安全はどうやって作られる?原子力安全の例に学ぼう。
原子力施設は事故時の被害が非常に大きいため、『いかにしてより安全にするか?』は永遠のテーマです。追い求めています。
せっかく安全設計の知見が積まれているなら、いろいろなところで活用できたほうがいいですね。
そこで今回は原子力施設の安全設計の思想を紹介します。
(業務上の守秘もあるので、ネットか手持ちの書籍で確認できる範囲で記載してます。)
そもそも防災って
防災という言葉は日常でも耳にする機会が多いですが、防災の業界ではさらに細かい分類があります。(これは原子力に限らない話)
すなわち、防災、減災、縮災の3つです。
防災
読んで字の如く、災害を発生させないこと。
火災で言えば火種を無くすことや可燃物を無くすことが該当します。
原子力では、原子炉自体を小さくして、外部電源を喪失した際に自然に冷却されるようにするなど。(原子炉の出力が下がりますが、いわゆるメルトダウンの可能性を理屈上ゼロにできます)(言い過ぎかもしれない)
減災
災害が起きてしまった際の被害を減らすこと。
火災で言えばスプリンクラーが自動起動したり、防火シャッターが閉まること。
原子力では、放射性のガスが建物内にとどまるようにしたり、外に出る場合はフィルターを通過する経路にしておくなど。
縮災
災害による被害からの回復を早めること。
これはちょっと例えにくいですが、地域コミュニティの互助システムを構築しておいたり、建物をモジュール化して組み立てを容易にするなどが考えられます。
横軸を時間、縦軸を生活満足度とすると、以下のような関係です。
原子力における安全設計の例
多重化と多様化
安全のために必要な機器Aがあったとします。
Aが壊れると事故が起きるとすると、ひとつだと不安になっちゃいます。
そこでAをふたつに増やします。これが多重化。
同一の機能を複数用意します。
機能によっては並列ということもあります。
Aが電源を必要とする機器だった場合、停電すると2つとも機能しなくなってしまいます。
そこで、停電に備えて別の原理(手動など)で動く機器Bを備えておきます。これが多様化。
こうしておけば、ひとつの要因(停電、地震など)で全部使えなくなる、ということを避けられます。
このように、防災(または減災)の手段を多段階で用意することで、ひとつでも機能すれば災害が起きない(または災害が拡大しない)、というのが多重化/多様化の思想です。
フェイルセーフ
これは有名。トラブルが起きた場合に安全側に移行するような設計です。
かの有名なデーモン・コアを例にしてみましょう。
1分で書いたのでクオリティは許してください。
金属の半球のあいだにドライバーを噛ませて、どのくらい近づけたら臨界になるか、という実験をするための装置です。
上下の半球が完全にくっついてしまうと臨界状態となり、周囲の人を殺してしまう、という極限実験装置です。
実際にドライバーを操作していた研究者の方が亡くなっています。
この設計では、半球間の距離を調整しているドライバーが安全性のすべてを担っており、誤って抜いてしまうと即臨界です。こわいですね。
もちろんこれはフェイルセーフになっていません。どうすればいいでしょうか?
はい。
上下反転しただけですが、この状態であれば、ドライバーの操作を失敗しても半球は重力で開いていくので、臨界になりません。
(が、閉じてしまう可能性はあるので、対策としては不十分です。一例ということで。)
このように失敗を前提として、失敗が起きたとしても事態が進行しないようにしておくのがフェイルセーフの基本です。
まとめ
これらはほんの一例ですが、他にもタンクの容量を小さくするとか、液体の移動をゆっくりにするとか、経済性や作業効率を犠牲にして安全性を高める設計がいくつも組み合わせられています。
さらに、設備が持つ安全機能を十分に発揮させてやれるよう、安全設計を理解した作業者が操作することで、ハード(設備)とソフト(作業員)の両面から安全性を高めています。
また、作業に関わるのは信頼できる人だけにしましょう、という取り組みもされています。
そしてさらに「だから安心!」とは言わずに、常に安全を求め続けることが何よりも重要です。
事故は確率で考えるのが一般的になってきており、こういった対策がどれだけ取られても、絶対の安全はありません。いつか起きます。
ただ、それを100万年に1回に、いや1000万年に1回に、と安全性向上が追い求められ続けています。
関係者のなかに安全を求める文化が醸成されるのが、なによりも大事です。
最後は、人なんですね。
そんな感じでいろいろ考えていますので、安全なシステムを作りたいと思った際には活用してみてください。