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フランス現地の方との対話〜パランパルミルをウィーズの事業にするまで⑧〜
昨年末にはフランスのパランパルミルの圏の代表を2022年まで務められたアンヌ=ソレーヌさんとオンラインで対話する機会をいただけました。
通訳もしてくださった安發 明子さんにたくさん動いていただきました。(感謝)
アンヌ=ソレーヌさんはご本人も施設をでられており、現在はパリの当事者団体の運営を担っている女性です。フランスは各圏に当事者団体の設置義務があり、その費用は県が支払う運用だそうです。施設を出た方と現在入所されている方の権利を守る活動もされています。
私自身がまだまだ勉強不足なので、記事ですべてを書くことができないのですが、一部、ぜひ知ってもらえたらなと思っています。
■現在のパランパルミル@フランス
まず、現在のパランパルミルの状況についてうかがいました(私が持っている現地情報は2010年にNHKで見たのが最後だったため)。
私がとても嬉しかったのは、現在も社会的なつながりを子どもにつくることを目的に運用されているということでした。ずっと継続されているというのは本当に素晴らしく尊いことと思います。
そして、各県にアソシアシオン(組織)があり、事務局(サポートチーム)ともなるアソシアシオンはひとつの県で12名体制(5人がエデュケーター、3人が心理士、4人が有償インターン)で運営されているとのことでした。
利用家庭とのマッチングについては、パリだと600組という数。これが各圏にあるというのがすごいですね。
ちなみに利用家庭の8割はひとり親家庭。『ひとり親家庭の子どもはロールモデルにできる大人がいなかったり、親族が周りに多くいなかったりということで、社会的に孤立しやすいといった課題があります。』と仰っていて、そこは日本と同じなんだなあと感じました。
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■パランパルミルを利用する親御さんの願い
利用したいと申し出る親御さんの多くは『子どもにいろんな体験をさせたいと思っているがそれができない』という方たちです。たとえば、
・働くことでいっぱいいっぱいでエネルギーが足りない
・お金がない
・アクセスが煩雑で知識や情報が得られない
というような状況です。
パランパルミルは子どもの関心や希望を受けての
・図書館に連れて行って絵本を読んであげたい
・まちを歩いていろんな質問に答えてあげたい
・美術館に連れて行ってあげたい
といった願いに対応できたり、子どもの視野を広げてあげられたりする人を求めています。
利用希望はやはり休日が多いので、日本でいうところの「週末里親」に近い運用ですが、日本の週末里親は乳児院や児童養護施設で生活している子どもに限定されており、パランパルミルは対象となる子どもに制限はないという点で大きな違いがあります。
■登録する大人と子ども(利用家庭)のマッチングの流れ
力を込めてお話しされていたことで、とくに印象に残ったのが「ちょうどこの大人が待っているから、ちょうどこの子どもが待っているから、と言って「この人でいいんじゃない」という偶然のマッチングはしません。かならずうまくいくマッチングをします。」という点です。
これを言い切れるのが、パランパルミルの素晴らしさだなあと感じました。
必ず最初に子どもにも、親にも、登録する大人にも問うのは『何に関心があってどんなことをしたいのか』ということです。「本読むのが好き」「サッカーの話が好き」「映画をみるのが好き」といった「好き」を重視したマッチングをすることで、初回交流を円滑にする意図があるそうです。
これは、ウィーズがおこなってきた離婚後親子交流(面会交流)の支援とも似ているところがあるなと思いました。
ただ、どうしても自己決定の経験が不足している子どもたちは「好き」を示せないと言ったこともあるとのこと。
確かに私たちが関わる中でも『なんでもいい』とか『とくにない』とか、そういう返答をする子どもは少なからずいます。
フランスのパランパルミルでは、そういうときには実親に会って、親から子どもが楽しめそうなアイデアをもらうそうです。そのときに気を付けなければならない視点として、親からもらったものはあくまでアイデアであり、子どもが『それが楽しいに違いない』という思い込みはしないと仰っていたのも印象的でした。
それでも子ども自身がどんなことがしたいかわからない場合には、いろんな引き出しをもっている大人をマッチングするそうです。
■マッチングの時に気を付けていること
上記のほかに、物理的距離感も重視されているとのことです。必ず大人側が子どもを迎えに行くシステムのため「遠くてもいいですよ。」と仰る方もいらっしゃるそうですが、少しでも無理をして、結局続けられなくなり、子どもががっかりするというケースをうまないよう『30分以内に行けるところに住んでいる』ことはマッチングの必須条件にされているとのことでした。
また「どんな子どもと交流したいか?」ではなく、「どういう子どもならストレスがかからないか?」も確認し、双方が快適な過ごし方ができることを重視されていました。
「大人に近い言葉で話せる子が楽」という人もいれば、「あまり話さない子が楽」「楽しく話せる子が楽」など、人によってさまざまなので、徹底的に無理が出ないようにしているそうです。
「無理が出ないように」という点は実親に対してもです。
実親(とくにお母さん)がどんな大人が苦手か?ということが事前にヒアリングされます。お母さんがマッチングされた大人を少しでも好意的に見ていない場合、「子どもとこの大人の関係性をなんとか失敗させよう」と無意識的に働きかけてしまうことがあるため「教育には関わらないでほしい」「こういう人は生理的に厳しい」と言ったことを善悪の評価なく言語化してもらえるように努めていると仰っていました。
大人側(マッチングされる大人、実親)に無理が来て感情的にストレスを感じた先に、被害を受けるのは子どもであるということがしっかり認識されているのがさすがだなと思いました。
■登録する大人に求めていること
フランスのパランパルミルに登録する大人たちは3次選考まで進まなければ登録ができません。登録のときにいろんなひとがその人を見ることで、子どもたちの安心・安全を確保することに努めています。
第1次選考(志望理由を書いての書類審査)の時点でかなり多くの方が登録不可となってしまうそうで、その理由もいろいろと教えてもらったのですが、「子ども最優先」で考えられている徹底ぶりに言葉を失いました。
とにかく子どものニーズに応えようとしているかが重要であって『自分の時間を誰かの希望を叶えることに使いたい』といった思いを心から持っている人に子どもをマッチングしたいと仰っていました。
最終選考では心理士による面接があり、その人の生い立ちや価値観などの深いところにも潜って、子どもとのミスマッチや傷つけ合いが起きないように配慮がなされているとのことです。
選考後には研修があり、子どもたちが経験をしてきたことや、虐待が起きるメカニズム、トラウマケアなどさまざまなことを学びます。ケーススタディや、事務局の思いもここで伝えられ、共有されます。
上記は必須研修となりますが、任意研修も児童保護分野の知識のアップデート研修・暴力とその影響に関する研修といった濃い内容のプログラムがおこなわれているようでした。
そしてこれらの研修は登録した大人同士の交流の場にもなっているそうです。
■事務局が担っている役割
登録する大人には資格は必須でないため、虐待やひとり親家庭などの難しい家庭に対して十分理解できていない方もいらっしゃるそうです。だからこそ「こういうときどうすれば?」ということに事務局が対応できる体制をしっかり整えているとのことでした。
また、事務局は定期的に子ども、親、マッチングされた大人とコミュニケーションをとっており、少なくとも2か月に1回は対面するようにしています。半年以上あいてしまうと、何か問題があったときに関係性をなんとかするということはもう難しいため、この頻度にしていると仰っていました。
大人からの相談や問い合わせへの対応は事務局の大きな仕事です。
マッチングされた大人が「あの子はもう呼びたくない」となってしまう可能性も考えられ、そういったことが起きてしまうと子どもに「大人に見捨てられた」という思いを抱かせてしまいます。「こういったことができるのでは?」という提案やフォローをするタイミングも逃さないようにし、絶対に子どもに喪失を体験させないんだ、という強い決意も語られていました。
登録した大人にも家族がいることは多いので、自分の子どもや親戚にも立ち会ってもらいたいという話も出るそうです。子どもにとって多くの人との触れ合いはプラスになることも考えられますが、パランパルミルではまずはその大人と子どもの1:1の関係をつくることを重視しています。それが十分できたあとに、繋がりの輪をひろげていくようにアドバイスをされているとのことでした。
■パランパルミルはフランスでどういう評価を得ているか?
親だけでなく、ほかにも気にかけてくれる大人がいることで、子どもは「こんなことをがんばって発表した!」「テストがこうだった!」と言える相手ができ、学習面で意欲があがったということもよく言われるそうです。
フランスでは学業の過程で職業実習が必須となっており、自分で実習先を探さなければいけないという課題がありますが、パランパルミルで交流がある大人の働く場所に行く子どももおり、ネットワークが広がっていることが役立つ場面も多いそうです。
実親とは違う他の階層の人がもっている知識や、ふるまいを子どもが知れることは新たなロールモデルとなり、将来にも役立ちます。
子どもにとって刺激にもなり、具体的な支援としても有効であるパランパルミルは親にとっても余裕をうむ一助となります。
自分のための時間が取れることはもちろん、たとえば多子世帯で一人の子どもに手がかかってしまう家族では、他の子どもが別々の大人と繋がることで、子どもが個の発散ができる機会が得られるようになります。思春期で親子関係が複雑な場合には、子どもが他の家庭を見たり、他の人と話すことで家族内の緊張が緩和することが多くあります。
専門職による在宅教育支援(要保護までいかない要支援家庭のサポート)を受けている人もパランパルミルを使っているということが「専門職が利用している」という安心感につながって多くの家庭が利用できているそうです。
さらに、いくつもの研究の結果、『子どもにとって、継続的な愛情を受けられる親と競合ではない大人の支えが専門職の支えと並行してあることが子どもの成長にとって有益だ』と示されました。そして2022年、要支援・要保護の子どもに児童相談所がパランパルミルのような取り組みをおこなう機関の利用提案をすることが法改正により義務付けられたこともとても大きいようです。
■おわりに
フランスでは子どもを1人の人として尊重し、子どもの意思に向き合うことが自然な考え方であることをあらためて感じました。
日本でもこの大切さに目を向けられることが多くなってきたと感じますが、実際には子どもの意思が尊重されなかったり、大人都合で物事が進んでしまうことの方がまだまだ多いように思います。
文中でも少し触れましたが、私たちの活動、とくに両親の離婚や別居に関する子どもの支援で感じてきたことですが、その経験もふまえつつ、フランスの仕組みや事例に学びながら、真に『子どもを地域で支え、育てる社会』を創っていきたいと思いました。
日本でパランパルミルを実現するときのアドバイスもいただいたので、それはまたの機会に書けたらなと思います。
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![Ayumi Mitsumoto🍃NPO法人ウィーズ理事長](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/136042238/profile_25af5150d9b634128a9fe39082e811f7.jpg?width=600&crop=1:1,smart)