夕日がとてもきれいだったから。
なんとなく。
ただ、なんとなく、することがなく、予定もなかったから空港に早く行っただけだった。
間違えても時間に遅れないように、カウンターから一番近いカフェに入って、コンセントのある席を勝ち取ると、写真をまとめたり、友達と連絡を取ったり、ゆっくりと時間を消費していた。
少し時間ができると行き交う人を眺め、また作業に戻る。そんな短いスパンを繰り返しているうちに、ふと、保安検査場の向こうからオレンジ色の光が漏れていることに気付いた。
「夕日だ」
気付いたときにはからだが動いていた。
広げていたパソコンや、充電していたポケットWi-Fiをかばんの中につめこみ、半分ぐらい残っていたジュースを一気に飲み干す。
自然がつくる景色が一瞬で姿を、色を変えていくことを、今までの旅から本能的に知っていた。
あわててチェックインをして、保安検査場をくぐる。
そこに広がっていたのは、一面のオレンジだった。
一日の終わりに燃えるように光る太陽につられるように、その場所もオレンジに燃えていた。
シャッターを切るのを忘れて思わず見入っていた。
ただ、日が沈む。毎日繰り返されているはずの自然現象にこんなにも心を揺さぶられて、その場から動けなくなるのはこれがはじめてではなかったけれど
疲れた心と体に染みるその景色は、いつ見ても明日の私の背中を押してくれる。
夕日がとてもきれいだったから。
それだけの理由で足を止める。
時間を忘れるほどにその景色に目が話せなくなる。
夕日が沈むたった数分間は
もっともっと日常を大事に生きなきゃ。
忘れかけていた大切なことを思い出させてくれた。