![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/169657992/rectangle_large_type_2_a06cbe88d3e3f6b6a6acfade92199458.png?width=1200)
eリファレンスから回答をいただいた 「死刑の前」の自筆原稿のこと
昨年暮れ。大阪府立図書館のeリファレンスに依頼をしてみた。依頼した内容はこれである。
幸徳秋水のものとされる「死刑の前」の自筆原稿が掲載されている書籍がないか
戦後に初めて「死刑の前」が公表された雑誌「世界評論」に自筆原稿がチラッと(本当にチラッとだけ)掲載されていることは知っていたが、他にもっと鮮明で、もっと量のあるものはないだろうかと思っていた。一人で探すにはあまりにも探索範囲が広すぎる。そこでeリファレンスに依頼してみた。
依頼したのは昨年12月25日。最大二週間かかるとあって、年末年始もはさむので来週の中頃になるかと思っていたが、今日1月11日に回答をいただけた。ありがたいことである。
「死刑の前」の自筆原稿が掲載された書籍はあったのか。回答は最初に記載されていた。
結論から申し上げますと、幸徳秋水著『死刑の前』の自筆原稿が掲載されている資料を見つけることはできませんでした。
なんとなくではあるが、ないかもしれないとは思っていた。そもそも神崎氏は何故『新編獄中手記』に「陳状書」の自筆原稿を載せたんだろう。何故「死刑の前」でなかったんだろう。
ん。
あ。
新編?
はて。
「新編」じゃない方はどうなんだ。
⋯⋯後で考えよう。
さて。eリファレンスの回答である。
答えは「見つからなかった」ということなのだが、調査内容は細かく教えて下さっている。
これには本当に頭が下がった。
列挙された文献は38。
参考文献は37。
参考URLは21。
知らないものも少なからずある。
何より目を引いたのはこの文だ。
大きく次の2点について調査いたしました。
1.『死刑の前』の自筆原稿が掲載されている資料の調査
2.『死刑の前』の自筆原稿原本の所在について
なんと。自筆原稿原本の所在についてまで調べて下さっている。私はそれは依頼しなかった。一度に複数を依頼するようでルール違反ではないかと思ったからだ。そこまで察して調査して下さるとは。感謝の意を表したいのだけど、回答のメールには返信できない。この場を借りてお礼申し上げる。御覧になってはいないかもしれないが。
そうなると気になるでしょう?
自筆原稿の所在
リファレンス事例をあたってみたがまだ掲載されていなかった。掲載されるのかどうかもわからないけど。
「2.『死刑の前』の自筆原稿原本の所在について」は次のようにあった。
『刑事司法記録の保存と閲覧:記録公開の歴史的・学術的・社会的意義(龍谷大学社会科学研究所叢書 第141巻)』(石塚伸一/編著 日本評論社 2023.2)【327.6/112NX】
思わず「なんだ、この資料は」と思ってしまった。「第141巻」である。大学研究所とは言えここまで研究しているのかと、これまた頭が下がる。この文献に『大岩川嫩「第4章 大逆事件記録公開の意義」』という章があるらしい。そこで、神崎氏の『獄中手記』をひいているのだ。eリファレンス回答では次の文を引用してくれている。
これらの獄中手記は、本来遺族の手に渡されるべきものを官憲が隠匿していた。それを、1945年敗戦直後のどさくさで焼却処分寸前のところを、裁判所の守衛のような者が拾い上げて持ち帰り、前記佐和慶太郎人民社社長に売却したという。その後、これらの手記の原本は佐和慶太郎の手を離れて、現在は行方不明である。したがってこの貴重な記録をいちはやく公表し、活字化して出版しておいた神崎清の功績は大きい。
「現在は行方不明」。
この文そのものは2023年に書かれたもののようだ。
eリファレンス回答は、もう一つひいている。
・『幸徳秋水研究』(糸屋寿雄/著 青木書店 1967)【289/K1it/1】
実は、これは読んだ。
「第四章 幸徳秋水研究の史料」
そこにはこう書かれている。
〔死刑の前〕
明治四四年一月、東京監獄で記した秋水の絶筆で、日本紙の原稿用紙(四〇〇字詰)二八枚に毛筆で墨書されてある。戦後佐和慶太郎氏が雑誌『真相』発行時代に入手し、現在南喜一氏が所蔵している。
これが1967年のことである。
南喜一氏とは誰ぞ?
おそらくはこの方かと思われる。
なんというか、いろいろな意味ですごいかたである。1893年生まれというから、大逆事件の1911年は19歳であったわけだ。1967年には原稿をお持ちだったのかもしれないが、1970年に亡くなっておられる。既に半世紀も前のことである。
eリファレンスの回答には続きがあった。
これに関連し、以下の論文にて南喜一氏の旧蔵資料が「広島大学文学部日本近代史研究室」にて保管されている旨の情報がありました。ただし、「死刑の前」の原稿も含まれるかは不明です。
え?
南喜一氏の旧蔵資料が広島大学へ移った?
それを書いた論文がこちらである。
p88の注記4にこう書かれている。
「南喜一旧蔵史料」は筆者が研究代表者を務める科研費によって 2023 年度に古書店より買入れ、現在は広島大学文学部日本近代史研究室にて保管されている。
南喜一という人は「私娼解放運動」に尽力した方であるらしい。タイトル通り、本論文は玉ノ井の私娼解放運動に関するものである。大逆事件のことは一言も、ない。論文著者は私娼研究の一つとして南喜一氏の蔵書を受けたのだろう。蔵書を一部引き取ったのか、これとも一括して引き受けたのか。大逆事件の史料はあったのかなかったのか。というか、古書店にあったのか、南喜一氏の旧蔵書が。え? 「死刑の前」の自筆原稿も古書店にあったの? 買い取ったのが2023年。つい最近じゃないか。
うーん。
大逆事件に書かれたとしたら既に百年以上が経過しているんだが。紙が傷んでいないか、墨書は薄れていないか。
うーん。
「死刑の前」
君は今、どこにいるの?