ショートショート『電動案山子』
「電動案山子?」
やってきたセールスマンの持ってきた商品に、農家をやっている畑田英二は目を丸くした。
一見すると普通の案山子だが、一体どのような商品なのだろうか。
「我がヘンテコ商会で作りました新製品でございます」
和やかな笑みを浮かべて、セールスマンが紹介する。
「なんだか凄そうだけど、どういう機能があるんだ?」
「機能の前にまず注意点から説明させてください」
「ああ、頼む。注意事項は大切だ」
「こちらの案山子、火災予防の観点から、夜になったらコンセントを外して使用して頂きたいのです」
「え、電池じゃなくてコンセントなの? それだと住居の近くのコンセントが通っている場所じゃないと使えないことになるけど?」
「ええ、そうですけど」
何を当たり前のことを、と言わんばかりのセールスマンの態度に畑田は困惑した。家から少し歩いた場所に畑を持っている畑田には、コンセントを案山子の設置する場所まで伸ばすことができない。
そんな畑田の困惑をよそに、セールスマンは玄関にあるコンセントに、勝手に電動案山子のプラグを挿し込んだ。
「そこまでして一体どんな立派な機能を持ち合わせた案山子なんだ? 時折動いて自動的に鳥を追い払ったりしてくれるのかい?」
「まさか。お客様、案山子ってどんなものか、ちゃんと知ってますか?」
「どんなものって……じっと動かず、立ち続けてくれるものだけど……」
「何だ、ちゃんと知ってるじゃないですか」
「どういうことだ?」
畑田が首を傾げた。イマイチこのセールスマンの言いたいことがわからない。
「この案山子もできることは普通の案山子と同じで、ただじっと立っとくだけですよ」
「電動なのに?」
「案山子ってそういうものですから」
畑田は困惑して何も言えなくなる。
静かになった玄関には、何の意味も為さない電動案山子のモーター音だけがただ鳴り響いていた。
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