しかたないの次に見据えるもの
自分がよく口にする言葉のひとつに、「しかたない」がある。
仕事相手がこちらのお願いを聞いてくれない。うん、しかたないね。
あれ、モツ煮込み作りたいのにミソ切れてるじゃん。うん、しかたないね。
7点も取ったのに、気がついたら逆転負けしてた。うん、しかたないね。
でもこの「しかたない」は、Give up (諦める)ではなく、Accept(受け入れる)だと思ってる。
東京ヤクルトスワローズ、坂口智隆、35歳。
今年36歳の年男を迎える色男は、ファンからは「グッチ」の愛称で親しまれている。神宮に姿を見せると黄色い声援が外野から一塁側を包み込むベテランプレイヤーだ。
ヤクルトに来たのは2015年オフ。不振を理由にオリックスから自由契約となり、こちらも昔オリックスでプレーしていた大引に誘われる形で入団、翌年から.295、.290、2018年には3割超の打率を残し、ヤクルト不動の一番バッターに座った。
また、18年シーズンには、それまで慣れ親しんだ、過去にはゴールデングラブ賞も取ったセンターからファーストに異例のコンバート。
今では内野守備も時にはセンターもライトもそつなくこなしてしまう、猛牛戦士最後の現役野手でもある。
気がつけば1塁に坂口。
そんな3年間だった。
そのグッチが2019年3月開幕3戦目、デッドボールで骨折した。
ぶつけたくてぶつけているわけじゃないのはとてもよくわかってるけど、いつも飄々とバッターボックスに立つその男が苦悶に歪める表情に、怪我の深刻さを痛感する。
シーズン初グッチは去年の誕生日、たった1ヶ月ちょっとで1軍復帰したグッチはいつものように飄々とアップをしていた。
骨折してもそんなに早く戻って来れるんだ!と興奮して1塁側の内野席ゾーンをうろうろしながら試合を見たのを覚えている。
しかしケガの影響なのか、そのバットから快音は聞こえない。グッチらしくない、弱々しい打球が内野を転がってその試合は負けた。
3連敗目の試合だった。
それからも打てない日は続く。
打順は下がり、でも打てない。
身体に塩を塗り込んでお祓いをしたかわいい19歳が雨雲を切り裂く3ランHRを打っても勝てない日々が続き、グッチのバットからも快音は聞こえないまま、やがて6月上旬にはファームへ。
戸田でもなかなか調子を取り戻せないまま、グッチの2019年シーズンは終わった。
それを振り返ったグッチは、でも人のせいにはしなかった。自分が避けきれなかったから当たってしまったし、復帰後に結果を出せなかったのも自分のせいだ、と。
そしてそれを受け入れて、オフにプロになってから1番バットを振り込み、やらなかったロングティーにも取り組み、自主トレも若手と一緒にやったそうだ。
グッチは言う。
「勇気を与える1番打者になりたい」と。
たとえ打った打球がどん詰まりのゴロでも、アウトのなり方、それまでの過程でどんな対応をしたのかを後ろのバッターに伝える。
それが自分が考える1番バッターだ、と。
真っ暗な現実を一度受け入れ、その上で最適なことは何かを探す。それが「しかたない」と呟く感情の裏側を支える心の持ち方なんだと思う。
仕事相手がこちらのお願いを聞いてくれないなら、Plan Bを提案しよう。
モツ煮込みに味噌がないなら、トマトソースで煮込んでみよう。
目の前の勝てる試合を落としたなら、明日同じことをやらないようにしよう。
しかたないは、最善手を探す合言葉。
16連敗した。
うん、しかたないね、明日も全力で応燕しよう。
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