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バナナノムキカタ『3』と『4』小品2021073101

(朝、あのような発信をしましたら、唐突に物語が浮かんで『3』と『4』が一緒にできました。もしよろしかったら読んでくださいね。<(_ _)> )

君はバナナが好きだった。バナナは完全食だからと言って、お腹がすくと食事代わりにカバンから取り出して食べていた。
そういえばあの頃、持ち運び用のバナナケースというのが流行っていたな。
時々君は僕の分も持ってきてくれた。ふたりでいろんなところでよく食べた。

あれは百日紅の花の頃だった。
風のよく通るあの公園は、木陰に入れば夏でも涼しいぐらいだった。芝生に寝転んでまったり過ごそうとやってくると、君はカバンからバナナを取り出して一本は僕にくれた。
君はじっと僕を見ていた。

僕がバナナをむいて、さぁ食べようかと口を開けると、
「猿だね。」
と、君はうれしそうに笑って言った。
「なんだよ。猿って。自分の方が猿だろ。バナナばっかり食べてるじゃないか。」
と、少し怒って言い返した。
「違うのよ。今、バナナの皮、3本にむいたでしょ?」
「は?」
「猿は3本にむくんだって。人間は4本にむくらしいわ。」
と言って、君はゆっくりと、
「イチ、ニー、サン、ヨン……」
と、数えながらバナナをむいて笑った。

あれ以来僕はずっと、バナナはがんばって4本でむいてる。子どもたちにも、僕がそう教えた。
でも時々、うっかり3本になってしまう。バナナ次第だよな。なぁ君……
僕たちはバナナをむく時、いつもちらっとお互いを見た。軽い牽制をずっと楽しんできた。
今日も、君のいたずらな目の表情はあの時のままだ。
遺影になった今でも。

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