今年の春、私を思い出す旅をした。前編
その日は天気が良くて、午後からパークヨガのレッスンを開催した日だった。芝生の丘の上で参加者さんを見送ったあと、スッキリした頭の中に「あ、これから東京に行こう。」と浮かぶ。
今までは仕事だったり、友人と遊びに行く時しか東京に行ったことが無かった。20代前半の頃は、都会にはなんでもあると憧れたこともあったけれど、いつの間にかその気持ちは消えていた。
だからこそ急にそんな気持ちが生まれたことに驚く。でもなぜか「絶対に今から行く。」そんな衝動に駆られて、急いで出かける準備をして、新幹線に乗り込んだ。
自分のために一人で新幹線に乗るのも初めてで、少し緊張したのを覚えてる。外の景色を見ながら宿泊先を探し、急遽雰囲気が好きな @citan_tokyo のドミトリーを予約した。相部屋で眠れるだろうか…。移動中仕事を少しでも進めようとパソコンを開いたけれど、キーボードに置いた指は一向に動かない。「私は何をしに東京に行くんだろう、行ってどうなるんだろう、東京にいる知人に連絡を入れて会う?どこかで仕事をする?」そんなことを考え始めて、こりゃだめだとパソコンの画面を閉じた。
伏せていた目線を左側の車窓に移した。物凄い速さで移り変わる景色をぼーっと眺め、昔言われた言葉を思い出す。
そうか、そうだよな。この弾丸一人旅に意味があるという根拠はどこにも無いのに、なぜかその言葉で不安だった気持ちは落ち着いてしまった。
いつの間にか到着した東京駅でタクシーを拾い、宿泊先まで向かった。空はすでに薄暗いのに東京の夜は明るい。ホテルで受付けを済ませて4人部屋へ向かう。今日からこの二段ベットの上が私の小さな本拠地。
明日は早起きをしよう。
次の日、シタンのモーニングで久しぶりにフレンチトーストを食べた。入口の外にあるカーブを描いたカウンターからは、店内で調理をする店員さんの様子がよく見える。今日もいい天気になったなあ。頼んだ朝食を待ちながら、足早に歩く出勤中らしき人々に目を向ける。
「お待たせしました。」
届いたプレートには、たっぷりのサラダと厚切りベーコン、ふわふわのフレンチトーストが乗っていた。こんなにお洒落な朝食は久しぶりだな、と思わず胸が踊る。
一口ずつ噛み締めながら、これから始まる今日という日への期待感が高まっていく。食事をしながら目の前にある小さな容器に目が行った。ラベルのイラストには、バイクに乗ってキスをする男女と、その後ろには沢山のカラフルな荷物を乗せた赤い車が描かれていた。( @shin._illustration )
「絵を描くの好きだったな…。」
その絵から目が離せず、食べる手が止まってしまった。学生時代、美術部だった私は、一つの場所に集まって活動をする時間がとても窮屈で、部室にはあまり寄りつかなかった。でも絵を描くことは好きで、長期休みの課題で作品を描く時は、何枚もキャンバスを持ち帰って、絵を描いたのを覚えてる。大きなキャンバスを抱えながら、音楽をイヤホンに流して夢中になって絵を描いた。
当時、親へ心を閉ざしていた私が、唯一感情をぶつけられるものが、絵だったように思う。沢山の四季の花の中で向き合って微笑みながら涙を流す男女や、絵の具を沢山ぶつけられて無表情で泣いている女の子を描いた。あまり会話をしなかった母親も、絵を見せると喜んでくれた。
2021年の10月に大好きなお店と、ご飯×ヨガのコラボイベントを開催した。( @yunagi_gohan )その時には参加特典として、ヨガ哲学の絵本を手作りした。
『何があっても、あなたの輝きは失われない』
そんな想いを込めた絵本で、久しぶりに誰かに伝えるために描いた絵だった。夜な夜な夢中になって作ったのが懐かしい。
シタンでそのイラストを見た時に、メッセージ性のある絵本や絵が好きで、そういったものを作るのが好きだったんだと思い出すことができた。
その日は、緑色の自転車を借りて街に出掛けた。耳からはジャズが流れている。ジャズだって、最近好きだったのを思い出したんだよな。
幼少期に見た猫たちが主役の「おしゃれキャット」というアニメ映画。猫たちがジャズを演奏したり、絵を描いたり、しょっぱいビスケットをミルクにつけるネズミもいた。その演奏シーンを観て、歌いながら母親のキングベットの上で何度も飛び跳ねた。
だからか、小さい時からジャズのリズムが好きだし、ヒップホップも、あまり機械音で声を変えたものより、ジャズテイストでハッキリ声で伝えてくるものが好きだったりする。
自転車のペダルを漕ぎながら、すれ違う人々が視界に入る。暗い表情の人が多いのは気のせいだろうか。忙しそうに電話をしながら走っている人、ギリギリをすれ違う人、携帯をずっと見ながら歩いている人。あと、いろんな匂いもする。ドブ臭いと思ったら、凄くお腹が空く良い匂いがしたり、すれ違う人が多い分、沢山の人の匂いもした。目と鼻と耳が忙しい。
続く
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