狂犬病予防法(昭和25年成立時)/ 第二章 通常措置(抑留)第六条
今のではなく、昭和25年に出来た時の狂犬病予防法を読み続けています。
通常措置で行われる「抑留」。今でいうところの「徘徊している犬が保健所やセンターの人に捕まって連れていかれた」的なこと。
現在(令和六年)使われている法律でも第六条です。捕獲する時の細かいことや日数が違いますが、大筋では変わっていないと思います。
(※條を条に直したり、当時の文字と違う書き方をしています)
長いです
今までの通常措置の条文は、文字数も多くなく分かり易かったと思いますが、これはちょっと長い(文字数多い)です。
何故かと言えば、犬を持っていかれたり処分されたりする(国民の基本的な権利である所有権を制限する)ことについての定めなので、しっかし書かれているのだと思います。
これは、第一条のページの公共の福祉の項目を読んでいただければ、少し理解が深まると思います。
第六条(つまり1ですね)抑留しなければならない条件
以下の条件の何れか1つでも当てはまれば、その犬を「抑留しなければならない」。
・登録を受けず
・鑑札を着けず
・予防注射を受けず
・注射済票を着けない
ここは今の法律と同じです。
2 捕獲人(予防員のお手伝い)
第三条で「予防員」という特別な立場の人を任命すると定められていて、狂犬病予防法関連の現場ではこの立場の人が動きますが、数が少ないので捕獲までの人出がなかったのでしょう。なので捕獲専門の「捕獲人」を指定して、使用したんだとおもいます。
この条文ではその「捕獲人という人がいますよ」と書いてあるだけ。
(参考)
現在(令和六年)有効な狂犬病予防法でも「捕獲人」とされていますが、狂犬病予防法施行規則では「狂犬病予防技術員」と呼ぶことになっています(狂犬病予防法施行規則 第14条、昭四二厚令四〇)。
3 捕獲人は犬の捕獲するときは、身分を示す証票を携帯し見せる
捕獲は、飼い主の所有権の制限になるくらい重大なことでもあります。捕獲人の振りをして、犬さらいだって出来てしまう。
そのようなことが起こらない様に、捕獲を行う時は予防員同様(第三条第二項)、身分を示す証票を携帯して必要があれば呈示する。
(呈示は「証券や身分証」などを見せること。提示は一般的。)
4 抑留したら通知する
所有者が分かっている場合は、所有者に引き取るべき旨を通知。
分からない場合は、市町村長に通知。
5 公示
市町村長が通知を受けたら、二日間公示。
6 処分することができる条件
4の通知を受け取った後、又は、5の公示期間満了後三日以内に所有者がその犬を引き取らないときは、処分することができる。
「できる」であって「しなければならない」ではない。
また、所有権について明言はない。
7 所有者に対する補償
6の定めに従い処分が行われた結果、所有者に生じた損害は補償する。
〇今の法律との違い(捕獲追跡中の立入り)
今の法律では捕獲しようとしている犬が「所有者又はその他の者の土地、建物又は船車内に入つた場合」「捕獲するためやむを得ないと認めるときは、合理的に必要と判断される限度において」立ち入ることが出来る。
例外として「人の住居」「看守者又はこれに代るべき者が拒んだとき」となっている。
この規定は、国を挙げて狂犬病の撲滅を目指していた昭和29年の改正時に入りました。犬が自由に出歩くことで犬から犬への感染が広がり、それがある限り撲滅できないので、抑留を徹底しようとしていました。
ただ(ずっと後になりますが昭和29年の狂犬病予防法施行規則改正の時に説明しますが)柔軟な対応をとるよう通達がでていました。
つまり「この犬こそは捕まえねば!」とした犬を捕獲していたようです。そのような犬を納屋や物置、船などに匿ったのではないかと想像しています(小川未明の「青い石とメダル」を思い出します)。
興味深いのは「人の住居」までは探さないこと。家の中に犬を入れる人が少なかったからなのでしょうか。
〇今の法律との違い(公示期間満了後の日数)
当時の法律では「三日」ですが、今の法律では「一日」です。
これも昭和29年の狂犬病予防法改正時に「一日」になりました。その理由については(前段と同じく)昭和29年の法改正後、施行令、施行規則が改正され、その後に出された通達(「狂犬病予防法の一部を改正する法律等の施行について」 昭和二九年八月二七日 / 発衛第二五七号 / 各都道府県知事各政令市長あて厚生事務次官通達)に書かれています。
ず~っと後になりますが、昭和29年の狂犬予防法改正も取り上げる予定です。
◇動物愛護管理法の引取りとの関係
敗戦後の占領されていた頃に成立した狂犬病予防法は(それまでの法律や実情を踏まえて)作られましたが、この抑留が、昭和48年に成立した動物保護管理法(後の動物愛護管理法)の「犬及び猫の引取り」に繋がっていきます。
狂犬病が国内では感染報告がなくなってからは、抑留所は迷惑な野良犬を収容する場所になり、ついでに迷惑な猫も収容されるようになり、それを動物保護管理法に定めるようになりました。
◇所有者が不明な犬
今テーマにしている法律が成立し適用されていた頃ではなく、今の話。
昭和25年の狂犬病予防法では、二日間公示~その後三日以内に引き取らなければ処分することができる状態になる。今の狂犬病予防法も(日数は少し違うが)だいたい同じ。
※「処分することができる」と書かれていますが「所有権を放棄したものとみなす」など、所有権には言及していません。7項に「損害を受けた所有者に通常生ずべき損害を補償」とあるのはこの辺りとの関係もありそうです。
動物愛護管理法では日数の規定はなく、飼い主が名乗り出るまで収容している日数は、各都道府県毎に決めています。
例えば東京都の場合、東京都動物愛護相談センターの業務案内のページに「飼い主不明の捕獲・収容した動物の収容期間は最低7日間」とあり「収容期間を満了した動物や飼い主から引き取った動物」の譲渡に付いて説明があります。
実運用として(「処分できる」と書いてあるので)収容期間満了をもって新しい飼い主さんを探すことができる状態になるように読めます。
しかし法律を読む限り明確に、元の所有者以外の者が所有権を取得できることが書かれているのは、民法二百四十条と遺失物法第三十二条しか見当たりません。
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- 民法 ー
(遺失物の拾得)
第二百四十条 遺失物は、遺失物法(平成十八年法律第七十三号)の定めるところに従い公告をした後三箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。
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抑留した犬を処分するに至る過程を(当時の社会情勢を踏まえて考えると)元々所有者がいない犬(完全な野良犬)つまり無主物として考えていたと想像しています。この考えであれば、狂犬病予防の「公示」~「処分することができる」は成り立つはずです。
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(無主物の帰属)
第二百三十九条 所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。
2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。
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- 遺失物法 ー
(遺失者の権利放棄による拾得者の所有権取得等)
第三十二条 すべての遺失者が物件についてその有する権利を放棄したときは、拾得者が当該物件の所有権を取得する。(以下略)
2 略
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現代に於いて多くの場合、元の所有者がいるので、民法第二百四十条と遺失物法第三十二条の三ヵ月ルールで「拾得した者がその所有権を取得する」ことが出来ることになるようです。
◇遺失物法による取り扱い
法律上、犬も物なので遺失物法による取り扱いになります。
「警察に届ける」「三ヵ月の間の所有権(管理)は他の「物」と同じ扱い(生き物であっても特別扱いがない)」。
基本的なことが書かれた以下のページを紹介しておきます。
ペットを拾ってしまったら…遺失物法 @ 加藤一郎税理士事務所
(3)拾得物が犬や猫であった場合の注意点 @ ベリーベスト法律事務所
関連の事件として有名なものの記事を載せておきます。
・放置された犬を保護して飼育 3カ月後に返還要求、裁判に発展 @ Sippo
・排泄の失敗を片付けていたその時…
(置き去り犬めぐちゃん「強制執行」~「動物はモノ」という悲しい現実)@ FRaU
犬の保護と飼い主の所有権との関係 @ 目黒総合法律事務所 (このページは関係法令や裁判の判旨なども掲載されています)