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だまされたとは思わないけど、私は彼女のカモだった

人間誰しも、欲はある。

私だって、キレイになりたい!っていう気持ちは、ずっとずーっと昔から持っている。

キレイな人が、キレイであるのは、並外れた努力を重ねているんだということは分かっている。じゃあ、私も、並外れた努力をすればキレイになれるのかもしれない。

コンプレックスだらけの外見。
顔がデカい。頭がデカい。顔が長い。顔が歪んでいる。上半身デブ。乳がデカい。尻がデカい…
全部嫌。自分が嫌になる。

顔がデカい、顔が長い、顔が歪んでるのが嫌なら、小顔マッサージでも毎晩やればいい。今はYouTubeでどんな情報でも手に入るじゃないか。
頭がデカいのが嫌なら、胸鎖乳突筋や頭皮をマッサージしてみるとか。
上半身や、乳が気になるのなら、肩甲骨を回すとか、大胸筋や小胸筋を鍛えるとか。

情報だけはたくさん入ってきている。並外れた努力をしてみるといい。
なのに、そこまで努力出来ない。
キレイなあの人のようになりたくはないのか。


楽して欲を叶えたい


そんな、自堕落な私なのであった。

社会人1年目。
エアラインで働くことを夢見て就活していたのだが、内定をもらうことができなかった私が選んだ就職先は百貨店の販売員。
デパガというやつで、エアラインほどではないが、それなりに華やかな仕事に就いていた。

私の配属先は、家庭用品売り場。台所用品や雑貨、陶器である。隣のセクションには寝具もあった。家庭用品といえど、百貨店で取り扱うものだから、そこそこのお値段。鍋釜だって数万円する。目が肥えた。
帰宅してから家にある鍋や包丁、食器を見てみると、安物だなとすぐに分かるようになってしまった。

ここへ来るのは、進物やギフトを選びに来るお客様がほとんどだ。当時、結婚式の引き出物と言ったら、食器が多くなかったか。
進物にのしを書くことも、販売員の仕事だった。慣れない筆ペンを使い、お名前を伺い、お祝いの文字を書いた。
こんな幼稚な字で書かれたのし付きの進物をもらっても嬉しくないだろうなと、受け取り主のことを考えると申し訳なく思うのだった。

同期入社のモナは、同じ専門学校卒で親友だった。彼女の配属先は、裏方だった。
彼女は、性格的に表に立ちたいタイプだったから、売り場はどうであれ、表舞台に配属された私のことを羨んでいるようではあった。

モナの部署は、店内をくまなく把握しないことには始まらない。要は、裏のインフォメーションだった。電話での問い合わせに全部対応しないといけないためらしい。
モナはよく、店内パトロールといって各売り場を回っていた。一顧客としてその売り場の気付きを挙げ、売り上げアップに繋げるといったところか。

ある日も、モナは店内パトロールで私のいる家庭用品セクションへ来た。

「ねぇねぇ、
私さ、エステに行き始めたんだよね」

突然のモナの言葉に驚く。

「えっっ??!!
いいなぁ!!!どんなことしてもらうの??」

「レッグなんだけどね。
浮腫が取れるし、1回の施術でいきなり数cm細くなったよ」

もともとスレンダーなモナは、そんなに変わった印象でもなかったが、キレイになっていくのかと思うと、居てもたってもいられかった。

負けられない!!!!

そんな気持ちだった。

でも、
エステなんて、高額なイメージしかない。社会人1年目で、まだまだ奨学金返済も抱えている私に貯金などなく、エステに通えるわけはなかった。

「そのエステって、やっぱ高額なんだよね…?」

おそるおそる聞いてみた。

モナは、両親そろった、恵まれた家庭(だと思っていた)で育っている。どうかしたら、親が出してくれてるのかもしれないな。

「月々1万円くらいで支払い出来るって言われて、分割払いしてる」

ほう。

ローンか。
また借金は増えるけど、それなら払えるかもしれない。
モナが1人でキレイになっていくなんて悔しい。
私もキレイになりたい。

そんな思考しかなかった私は、モナの紹介でそのエステの契約をしてしまうのだった。


何回か通ううちに、仲良くなったエステティシャンのお姉さんから、お友達紹介の話をされた。

私の紹介で、お友達が契約すると、私に報酬が入ると…

ほう。
アフィリエイト的な…

このとき、モナに私の分の報酬が入っているなど気付きもしなかった。

エステに興味ありそうな学校の友達を、何人か、ピックアップしてみた。
なんと、もうすでに契約してる子も数人いた。モナの紹介だった。事務所には、紹介制度の成績表が貼ってあり、モナはまさかの1位に輝いていた。

そのときの私の感情と言ったら、モナに対しての怒りしかなかった。なんで怒りを感じたのか?
騙された気持ちになった。
自分にお金が入るということをあえて言わず、私を勧誘した。もしかして、一緒にキレイになろう、なんていう言葉は上辺だけで、ホントは、私のことは自分の儲けにつながるカモくらいに見ていたのではないか!
親友だと思っていたモナに、私はカモにされたのか。

でも私は、モナにはそんな怒りはぶつけなかったし、紹介制度の話も知らないことにしておいた。モナとの関係がこじれることは望んでいなかったのだ。

そういえばモナは、エルメスのバッグを手に入れていた。私たちが働いている百貨店にエルメスが入っていた。当時流行っていて比較的手が出しやすい価格帯だったフールトゥだ。
まだ在庫がありそうだと聞き、私も急いで手に入れた。今はもう廃盤になっているらしい。

フールトゥも、私を紹介して得た報酬で買ったのか。

悔しくて仕方なかった。

私は、負けられないという気持ちで、カードの分割払いで買ったのだった。


もうこうなってくると、
キレイになりたいということよりも、私はモナに負けたくないという気持ちが強かっただけだ。

エステだって、キレイになりたくて通い始めたのではなく、モナの方がキレイになっていくことが許せなかった。

エルメスフールトゥだって、モナが持っているのに私が持っていないなんて、負けた気がしてたまらなかった。
だから無理してでも買った。
ホントに欲しかったものなのかどうかは、今になると分からない。

そんなモナとは、
いまだに付き合いはある。
お互いのいろんな話を知っている。私がお金やパートナーシップで悩んでいることも知っているし、相談にも乗ってもらったこともある。私とフィーリングは合う。価値観が合っているとは思わないが。

あのときの、エステのことはもう水に流した。だって、契約したのは私なんだから。嫌なら関わらなければよかったわけだ。モナに騙されたわけではないのだから。


モナは、私よりもずっとお金には執着している。

お金を稼ぐことに関しては、いつも本気だ。
絶対に結果を出す、そんな強い意気込みが感じられる。ある意味尊敬する。
人生における、お金の優先順位が高いのだろう。

私もモナも、お互い家庭を持った。
どんな理想の未来を描いているのか、そんな話はしたことはない。

そりゃ、お金があるに越したことはない。
だけど、私の中で、一番大切にしたいモノはお金ではなかったことに気付いたのは最近の話。


久しぶりにモナからLINEが来た。
モナは、最近始めたネットワークビジネスが軌道にのってきたらしい。
きっと、また、カモな私を勧誘しに来たんだな。さすがだな。


「これ、絶対にいいモノだから、誰にでもおすすめしてるわけじゃないんだよね。だって、みんなが買ってしまったら私たちの分がなくなっちゃうでしょ。いいモノだから生産するにも数が決まっててね。本当に私が大切だと思う人にしかオススメしないんだ。ぜひ、あなたとあなたのご主人にもおすすめしたい。大切な友達だから…」



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