見出し画像

君に会いたい

ケンカした。
連絡が途絶えた。
あぁ、またか…。
ケンカすると、いつも暫く連絡が来なくなる。
きっといつものケンカで、ちょっとしたら何事も無かったかのように連絡してくるんだろうと思ってた。
ケンカして1週間、いつもよりちょっと連絡が来るのが遅いなって思ってた。
ケンカして2週間、まさか、このまま自然消滅なんて無いよね?って思ってた。
LINEしても既読にならない。
ケンカして1ヶ月、こんな下らない終わり方するのかって、悲しくて、情けなくて、惨めだった。
気持ちの整理がつかないまま、普段通りの生活をして仕事に行った。

ある日、出勤して早々に、職場の電話が鳴った。
彼の前の職場の人で、何度か一緒に食事をした人だった。
イヤな予感がしたけど、なぜか、落ち着いてた。
2週間前に血を吐き倒れて、意識不明のまま集中治療室に入っていたと。
容態が急変して田舎の家族が看取り、火葬して実家に還ったと。
知らされたのは、亡くなって5日後だった。
御家族の事情が色々とあり、会社からの弔問も全て断られたとの事だった。
私は、ダメ元で彼の妹に連絡を取り、せめてお墓参りをさせて欲しいとお願いした。
彼の父親が、頑なに周囲の人間が来ることを嫌がっているらしい。
父親にわからないように、納骨が済んで暫くしてからやっとお墓参りをさせてもらえた。

でも、ただの石だった。
お墓はとても立派なものだったが、私にとっては、彼の面影も存在も感じることなどできなかった。
亡骸も見ていない。
遺品も見ていない。
彼が病に倒れて苦しむ姿も、病院のベットに横たわる姿も見ていない。
何も、彼が亡くなった証拠なんて見ていない。
せめて、最後の時をみることができていたら、納得できていたかもしれないのに。

真面目な話が苦手な彼は、将来の話をすることも、私の名前を呼ぶこともあまりしなかった。
友人の前では、名前で呼んでいたらしい。
ケンカをしたけど、どう謝っていいかわからないと。
別れたくないと言っていたと、後から聞かされた。

もっともっと、色んな話をすれば良かった。
どうせいつものケンカと放っておかずに、電話すれば良かった。
本当に好きだと、愛していると伝えれば良かった。
まさか、ケンカしたまま、二度と会えなくなるなんて思ってなかった。

実は壮大なドッキリなんじゃないかとずっと思っていた。
もう5年の時が経つが、なんなら、今でもちょっとそう思っている。

周囲の友人には、未だに彼を想っていることを、何となく言えない。

でも、本当は、もう一度君に会いたい。


#恋愛の心のこり


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?