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【名画をプロップスタイリングしてみる Vol.13】ジェームズ・マクニール・ホイッスラー「バラと銀:陶磁の国の姫君」

今日の1枚はジェームズ・マクニール・ホイッスラーの「バラと銀:陶磁の国の姫君」
ワシントンD.C.のフリーア美術館にあります。


ホイッスラーは19世紀後半、ロンドンで活躍したアメリカ人画家です。ジャポニスムの巨匠と呼ばれ、浮世絵などの日本美術に大変影響を受けました。



19世紀末になるとアカデミズムに批判的な画家が増えてきますがホイッスラーも例に漏れずで、絵に教訓や意味なんて込めなくていいし、歴史や物語を伝えなくても全然良くね?って考えで、あくまで色と形の調和をとことん探求することで絵画の中に純粋な視覚的喜び、つまり「わぁ美しい」って感情が生まれる芸術を生み出そうとし、「美のための美」(=唯美主義ですね)を追求しました。


色と形の調和=「ハーモニー」として、絵画と音楽を重ねるような考え方をしていたので、彼の作品のタイトルにはよく「ノクターン」「シンフォニー」「アレンジメント」と音楽用語が使われています。素敵…!




また、絵に寓意的をものをもたせないためにも「灰色と黒のアレンジメント」や「紫と金色の綺想曲」、「グレーと緑のハーモニー」など作品の中心となる色の組み合わせをタイトルに使用したものも多いのが特徴です。



とはいえホイッスラーの言う「色彩の調和」は印象派のような明るいものではなく、多くはうす暗く地味なものやモノトーンに近いものでした。
彼は印象派の画家たちと同世代ではありますが、印象派とは全く違う独自の粋な絵画表現で道を切り開いたのです。なので孤高の画家とも言われています。



また、ホイッスラーはラファエル前派に影響を受けた他、1862年に開催されたロンドン万国博覧会で日本の美術工芸品がロンドンに紹介されてからというものの、広重や北斎などの浮世絵版画、中国の陶磁器などの東洋趣味に強い興味を持ち、絵画のモチーフにもそれらを取り入れました。


ちなみにホイッスラーのサイン、かなりかわいいのですが、なんと蝶々の形をしています!日本の落款(はんこ)のようなものなのですが、おそらく家紋や花押から着想を得たのでは?と言われています。



そんな日本大好きホイッスラーが描いた今日の作品「バラと銀 陶磁の国の姫君」。


さて、こちらの作品、西洋人が菖蒲(アヤメ)などの花があしらわれたうちわを手に、鮮やかな黄色と深藍色の着物を着ています。背景には屏風や陶磁器が描かれており、東洋趣味が窺えますね。
西洋と東洋の融合が絶妙な調和を産み出していると高い評価を受けています。



個人的にはアンバランスさを感じてしまいますが、私たち日本人が西洋人が着物を着ているのを見た時に違和感を感じるのは、自国の着物の文化に対して格調高いもの(私たち日本人でさえ普段は着ない特別な衣服)だと思っているから余計そう思うのだと思います。


前回マティスの時にご紹介した西洋人が東洋のエキゾチックな衣裳をまとって描かれた「オダリスク」なんかに別段違和感を感じないのはトルコやモロッコの文化に対しての認識が甘いからだと思います。


というわけで、わたしは別にこの絵が好きなわけではないのですが(失礼w)、なぜこの絵を選んだかというと、この絵が飾られた「部屋」がめちゃくちゃ好きだからです!!!え?部屋?そう!部屋!!!



この絵が飾られているのは「ピーコックルーム(孔雀の間)」と呼ばれる部屋です。
リヴァプールの富豪で、ホイッスラーの有力なパトロン兼支援者であったフレデリック・R・レイランドが、彼の邸宅の食堂を「陶磁の国の姫君」を飾るにふさわしい空間にするためにホイッスラーがデザインしリノベーションした部屋なんです。



この部屋、ブルーグリーンの壁にゴールドで孔雀の絵が描かれており(広重の「牡丹に孔雀」を参考にしている)、壁面はレイランドの東洋製の陶磁器コレクションで埋め尽くされ、天井には日本の青海波模様を孔雀の羽根風にした模様が描かれています。
もう!めっっちゃくちゃかわいい!!!かわいいいいい!!!


しかし、この部屋が完成するまでには紆余曲折ありました。


この部屋、レイランドが自分の陶磁器のコレクションを飾る部屋にするために最初、建築家のトーマス・ジキルにデザインを依頼していたのです。ホイッスラーにはこの部屋に飾る絵を描いてほしいというだけの依頼でした。
しかし完成間際でジキルが途中で病に倒れてしまい、ホイッスラーは部屋のデザインを引き継ぎます。
しかしホイッスラーは、「なんかこの部屋僕の絵に合わへんな。変えちゃお~!」と勝手に部屋のデザインを100%変えてしまいます…!
完成した部屋を見てレイランドはなんでやねん!!!と激怒し、ホイッスラーを首にしてしまいます。また、これを知ったジキルに関してはあまりのショックに発狂し、数年後に亡くなったそうです。わぁお(笑)


しかし、現在もそのまま残っていることを思うとレイランド、意外と気に入ってたのかもしれませんね。


というわけで、部屋まるごと貴重な美術作品として今はフリーア美術館内で公開されています。



ホイッスラー、なかなかの強メンタルというか美に対してまっすぐというか、芸術家たるもの時には図々しさも必要ですね(笑)なにより、「陶磁の国の姫君」がこの部屋に飾られることで何十倍も良く見えるのがほんとにすごい。


空間には様々な「力」が宿ることを改めて感じた作品でした。

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