6.攻撃性
他人を信頼できない怖さは、とてつもない恐怖でした。
自分自身のことですら、すでにもう信じられなくなっていたから、一日が始まっていくのが毎日怖かったんです。
それでも仕事は大好きだから続けたい、もう休みたくない。
なんにも価値がなくなってしまった自分でも、なんとかして職場に自分の居場所を作ろうとして必死でした。
今考えれば、わざわざ作らなくても居場所はどこにでもあるはずで、ほんの少し、周りを見渡すことができれば、こんなにも孤独感に苛まれることはなかったと思います。でもそういう感覚もすでに失っていました。
そしてどんどん焦っていき、毎日が空回りしていくのです。
ついに上司とぶつかります。こんなにいつも優しく心配してくれて、とてもお世話になっているのに、思ってもいない事ばかり口から出るんですよね。
そうなった前日の夜から、すでに自分の様子はおかしかったと思います。ノートに職場のここがダメ、上司のこういうところが嫌、みんなのここがおかしい、そんな自己中心的な言葉を、思いつくまま書き殴っていました。
これが、双極性障害が持つ攻撃性かもしれません。
相手がどんなに自分にとって大切な人であっても、それが抑えられない。そして頭の隅で、そんなこと思ってないのにというもう一人の自分もちゃんと存在していて、「同時進行」で後悔しながら攻撃します。器用っちゃ器用。
次の日、上司にノートに書いたことをそのままぶつけてしまいました。とても理不尽で自分勝手で、相手の立場や自分の知らない事情を汲み取ることももうできず、言われた本人の気持ちを一切考えることなく、ただただ感情に任せた行動。
もちろん言い合いになり、いつも冷静な上司も少しだけ感情的でした。でも、きちんと理性が働いていたし、言っていることは誰がどう見ても、上司の方が正しかった。わたしの言い分は支離滅裂。もしこれが同じ男なら、一発殴られてたかもしれません。だってゴルゴ13の目でしたもん。俺の背後に立つな。
結局「また少し、お休みしようか」そう言われました。
それはとても優しい判断で、普通ならばクビになってもおかしくないんです。それでも見放さず、わたしの生活、収入面のことも考えてくれて、お休みという選択をしてくれた上司。
職場の喫煙所で一人でボロボロ泣いていると、そこに来てくれました。
うまくできないよーと泣いている子供を慰めるように、落ち着くまで一緒に話を聞いてくれたんですよね。みなさん、こんなに優しい上司がいますか?!泣いてる女を見ているのはとてもめんどくさいと思うはずなのに(男性の方々、そうですよね?)、雇用主としての、上司としてのその責任感には、本当に感謝しかありません。
ティッシュの箱を持ってきて、涙を流すたびにティッシュを渡してくれて、グジョグジョになったら取り替えてくれ、グジョグジョのティッシュは新しいもので包む。その冷静さも大人だって思いましたし、そういえば上司は少し潔癖なんだった、と泣きながらふと思い出しました。
今がもし、古代エジプトの時代なら、きっと上司の像を作って、毎日崇めていることでしょう。洞窟の壁画にも残すと思います。それが後々発見されて、古代エジプト人にしては目が細いな、と新たな発見につながるに違いない。これは上司の目が細いということをディスっているわけではなく、そういうところももちろんイケメンです、という意味です。
「ありがとう」と言うことが精一杯でした。
休む。これからまた戦いが始まるのか。もう一度休んで、リベンジしよう。たった一回で、物事がうまくいくはずはないのだから。
攻撃性、これは周りの人に助けて欲しいとSOSを出しているのかな、とも思いました。周りの人からしたら、やめてくれよ!という大迷惑でしかないのだけど。特に自分が心を開いている人に向けて、出る場合が多いです。だから後悔もハンパない。
少なくともあの時のわたしは、思ってもいないことを口にし、転覆しそうな船の中で、救難信号を出していたんだと思います。
タイタニックならロマンチックな出来事のうちのひとつ。でもわたしが乗っている船は、豪華客船ではないし、これは映画でもありません。自分が持っている「水」の部分に自ら溺れかけていました。
しかしこれは他人が助けられることではないし、他人を頼ることでもありません。
自分が解決しなければいけない問題、今後の人生をかけて向き合っていく課題。そして乗り越えることを目指すのではなく、うまく付き合っていく。自分らしさとして。
それさぁ・・・どうしたらできるようになるの?みんなどーやってんの?
わたしには「優しさ」という部分が、圧倒的に足りません。