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「太古」の空気にふれる、江之浦測候所
小田原文化財団 江之浦測候所へ行って参りました。
センス高めの雑誌に取り上げられ敷居が高く感じられましたが、日曜美術館で特集されているのを拝見し、珍しく興味を持った両親とともに電車に乗って根府川駅へとやって参りました。
*解説文などは受付で頂いた冊子をもとにしています。
駅からは専用のバスが迎えに来てくれました。(チケット代込み)
海岸線から山のほうへとても心地よい風が期待をふくらませます。
「甘橘山」の看板が掲げられた江之浦測候所参道を通り、受付へと向かいます。
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この土地の、昔からそのままの状態なのかと錯覚してしまいます。
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数奇家建築家で茶人でもあった仰木魯堂(あおきろどう)により解体保存されていた。
明月門が来訪者を出迎えます。桜の木がそばにあり、あたかも寺院の境内に足を踏み入れたかのような気持ちにさせられます。
受付を過ぎ、待合棟にて小休憩し、まず最初に向かったのがこちら。
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中には杉本博司氏の「海景」シリーズが設置されています。
「海景」を見た先に、実際の「海景」を臨みます。
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美しい、と目の前にあるもの全てに感動しました。
建築そのもの、使用されている素材、作品、そして建物の中から見る自然環境。ハコモノとされている、美術館では視界が狭くなりがちですが、このような空間、環境に居れること自体に満足感をおぼえました。
自然と視界が開けて周囲のもの全てを見ておきたいと、受け入れたいと何度も立ち止まってしまいます。
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続いて気になっていたこちらの礎石。
東大寺/七重塔/礎石/天平、どのワードもかなり重厚感のある歴史を感じざるを得ない、時空を超えた対面となりました。
測候所の中では、この礎石がある辺りが一番高い場所になり七重塔をイメージするには非常に良い環境です。当時の高さは100メートルを超えていたそうで、礎石としては日本最大級とされています。国宝級のものがふと目の前に存在することにぎょっとしてしまいますが、不思議とずっと昔から存在していたかのように見えるのもこの測候所ならではの感覚かもしれません。
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小路を進んだ先にたたずむ茶室「雨徳天」。
千利休作と伝えられる「待庵」の古典様式を引用しつつその精髄を転化させて構想されました。
江之浦の地には同じく利休作と伝えられる茶室跡があり、また、この土地にあった錆果てた蜜柑小屋のトタン屋根の素材を使用したりと土地の記憶を茶室に取り込んで建てられました。
現代に建てられた茶室と、古代の鳥居。
時代背景を知ったとしても、隣り合う二つの存在に違和感は全く感じませんでした。周囲の自然環境と同様になるべくして存在しているに過ぎない、当たり前の風景に感じられ、引き寄せ合っているかのようにも感じられました。言葉で表現するのがなかなか難しいですね…。
ほかにも(と言うより全てにおいてと思いますが)、
昔からそこに存在していたがごとく風景として印象的なものをいくつか取り上げます。
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もしかしたら見逃していたかもしれない。
太古の景色を目の当たりにしているかのような気持ちになり、自分自身も当時の人間になったつもりでその空気に触れることが出来たと思います。
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2022年春に奈良・春日大社より御霊を勧請。眩しい朱塗りの社が身を清めてくれるようです。
ご紹介したのはあくまでも個人的に気になったものの一部です。
季節、時間、その日の体調や心身の状態によって受け取り方や感動する場面が異なるのだと思います。ですが、私にとっては太古を感じられる「桃源郷」としてこれからも訪れたい場所になりました。
測候所で見た光景はかつて日本や、世界中で当たり前だった自然と人工物との共存の光景だったかもしれません。
訪れた方も、訪れていない方も測候所への想いをぜひともチェックしてほしいです。