好きなものは好きと言いたい|『ブルーピリオド』を読んで
私はマンガ『ブルーピリオド』が好きです。
「『ブルーピリオド』ってどんな話?」と思われる方のためにもまずはあらすじを。
手短にいうと、高校生たちが美術大学の合格を目指して努力する姿を描いた青春漫画です。
主人公たちがあれこれ苦しみながらも努力する姿に勇気をもらったり、美術のプチ知識が学べたりするなど、私がこのマンガが好きな理由はいろいろとあります。その中でも、いちばんの理由は「自分の好きなことを好きと言っていいんだよ」というこのマンガのメッセージに背中を押してもらったからです。
昔よりは断然マシになりましたが、私は自分の好きなものを他人に話すことにいくぶん抵抗を感じます。なぜ感じるかというと、自分の好きなものが共感されなかったり、引かれたり、否定されたりするのを恐れているからです。
私はアニメを見たり、マンガを読んだり、ゲームをしたりすることは子供のころから割りと好きです。しかし大学生から社会人5年目くらいまで、それらが好きであることを周りにあまり言ってきませんでした。「へ、へぇ~…」と引かれたり、「オタクかよ」などと否定的に思われるのが怖かったからです。
アニメやマンガ、ゲームなどが好きだと言って、誰かに直接バカにされたことはありません。しかし、他人の評価を今よりも気にしていた、かつての私はインターネットなどでアニメやマンガ、ゲームなどが好きな人のことを「オタク」と呼んで蔑んだり、「オタクはモテない」「オタクはかわいくない」などの偏見的な発言したりしている人を見て、「アニメやマンガやゲームが好きな人間はバカにされる対象なのか…」とちぢこまりました。
そのため、当時はアニメなどはひっそりと楽しんでいました。しかもこれらを封印して、学校の勉強ばかりしていた時期もありました。
しかし、最近は「オタ活」ではなく「推し活」とマイルドな言葉が使わたり、さまざまなジャンルのアニメやドラマが地上波で放送されたりしています。アニメやマンガ、ゲーム好きの人に対する風当たりは弱くなったように思います。
別に私の大学時代でも私を否定する人はいなかったかもしれませんが、気にしすぎな性格が相まって、当時はやすやすとアニメなどが好きだとは言えませでした。
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そんなふうに自分の好きなことを堂々と言ってこなかった過去がある私には、『ブルーピリオド』に出てくる次のことばが刺さりました。
これは、主人公の八虎(やとら)が、「自分が『好き』と言ったものに対して否定されるのは怖い…。だからあまり言いたくない…」と感じて思った言葉です(と私は解釈しています)。
ある日、八虎は友人と夜通し遊んだ後、人気のない早朝の渋谷を歩いて「早朝の渋谷ってさ、なんかいいよな」と、早朝の渋谷の景色が好きだと言います。しかし、一緒にいた友人は「は?ゴミくさくね?」と言い、八虎に共感しませんでした。あわてて八虎は「いや、これは友だちが言ってたこと!変なやつだよな!」と言い返します。
しかし後日、八虎は学校の美術の授業で自分が好きだと思った早朝の渋谷の風景を「私の好きな風景」として描きはじめます。描いている途中で先の友人が言った「ゴミくさくね?」の言葉を思い出し、「好きなものを好きっていうのって怖いんだな…」と思います。
この八虎のことばを受けて、私は「わかる…。自分の好きなもの、ひいては自分が否定されるのって怖いよね…。だから好きなものを言うのって怖いと感じるよね…」と共感しました。
結果的に八虎が描いた渋谷の絵は、先生やクラスメイトから好評を得ます。そして自分が好きと思ったものを他人に共感してもらえた八虎は涙を浮かべます。
一度は否定されたけど、いろいろ考えてやっぱり好きだと思ったこと。そしてそれを正直に公開したら他人と分かち合うことができた。そんなあったかい話が描かれているのが、この『ブルーピリオド』の第一話です。
この話のように、自分が好きだと思ったものが他の誰かにも共感してもらえたら万々歳なことです。でも、やはり人間にはそれぞれ好みがあるもの。私は『ブルーピリオド』が好きですが、「好きじゃない」「面白くない」と思う人はきっといるでしょう。
でもそこで「私の感性がおかしいのかな…」と自分の思ったことを押し殺すのは辞めたい。共感されなくたって落ち込むことはない。好き嫌いは人それぞれだから、合わないなら合わないでしょうがない。否定するような人がいたらその人から離れてしまえばいい。そんなふうに思います。
私もどんなに友人が「このマンガが好き!」と教えてくれても、いまいちハマらなかったものだってあります。当たり前なことですが、好きになれないからといって、その人を否定することはしない人間でありたいです。
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みなさんは自分の好きなものを堂々と言えなかった経験はないでしょうか?私だけ?(笑) いや、そんなことはないと信じています。
このマンガには美大の合格を目指す中で、八虎が自分の好きなものは何かと考え、それを絵に表現していこうとする姿が描かれています。自分の「好き」に正直になり切れていない人は、そんな八虎の姿に背中を押してもらえるかもしれません。私が押されたように。
「好きなものを好きっていうのって怖い」の気持ちは今でもまだ多少はありますが、「好きなものを好きっていうのって楽しい」と思える日が来るといいなと思っています。
こうやって「『ブルーピリオド』が好き」と公言したことは、その日にたどり着くための一歩であると信じて、終わりたいと思います。