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フランス視察記②フランスの『官』が『民』のパレナージュ・ド・プロキシミテに期待していること
パランパルミルを後にしてむかったのは、地域圏のプレスクリプターの人たちのところ。イル=ド=フランス地域圏のヴァル=ド=マルヌ県にある家族手当基金の官公庁です。少しややこしいのが、圏と県で日本語だと発音が同じですが、括りが違うのですよね。イル=ド=フランス地域圏はパリを含めた8つの県で構成されています。
パランパルミル本部からネーション駅に歩き、ドームスニルの駅で乗り換えます。ドームスニルの駅から、クレテイユ=レシャ駅へ。郊外ですが、パリのメトロの回数券が使えました。
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この日は少しお天気が良くなかったのですが、クレテイユ=レシャを降りるとすぐのところにあったので、助かりました。大きな大学病院なども近くにある地域です。
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迎えてくれたのは「レアジ部署」のエリザベスさんとクロチルデさん。レアジ部署は若者の自立を専門としています。
若者の自立の定義は以下の7つ。
自分で支払いができる住居をもっている。
自分に合っていると感じる職業についているか、その養成課程に在籍している。
行政手続きができている(住民票や保険証があるといった状態)。
健康保険や医療の専門家がついている。
ニーズに応えられるネットワークをもっている。
PCやネット環境を持っていて、そのトラブルについて克服できる状態である(過度な依存が起きない、適切な利用方法がわかるなど)。
移動するための交通手段を持っている。
この中でも特に5番が関係するところかなと思いますが、この部署では子どもたちが社会的養護下から離れるときに、自分のネットワークを得た状態で離れることができるようにということを支援しています。社会的養護下といっても、施設保護になっているというだけでなく、在宅教育支援を受けている子どもなどもサポート対象に含まれます。
「自分のネットワークを得た状態」の中に、頼れるおとなを知っている状態になれるということが期待されるため、パレナージュ・ド・プロキシミテの取り組みに事業を委託しています。
こちらではパランパルミルと、フランスパレナージュという2つの団体に事業委託しており、「パレナージュ」という括りではもう2団体に委託しています。ただ、その2つは近隣の頼れるおとなをマッチングするというのではなく、勉強を教える役割、職業相談ができる役割といった目的でマッチングされる団体です。
子どもに対してどういったパレナージュが行われるべきかをこの4つの委託団体が相談して、どこで受け持つのが良いかを決めていきます。こういう連携ができているのも、とても素敵だなあと思いました。
各団体は年間1,200万円の委託費で100組のパレナージュをおこないます。委託費のほとんどは人件費(2名分)ですが、もっと件数を受け持てるような取り組み(広報や人材養成)を行うために、1,800万円ほどにしてほしいという依頼も受けているそうです。
フランスでは2007年までは「親を支えよう」という考え方が強かったそうですが(今の日本も同じような感じ…)、親の能力を引き出すだけではなく、親じゃない人からも子どもがさまざまなものを与えてもらえるように、地域社会で子どもを育てていこうという取り組みが進んできたようです。
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フランスではパレナージュについて、2022年のタケット法で、社会的養護下の子どもたちに提案することが義務付けられるようになりました。
ヴァル=ド=マルヌ県は先進的に、10年以上も前からパレナージュを委託事業として導入し、すべての人が平等に使えるようにしてきました。
また、それ以外にも未成年者のソーシャルサービスを専門としているEDSが県内に20か所あるとのこと。日本でいうところの児相センターや保健センターが担っているものを1か所で統合しておこなっていて、未成年なら誰でも、どんな問題を抱えていても、ここに連絡すればなんとかなるように福祉サービスが組まれています。
子どもたちはいろいろなところに貼られているポスターやテレビCMなど(掲示の依頼を受けたら掲示することは義務となっている)からこのEDSの取り組みや連絡先を目にし、コンタクトしてくるそうです。
ですので、このノートでも書いた、未成年を72時間保護しても良いとする「72時間の法律」の活用に関しても、このEDSが大きく関与しています。
子どもたちは家を出たいという場合にもEDSに連絡をし、EDSは保護される先などをともに検討することを担います。
また、フランスには母子手帳ではなく「子ども手帳」があります。子どもが生まれてから退院するまでの記録はもちろん、その後の医療歴もすべてここに書かれていきます。
日本の母子手帳にも予防接種については平均的な成長曲線、子育てについての知識などが記載されていますが、フランスの子ども手帳には『どう暴力を使わずに育てられるか?』と言うこともかかれています。
小学校では性的暴力とは何か?ということが教えられるし、高校では子どもの権利について深く学びます。市民として生きる権利を保障するために教育の中で子どもたちがこれらを知る機会がしっかり用意されているのです。
ひとりひとりが、市民として生きる権利を保障するのが公的機関の役割だと仰っていて、日本では市民として生きるとは国に税金を納めること、という理解になってしまっているのでは…みたいなことをつぶやいたら『日本には義務しかないの?』と言われました(^^;
不登校やいじめなどの問題も、学校そのものが国の柱として取り組んでいるものなので、日本のように『合わなければ合わなかった子どもとその親がフリースクールのような合うところを探せるように一生懸命頑張る』みたいなことはなくて、『税金を払っているんだから、学校側が全ての子どもの権利を守り、全ての子どもが気持ちよく学べるように努力し、改善しろ!』と主張します。その権利があるからです。そして、学習面と同じレベルで、心理面・社会面への教育もなされます。
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ヴァル=ド=マルヌだけでなく、フランスのどこにいても必要なサポートが受けられて、ひとりの市民として生きていけるようになることが応援されている背景には「国立児童保護観察機関」の存在も大きいようです。
各県にもひとつずつ、「児童保護観察機関」が置かれているということでした。
法改正後にその運用がきちんとなされているかを監視して報告し、政策提言などに繋げていく役割を担うほか、アイデンティティの確立のために、養子の人が出自を知りたいときもここに問い合わせできるようになっていて、ウィーズでいうところの生い立ちの浄化が取り組めるようにと言う部分にも配慮されています。
ヴァル=ド=マルヌでは若者の自立に向き合う中で、施設措置になる子どもと、家の中でなんとかなる子どもという2極ではなく、その間の層がかなりいるとのこと。そのときに「アキュイ=モデラーブル」という強化在宅教育支援があって、ウィーズがやっている「みちくさハウス」の取り組みはまさにそれではないか?とお話をいただきました。
常に逃げ場がない状況が緩和されることで、親子間の緊張状態が下がることが有効であるというケースはかなりあり、子どもの権利を守るために、この取り組みに予算がついていくよう、近いうちに政策提言を行いたいということでした。
最後には『心配な状況に値する表現が子どもからあり、それが深刻な状況にならないように予防することは大事だよねということを社会問題化できるよう、日本でも頑張って』と激励の言葉をもらいました。
脳科学研究でも、暴力やネグレクトが脳へのダメージが大きいということは何度も指摘されていて、疑いの余地はないのだから、共感してくれる人はたくさんいるはずだからね、と。
(そしてどこかでまとめたいのですが、暴力の概念も日本とは全然違うので、日本に帰ってからは日常生活で出会うあれこれに、「ああ、フランスではこれは暴力だったなあ」と考えさせられることが多くなりました。)
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充実の視察1日目を終えて、宿に戻った私たちは振り返りMTGをおこなって夕食タイムにはいりました。
次の日は凱旋門やシャンゼリゼ通りのある通りへ向かうということで、早めに身体を休めました。
次回は衝撃と愛に溢れる「家族セラピー」のお話!お楽しみに♪
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