落書きをしながら、頭の中では装置のことばかり考えていた。鳩が再び何かを語るかもしれない。もしそれがまた危険な情報なら、自分はどうすればいいのだろう?
学校が終わり、翔太は急いで家に帰った。デスクに置かれたアイリンガルの先、バルコニーには鳩がすでに居た。昨日の出来事がまるで嘘のように感じられたが、彼は慎重にアイリンガルに耳を傾けた。
「…予定通り、ターゲットを排除する。今度は失敗しない…」
鳩の思考が再び翔太の頭に流れ込んできた。今度は、さらに具体的な計画の一部を聞き取ることができたが、その内容はますます不吉なものであった。
「一体、誰が狙われているんだ?」翔太は焦りと不安に駆られながら思った。警察に再び通報するべきか、それとももっと情報を集めるべきか、決断を迫られた。
翔太は深呼吸をして冷静になろうと努めた。「もう少し待って、さらに詳しい情報を集めよう…」彼はアイリンガルを握りしめ、鳩の行動に注意を払った。
しかし、その日の夕方は、ベランダに来た鳩はそれ以上は無言だった。翔太は不安を募らせたが、何も聞こえないまま鳩は飛び去ってしまった。彼は苛立ちと焦燥感を感じながら、アイリンガルをデスクに置き、どうすればいいのか分からなくなっていた。

第4章:迫る危機

翌日、翔太は学校で再び鳩の思考を探ろうと試みたが、なかなか成功しなかった。
帰宅後、鳩はバルコニーに現れたが、まるで翔太の存在に気付いているかのように、警戒している様子だった。
「もしかして、僕がアイリンガルを使っていることを感じ取っているのか?」翔太は心の中で疑問を抱いた。しかし、鳩が何も話さないまま日が暮れ、再び失望感に包まれた。
その夜、翔太は眠れずにベッドの中で何度も身を翻した。彼はこの状況をどう解決すればいいのか、答えが見つからないまま時間が過ぎていった。そして、ふとある考えが頭に浮かんだ。
「もし、鳩にエサをあげたら、もっと警戒を解いてくれるんじゃないか…?」翔太は少しでも手がかりを得るため、次の日に試してみようと決意した。
翌朝、翔太はパンのかけらを持ってベランダに出た。鳩が再び現れると、彼は慎重にパンを差し出した。鳩は最初は警戒していたが、やがてパンに興味を示し、ゆっくりと近づいてきた。
「よし、これで少しは距離が縮まったかも…」翔太は心の中で安堵しつつ、アイリンガルを鳩に向けた。
その瞬間、鳩の思考が再び翔太の頭に流れ込んできた。「…今夜、決行する。ターゲットはすでに確認済み。次は逃さない。」
翔太は心臓が凍るような思いだった。時間がない。彼はすぐに行動を起こさなければならないと悟った。今回こそ、手遅れになる前に…。

第5章:運命の夜

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