金子國義展「聖者の作法」
金子國義展「聖者の作法」
Bunkamura Gallery
今どこの大きい美術館も軒並み休館中で、もちろんBunkamuraの地下にあるザ・ミュージアムの方は休館中なのだけど、1階にあるこのギャラリーは規模が小さいので、開館してくれていました。
とはいえ実は美術館やギャラリーに行く気持ちにもあんまりなれてなくて、もちろんコロナに感染しやすいから行きたくないという理由では一切なく、こんなもやもやした中途半端なメンタルで、想いや魂が込められた作品と対峙するのがなんだか申し訳なくて。
でも打ち合わせ場所がたまたまBunkamuraのすぐ近くで、ユーモアとぶれない美学をお持ちの金子先生だったらこんなメンタルで行っても受け入れてくださるのではないか、そしてなにか力をいただけるのではないかという気がして行ってきました。
そんなに詳しく知っているわけではなく、それぞれの絵がどのタイミングで描かれ、どういう心境や意味を持って描かれたのかなど知識があるわけではないので、単純に、フラットな状態で絵を見たのですが、すごく良かった。ぶれない美意識に圧倒されてしまいました。
首や手足の長さ、この髪色にはこの色のリボン、身体にまとう布の質感や量、唇の厚さ、内から染みでる芯のある表情、決して下品ではない上質なエロティシズム、究極の「黒」。
一貫してどの絵にも金子先生が信じる「美」が現されていて、単なる白壁のギャラリーなのに、作品同士が共鳴しあって空間自体が崇高な域に達してたのに驚きましたし、その凛とした空気にめちゃくちゃ背筋が伸びました。
きっとアトリエなんてものすごいオーラに包まれていたんだろうなぁ。
アリスやサド侯爵夫人、シンデレラなどの寓話をモチーフにした絵は言わずもがな美しさの極みだったのですが、特にギリシャ神話の「三美神」を宇宙バージョン、海バージョン、花バージョンで描かれたもの、リトグラフがたまらなかったです。女神たちが夢みたいに綺麗でした。
聖書を題材とした茶色ベースで描かれた大型の作品からは、宗教画に対して新たな視点や解釈に気づかされました。特にクリスチャンになりたいとかそういう強い信仰心は全くなくて、この題材に興味がわいたとのことなのですが、だからなのか仰々しさや過度な演出は一切なくて、なにかを信じることで生まれる自信や潔さみたいななにか強いものを感じました。
気持ちが落ち着かない今だからこそ、見れて本当に良かったです。
やっぱり足を運んで本物を見て熱を感じるということがどれほど自分にとって大事なことか。心が震える体験は心の栄養になるということ、どんなときでも芸術が脅かされることなくそこに在り続けることの大切さを改めて感じました。