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アートを仕事にして難しいと感じたこと
ってありますか?
そんな質問を受けることがありました。
今日はそのことについて書いてみようと思います。
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音楽が好き、映画が好き、美術館が好き。
どこにでもいるただのアート好きだった私。それでも夢中になって目の前の興味を追いかけていたら、いつの間にかアート業界に足を踏み入れていました。
元はフロントエンドエンジニアとしてWeb制作をしていました。需要の大きな市場で、「手に職をつける」という目標を達成し、プログラミングを書くのも得意。十分なキャリアをスタートしたはずでした。それでも仕事をしながら、どこか物足りなさを感じていた20代の日々。今思えば、若さゆえの情熱が溢れ返っていたのかもしれません。そんな中、「好きを仕事にしてみたい」という思いで活動を続けていたら、ご縁があって現代アートの販売会社で働くことになりました。
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そこでは、今までにない大きなやりがいを感じながらも、忙しなく実務をこなす日々。「好き」という感情に浸る時間は、どんどん削られていきました。メール対応や書類作成、作品の搬入や搬出作業……目の前にある仕事をこなしながら、ふと考えます。
「作品の素晴らしさや、そこに込められた想い、作品から生まれるあらゆる感動を、じっくり対話する時間はないのだろうか?」と。
仕事としてアートに関わるということは、アートをビジネスとして扱うということ。NPO法人などの非営利組織や大企業のCSR活動でない限り、まずは売り上げを作ることが大前提です。作品が売れるから市場が生まれ、市場があるからアーティストが活動を続けられる。それは十分にわかっていたのですが、当時は私の中の「偉大なる芸術さま〜!」という感情が葛藤を生んでしまいました。だって、作品と向き合いながら耳を切り落とした画家の話や、便器を展示して美術界に革命を起こした話、地域創生にアートが一役買っている話、多様性についての議論……いろいろ知ってきたじゃないですか。頭でっかちになっていたのだと思います。
そもそも、じっくり作品と向き合いたいなら、学芸員や研究職の道を選ぶべきだったのかもしれません。でも、文学部や美大で学芸員資格を取得し、大学時代からその道一本で歩んできた人たちがいる上に、その採用枠は狭き門。私のような新参者には、仕事を選ぶ余裕なんてありませんでした。まずは与えられた仕事をありがたく果たし、好きなことを仕事にできていることを最大限楽しもう。それでも、仕事と向き合う中でアートや作品への敬意を忘れないようにしよう。そんな葛藤の中で働いていたのだと思います。
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今では、仕事先も職場環境も変わり、結婚や出産を経て、生活スタイルも大きく変わりました。育児との両立が器用にできない私は、仕事量をぐっと減らしつつも、限定的なポジションでアートに関わる仕事を続けています。そこでは、業界一本で歩んできた、私なんかよりもずっとアートや作品への敬意に溢れた方たちの働きぶりを見ながら、少し距離を置いて、いい意味で肩の力が抜けてきたなと感じます。
よく巷で見る「好きを仕事に!」という謳い文句。やってみたからこそわかるのは、「好きを趣味のまま楽しむ」という選択も、十分に幸せな形だということ。でも、やっぱり好きを仕事にすることで得られる充実感や達成感も特別なものです。大切なのは、その「好き」が消えないように守りながら、自分に合ったペースや形で進むこと。今はそんなふうに考えています。