たかおのおっちゃん④
2012年。
おっちゃんはヘンコに磨きがかかっていた。
叔母によると、毎日どこにも行かず、白くまのアイスクリームとパックのお寿司を食べているとのことだった。白くまアイスと寿司どちらかがなくなると、とたんに不機嫌になるので、叔母はダイエーに足繁く通い、冷凍コーナーに置いてある白くまアイスを、棚にあるだけ全部買った。それでもおっちゃんの消費スピードに追いつかず、毎回すべての白くまアイスを買ううちに、ついにダイエーが棚を増やしてくれたので安心だと言っていた。
大好きな『鬼平犯科帳』が、電気工事のために見れなくなったときは激怒した。唾を飛ばして抗議し、電気工事屋を怒鳴り散らした。しかし事態が変わらないことを知ると態度を一転させ、作業員に擦り寄って「なぁ〜鬼平見して〜頼むわ〜、鬼平見して〜な〜」と半泣きで懇願していたそうだ。
私は、本当に不思議だった。
なんで離婚せえへんねやろ。好きでもない人とお見合い結婚して、なんやったら義実家に騙されて。いくら修羅やいうても離婚したら逃げられるんちゃうの。叔母ちゃん、ほんま振り回されてかわいそうやわ。
そう思っていた。
その年の暮れも押し迫った大晦日、私は2ヶ月ほど付き合った男性と結婚した。彼の建前や綺麗事を嫌う性格がたかおのおっちゃんに通じるところがあるな、と思っていたので「会わせたい人がおるねん」と夫となるその人に言った。
「変なひとやけど、ちょっと似てる。話合うんちゃう」と。
けれどその言葉が叶うことはなかった。
おっちゃんはその9日後、帰らぬ人となった。
(⑤につづく)