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子どもの発語に違和感が…言語聴覚士の構音訓練を受けた結果は?

「子どもがなかなか言葉を発しない」
「何かを話しているけれど聞き取りにくい」
「きちんと音が聞こえているのかわからない」

子育てするなかで「話す」「聞く」「食べる」に関する悩みが色濃くなったら、その専門家である言語聴覚士(Speech Therapist、ST)の出番だといえます。

しかし、子どもを支援する言語聴覚士はそれほど多くないのが現状です。そのため「探しても探しても見つからない」「見つかっても、支援を受ける枠がない」という話をよく耳にします。

そこでこの連載では、言語聴覚士の支援を受けた人々にコンタクトをとり、どうやって言語聴覚士を見つけたのか、支援を受けてお子さんがどう変化したのか、などを伺いました。療育・訓練を受けるかどうかの検討材料や、言語聴覚士とのつながりを持つヒントになれば幸いです。

今回は、お子さんの発音が「声門破裂音(せいもんはれつおん)」だとわかり、言語聴覚士の構音訓練を受けた、はるさんのお話です。

子どもの発音が聞き取りにくい。なぜ?

——はじめに、お子さんが何歳のときに発語に関して違和感を感じたのか、教えてください。

私の息子は1歳半のときに単語をほとんど話しておらず、2歳になったときに少し発語が多くなりました。でもその発音が「アッアッ」「オッオッ」というように短い母音しか出ず、何を話しているのかよくわからなかったんです。

私は臨床心理士として当時住んでいた自治体の施設に勤務していたので、そこに言語聴覚士さんが在籍しているのは知っていました。そこで、正規のルートで相談の予約をとり、息子をみてもらうことにしました。

人間の声は、声帯を震わせ、肺からの呼気が左右の声帯の間にある「声門」を通ることで発せられます。

言語聴覚士さんにみてもらった結果、そのときはまだ発語が不明瞭な理由は分かりませんでした。しかし「2歳が声門をコントロールするのは難しいです」「舌があまり動いていないから、まずは舌をコントロールする訓練をしましょう」などとアドバイスをもらい、3カ月に1回ほどのペースで言語聴覚士さんの訓練を受けることにしました。

職業柄、息子に自閉傾向がありそうだなとは思っていました。でも、構音(発音)のことは勉強していなかったので、焦りはありましたね。

声門破裂音だとわかり、幼いながら訓練を開始

——お子さんの発音が「声門破裂音」だとわかったのはいつ頃でしたか?

息子が3歳のとき、現在の居住地に引っ越してからです。自治体の療育センターに行ったときに、医師からは自閉症の診断を受け、言語聴覚士には評価(検査)の結果「これは『声門破裂音』という状態です」と告げられました。

声門破裂音とは、閉じていた声門が呼気によって急に開放されて起こる破裂音のことです。

言語聴覚士さんには「教科書通りの声門破裂音ですね」と言われたのですが、私はこれまで声門破裂音だった人を1名しか知らなかったので、まさかうちの子が声門破裂音だとは思いませんでした。

この状態を改善するには、構音訓練を受ける必要があります。しかし構音訓練をこの年で受けるのは早すぎて、通常なら年中・年長になるまで待つところでした。

でもうちの息子はとてもおしゃべりだったんですよね。だから幼稚園でも積極的に話すけれど、お友だちから「何を言っているのかわからない」と言われて困っていました。こうした幼稚園での状況や、本人の話したそうな様子を踏まえて、年少の終わりから構音訓練を受けることにしたんです。

——構音訓練はどのように行うのでしょうか。

息子の場合は、週1回・30分ほどの訓練に通いました。また、家でも毎日15分ほどの訓練を行います。言語聴覚士さんから出された宿題を毎日やり、翌週にそれを言語聴覚士さんの前でやってみて、きちんと発音できているのかを確認してもらう、という流れの繰り返しでした。

初期にやったもののひとつは、「ガ」と「カ」などの2音を行き来する訓練です。この2音は舌の位置はそのままに、声門の開き方を調整して音を変えています。最初に大きな声で「ガガガガ」と発音してから、だんだんと音量を下げ、かなり小さくなったところで発音を「カ」に変えて、そのまま「カカカカ」とだんだんと音量を上げていきます。

また、例えば「かお」など、「カ」が単語の頭に来たときに正しく発音できるようになったら、次は「あカあ」「いカい」「うカう」など、単語の間でも正しい音が出せるようにする、といった訓練も行いましたね。

構音訓練のイメージ図

約1年の訓練の末、声門破裂音が直った!

——訓練を受けた結果、声門破裂音は改善されましたか?

訓練を受けて約1年、年中の終わりに直りました! サ行とタ行は少し誤りが残っていますが、それ以外はきれいに発音できるようになりました。

すべての音を訓練したわけではなく、自然と出せるようになった音もあります。また、カ行の訓練は本人がかなり嫌がったので、1カ月ほど訓練をお休みしたんです。でもその間に、息子が「かあさん」と言えた気がして。お休み明けに言語聴覚士さんに見せたら「発音できていいますね!」と驚かれました。息子なりに発音のノウハウを掴んだのかもしれません。

——言語聴覚士の様子から、何か感じることはありましたか?

子どもへの関わり方を見て「この言語聴覚士さんならお任せできる」と思いました。その言語聴覚士さんは、子どもに対していつも「今からこういうことをします」「この順番でやります」など、スタートとゴールを示してくれます。特性のある子どもに対して「後出し」をするのはよくないので、この様子なら子どもも安心して訓練を受けられると思いました。

それから、訓練を受ける前に「これは普通にしていたら直らないですね」とはっきりと伝えてくれたのがよかったです。「何年くらいかかりそうですか?」と聞いたときも「3年。小学校に入る前になんとか直るようにがんばりましょう」と正直に答えてくれました。

私に臨床の知識があることを知っていたからこその対応だとは思いますが、「それならがんばろう」と腹を決めることができました。

「なぜうちの子が?」その答えが出せなかったら相談してほしい

——この約1年間を振り返って、どんな思いを抱いていますか?

息子には申し訳ないことをしたと思っています。あの子は「直したい」とは思っていなかったでしょうから。でも本人が「『何を言っているのかわからない』って言われちゃうんだよ」と困っていたとき、私ははっきりと「言葉が違っているの。だから練習するんだよ」と伝えました。3〜4歳の子には酷だったと思います。

ただ、毎日必ず行っていた15分間の訓練は、「今日はこれができたね」と褒める時間になりました。私が働いていたこともあり、目まぐるしい日々のなかでも必ず息子に向き合い「息子と2人でがんばる時間」を過ごせたのは、親子関係の面からもよかったと思います。

息子の発音が声門破裂音だとわかったときは、こんな未来が来るとは思えなかったし、言語聴覚士さんからも「もしかしたら治らないかも」と言われていました。息子のがんばりの成果ですね。

——最後に、子どもの発達に関する悩みや違和感を抱えている方に向け、専門家の立場からメッセージをお願いします。

発語の遅れや違和感だけでなく、なかなかトイトレが進まなかったり、ごはんを食べさせようにも遊んでしまったりと、親として心がやられる場面があるかもしれません。

「なぜうちの子はこうなんだろう?」と思い、その答えが親御さんだけでは出せなかったときが、専門家に相談するときなんだと感じています。

私も親御さんの相談を受けるときに「うちの子は治りますか?」などの質問をいただくのですが、もって生まれたものは変えられないかもしれません。でも、その子がどんな環境なら生きやすく、どんな対応をすればもっと仲良くなれるのかをお伝えすることはできるかもしれないです。

だからしかるべき場所に定期的に通って、専門家から具体的な助言を得てほしいと思います。

取材・文:金指 歩(株式会社となりの編プロ)


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