第58回 福岡市民芸術祭『線香花火』
2021.9.23 福岡市民会館(大ホール)
蕾・牡丹・松葉・散菊。
赤い火玉と共にひとりの人生を追う。
和の音と洋の音の合わさった生演奏に瞬時に心を掴まれた。心地よくて壮大で、心に響いて染みる。澄んだ尺八の音色も、音に厚みと深みを添える和太鼓も、これ以上ないほどに素晴らしくて。お囃子で人の声が加わると感情や表情が濃くなって、シーンも気持ちも盛り上がる。和洋新古、場面ごとに変わる曲と楽器。1音たりとも聴き漏らしたくないほど贅沢だった。私の好きな"ボレロ"と"あの夏へ"も聴けたのがとても嬉しい。
出演者が次々に登場してそれぞれ楽しそうに、ひとりで、もしくは複数でボール・椅子・靴などで仲良く戯れる。じゃれたりつっつきあったりふざけたり。先生に怒られながら集合写真を撮る。ああ、もうこの場面だけでも微笑ましくて懐かしいのに。学生時代を思い出すような素敵なはじまり。
スポットライトの当たった3つの水色の玉。そこからは幼子の喜・哀・楽の声が聴こえる。ものすごい可能性とエネルギーを含んだ蕾期、人生のはじまり。
真っ白な階段に映し出される雨水や火の粉などの映像。恋心の淡く芽吹いていく姿は正に炎舞と日舞にぴったりで息を呑む。
点っては消えるトーチの燈。炎刀を鞘に収める瞬間、炎が一瞬だけ勢いを増しボッと燃え上がった情景が表しようのないほど美しかった。
椅子取りゲームでは会場も手拍子参加。宝箱をみつけてきてみんなで開ける。と、そこから飛び出すバトン。
平井さんのバトンの演技に進むと、華やかでフレッシュでエネルギッシュな牡丹期に。次々に繰り出されてアクロバティックに展開する構成。
それに恋する主人公だったが叶わず、その気持ちをぶつけるかのような表現をするのに登場したのがシルホイール!
重みのある遠心力と回転音。連続して軽快に大技を魅せる界さん。もうこれを生で観れただけでも感涙。
また、舞台上が四角くライトアップされ、体操の大会での演技シーンも。結果は敗れる。自分の学生時代の部活や大会などでの懐かしい風景がふと蘇った。
勝敗・失恋・苦悩、青春の牡丹期。
場面から場面への繋がりや間、出来事には必ず一平さんによって刻まれる重要な主軸の音が存在していて、それが時間や鼓動であったりその速度や経過、空間や感情、物の重軽や長短、動作、歳月や年齢までも細かに足ひとつで表現されていて凄かった。
ゆうさくさんのディアボロは圧巻。猛き力は松葉期だろうか。ダイナミックに凄いことをやってのけているのにあんなに優雅なのはなぜなんだろう。ものすごい安定感。ずっと観ていたかった。
そして一平さんとゆうさくさんのおふたりが掛け合わさると、さらにとんでもなく凄いものになる。おふたりのシンプルかつパッションの演技は以前にも別の公演で拝見していたが、観るごとにお互いへの信頼とリスペクトとパワーが増していて、大好きがもっと大好きになる。
茉莉花さんのコントーションは清らかな美しさとしなやかさ。なによりひと技に対する丁寧さが際立つ。恋に落ち、そして叶う。
界さんの影のように現れた高取さん。一脚一脚高く積み上がっていく椅子。もうこれ以上積んだら倒立した足先が天井の照明や幕に届いてしまいそうなほど高く。ミラーボールによって客席も眩しく照らされ、倒立の成功で会場中が湧く。時を重ね歳月も経験も重ねた熟練の、同じく松葉期か。
穏やかに流れる時間とだんだんと弱まる力とその命の燈。あの頃の仲間たちが集まる。みな真っ白な衣装で。界さんが舞台上で回転する白い階段の一段目に足をかけた時、いよいよ迫りこれから訪れる"その時"を悟り、感情も涙も堪えきれなくなった。
ゆっくりと登りきると赤い火玉を持つ手を高く掲げる。その状態で何秒時が止まっただろう。静かに真っ直ぐ落ちて暗転。
火玉を拾い大事そうに抱えて去っていく藤間さんの姿が目に焼き付いて離れない。
白い着物に中島さんによって描かれていく画。私にはそれが生命が吹き込まれていくように思え、再生や紡がれる命を感じずにはいられず勝手にそう解釈したラスト。
書かれて照らされた一文字も、次の世代や新たな時代が幸せであることを願い、この世の中に生きるすべての人の幸を願ってのものだと受け止めた。
場面が転換していっても、赤い火玉は消えることはなく次のシーンに登場し、ストーリーの繋がりを自然に感じられる素晴らしい演出だった。
出逢いと別れ、幸と不幸、光と影、成功と失敗、始まりと終わり、そして生と死。
人生は陰陽の繰り返しで、それに付随し派生するいくつもの出来事と人の繋がり。
線香花火は刻々と変わる、昇っては沈んでゆく一日の一連の太陽の運びや春夏秋冬にも重なって思えた。
真っ白な階段が数々のシーンに違う表情や意味で登場し使われていたのも見事だ。
これはおまけ。
カーテンコールの3度目に界さんが側宙で出てこられた。着地した時、床に散っていた花吹雪がもう一度息を吹き返したように風紋となって広がったあの光景があまりに美しくて忘れられない。思わぬ記憶のプレゼントとなった。
さて、こんな感じで昨日観たものをじっくり思い出しながら今も黙考している。まだまだ解釈出来ていない部分も前後逆転してしまっている部分も足りない部分もたくさんあって。書いても書いても感想がまだまだ湧いてくる。
伝統芸能と現代サーカスが融け合い織り合う舞台はこの上なく最高だった。
考えれば考えるほど深くなり、思い出せば思い出すほど膨らむ。あと100回は観たいし、観続けていきたい素晴らしい作品とはこういうものだとも思った。
この作品を観るのは今回が初めてだったので、もちろん観たものがすべて。以前の線香花火とどこが違っているかとか、何が加わりなにが削られ変わったたかは一切知らない。ただ、作品の過去へも興味が滾々と湧きあがってきてとまらない。今とてもみんなで語らいたい。
最後に、
この時期にこの場所でこの作品を観れたこと、その選択と決断をしたことは間違いなく私にとっての一生のうちに起こる"幸"となりました。
私達ひとりひとり、誰もが線香花火であることを常に忘れずにいたい。
"人生は儚く、美しい。"
そしてとてつもなく切なく、愛おしいと加えよう。
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