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求める男

その男、マイケルは、人生の岐路に立たされていた。7年前、彼がアメリカ中部のある州でフリーターをしていた時、日本へと導いたのは、偶然の出会いだった。ジョナサンの叔父の庭で開催されたメモリアルデーのバーベキューパーティー。そこで彼が出会ったのは、真美という日本人の女性だった。

真美はアメリカ中部のある州の大学に留学しており、ジョナサンの叔父の家にホームステイしていた。ジョナサンの叔父は、異国の若者たちにとってまるで父親のような存在であり、その暖かい人柄が彼らを引き寄せていた。

マイケルにとって、真美のキュートでエキゾチックな笑顔は、日々の冴えない生活に突如現れた一筋の光のように映った。冴えない仕事、恋人もおらず、地元から一度も出たことがないマイケルには、真美との出会いが新たな可能性を示唆していた。

真美はマイケルと付き合うことになったが、彼女にとってそれは単なる留学中の暇つぶしでしかなかった。日本に帰ればこの関係は終わるということを彼女は理解していた。真美の心の中には、結婚するなら相手は日本人と決めていたからだ。

季節は移ろい、夏の終わりには湖畔の木々が鮮やかなオレンジ色に染まった。日本の紅葉とは異なり、オレンジ色の葉が広がる風景はどこか温かさを感じさせた。そして、極寒の冬が訪れる前に、真美はマイケルとの別れを告げ、日本へと帰国した。マイケルが涙を流すのを見て、真美は別れの場面をどこか寂しげに演じたが、彼女の心にはそれほどの感情はなかった。

一念発起したマイケルは、日本に帰国した真美を追って、異国の地に足を踏み入れることを決意した。しかし、真美には、特に取り柄のない彼とこれからも付き合うつもりはなかった。マイケルの決心は評価しつつも、それ以上の期待は持っていなかった。

しかし、真美の心の片隅には、「もしかしたら、未来は明るいかもしれない」という淡い期待があった。そうして、二人は東京近郊で一緒に暮らすことになった。

マイケルは、英会話学校の教師として働き始め、地元である、アメリカ中部のある州でのバイト生活よりも収入は安定したが、将来に備えるには不十分な給与だった。2年が経過し、彼は真美にプロポーズを考えたが、英会話学校の薄給では将来の夢を語るには程遠く、行き詰まりを感じていた。

そんな時、マイケルは赤坂にある外国人が多数働くリクルーティングファームの面接を受けることにした。成功すれば、英語を教えるよりもはるかに高い収入を得ることができる。しかし、失敗すれば半年も持たない厳しい世界だった。

面接の場で、マイケルは自信満々で片言の日本語を駆使し、「すいませ〜ん。マイケルともうしまーす!」と大声で挨拶をした。彼は100人の日本人女性にカタコトの日本語で挨拶をすれば、100人が笑顔で「日本語上手ですねー!」と言ってくれると信じて疑わなかった。しかし、面接官の関口里佳子は、その期待を冷たく裏切った。

関口は、マイケルの片言の日本語に特に興味を示さず、淡々と挨拶を返しただけだった。マイケルは戸惑いながらも、次の一手として、「エイゴ、ダイジョブ?」と訊いた。しかし、関口はそれに対しても特に反応せず、彼に日本語でインタビューを続けた。

結局、面接は不合格に終わり、マイケルは再び英会話学校の教師としての生活に戻らざるを得なかった。そして、真美との関係も次第に冷え込み、二人の未来は不透明なままに終わった。

マイケルは、真美を取り戻すことができるのだろうか。東京にも冬が訪れ始めていた。


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