なぜ改革は抵抗されるのか?まずは視野・視点を合わせるところから。
私が大好きな木村岳史さんの人気コラム「極限暴論」に、システム開発における抵抗勢力は面倒くさがり屋だとありました。毎回のことですが、ここまで言い切ってくれると気持ちよいですね。
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00322/042000042/
ただ、抵抗勢力を面倒くさがり屋で片づけてしまったらさすがに極限暴論すぎるかと思い、私なりに少し深堀してみたいと思います。
視点・視野の違いについて
社内の改革になぜ抵抗する人が出てくるのか?私もこのような場面に遭遇したことは多々ありますが、大きな理由の1つであるメンバーの視点・視野の違いについて考察してみます。
視点・視野の話をする際は、私は学生時代に読んだ齋藤 嘉則氏の「問題解決プロフェッショナル 構想力と分析力」で紹介されていた4つのPというフレームワークを今でも使います。非常に分かりやすく、私もこのフレームワークに何度も助けられてきました。4つのPというとマーケティングの4Pと紛らわしいですが、ここでの4つのPは以下になります。
Purpose:目的
Position:立場
Perspective:空間軸
Period:時間軸
空間軸と時間軸が視野の広さで、目的と立場によってどの視点から見るかが違ってきます。絵にすると以下のようなイメージです。
現場の人が関心があることは「今」「自分が困っていること」です。上記の図の2つの赤点のうち下の方の赤点の視点になります。部長や社長など立場(Position)が上の人になってくれば視点は上の赤点に近づいていきます。四半期、年、数年という時間軸(Period)で、自分の部署、会社全体、サプライチェーンまで含めた業界全体、といように空間軸(Perspective)も広がります。ここでポイントなのは、どちらが良い悪いということではなく、立場により目的(Purpose)が違い、見ている範囲も違うということです。短期と中長期、全体最適と個別最適というように、目的や見ている範囲が違うと議論がかみ合わないのは当然です。短期と中長期、全体最適と個別最適のどちらの視点で見るかは、目的や経営方針、プロジェクト方針によって変わりますが、私はどちらも大事(特に日本の中小・中堅企業では)という考えです。この論点は長い話になるので、別の回に書きたいと思います。今は、視点がずれているという点に絞って考えましょう。
視野がずれているとどうなるか?
視点がずれいてると、ITシステムの導入や刷新のプロジェクトにはどう影響して来るでしょうか?これからDXの関係で多くの企業が取り組んでいくと思われる社内基幹システム・ERPの刷新について考えてみましょう。例えば、ERPのような基幹システムの狙いの1つとして、データの見える化があります。主に売上や利益、製品やプロジェクト毎の利益率など、経営判断に必要になる数値の見える化です。データの見える化が出来れば適切な経営判断ができるようになり、大きな成果は挙げられるでしょう。この成果は経営者や部門長、先ほどの絵の上の方の赤点の視野から見た効果です。そのため効果が創出されるのも時間がかかります。データの集計がITシステムでリアルタイムでできたとしても、データを元に経営判断をして施策を打ち効果を創出するまでに時間がかかるという意味です。一方現場では、効果創出にタイムラグがある経営者・部門長向けの効果創出のため、日々の業務の中で作業日報や営業日報など ITシステムへの入力をしていかなければなりません。ITシステムが現場にとってあまり使いやすくないものであれば、現場での効果は創出されず、現場にとっては何のためにITシステムを使っているのかがわからなくなります。現場は「今」「自分が困っていること」に関心があるのです。ITシステムは中長期の効果・全体最適だけを見て導入すると、現場での効果は創出されず、当然抵抗勢力になります。レイオフができない日本企業ではなおさら現場が抵抗勢力になるでしょう。
抵抗勢力はなぜ抵抗するのか?
抵抗勢力はなぜ抵抗するのか?部門間の権力や派閥争いが原因であることもあるかと思いますが、多くの場合は抵抗する人たちの視点がずれているため改革推進の大義名分である中長期の目標や全体最適が理解できていない、具体的にイメージできていないということにあリます。レイオフ前提のトップダウンでの改革ができるのであれば良いですが、それができない日本企業は、まずは視点を合わせるところをしっかり行うべきでしょう。改革派の人は抵抗勢力になりそうな人達(多くの場合は既存の現場)が理解し納得できるように目的・目標を明確に示して粘り強く説明しなければなりません。木村岳史さんは抵抗勢力は面倒くさがり屋だとおっしゃっていますが、私からすると改革推進派の方が面倒くさがり屋です。視点を合わせるというのは非常に泥臭く粘り強く進めなければなりません。これを面倒くさがらずに行うことが改革推進の最初の1歩です。もちろん、視点を合わせるだけで全てがうまくいくわけではありません。改革の内容によっては両利きの経営のような既存事業と新規事業が関わる難しい課題もあるでしょう。ITシステムについては、これからは全体最適だけではなく個別現場のUI/UXの改善も含めた個別最適も同時に実現していかなければ厳しいと私は考えています。とはいえ、全ては視点を合わせるところからです。視点がずれていると必ず抵抗勢力が出てきて、プロジェクト推進に支障をきたします。改革推進派の人は面倒くさがらずに視点を揃えることを粘り強く進めてもらいたいです。