ショートショート『カラーボール強盗』(614文字)
「490円です」 夜中の3時過ぎになるとお客もかなりまばらになる。お金を払い釣銭を財布に入れた客が帰るとまた暫く一人の時間が始まる。
「ありがとうございました」とマニュアル通りの挨拶を済ませてレジ裏の整理の続きでもするかと思っていたところに事件は起きた。
客の男がレジ横に置きっぱなしになっていたカラーボールに手を伸ばすと、一瞬のうちに持ち逃げしてしまったのだ。
「え」と一瞬呆気に取られ固まる。
お金でも商品でもなくカラーボール…… とりあえずカラーボールでも窃盗には違いない。僕は警察に一報を入れ、すぐに追いかける。
「待て!」
男を呼び止めながら追いかける。高校時代に陸上部に所属していたおかげでどんどん距離は詰まっていく。
いよいよ手を伸ばせば届きそうな距離にまできた時、男は僕に向かってカラーボールを投げつけてきたのだ。
「え?」 困惑している間にも男は逃げ続けていた。もはや取り返すべきものは僕の制服をカラフルに染め上げてしまい、彼を追いかける理由がなくなってしまった。
異常にカラフルな見た目をしたまま、僕は走り去っていく男に背を向けトボトボと店へと戻っていった。
店に入るとすでに警察がかけつけていたので、「もう泥棒はどこかへ逃げてしまいましたよ」と伝えようとしたが、それより先に警察が口を開く。
「お前が強盗か!」
そう言った警察の目線の先にはカラーボールが付着した制服があった。
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