テアトロコント vol.9『コントに謎は必要だろうか?』
1番目はだーりんず。四つのコントのうち、何よりも昔捨てた五つ子が父親に会いに来る作品の完成度が高い。順番が前後するだけで、父親の子供に対する扱いが違う。いくら人生にとって大切な場面とはいえ、何度も繰り返しているうちに段々と扱いが雑になる。自分も誰かとの一生に一度の出会いで、知らず知らずのうちにこのような不運に見舞われているのかもしれない。
2番目はトリコロールケーキ。コントにあるまじき、相当ややこしい構造を備えた作品。「チカラ」を持った訪問者が、忌まわしい呪い(?)を次々に解いていくのだが、それを見破るヒントは、他の登場人物のセリフの端々に隠されている。常に集中していないと筋を正確に追うことが出来ず、笑うことよりもセリフを聞き逃さないことに意識を持っていかれてしまった観客も多かったのか、休憩中は狐につままれたような空気が客席に漂っていた。
3番目は東葛スポーツ。『スティーブ・ジョブズ』というタイトルの通り、同名の映画のストーリーを踏襲しつつ、時事的なネタをふんだんに詰め込んだクリティカルな作品。都知事選の前日ということもあって、舛添要一の人形が爆弾発言を繰り返す後半になってからは少し観客の笑いの質が変わっていた。激怒と恐怖のないまぜになったような感情に襲われながら、それでも笑うしかなかった。
4番目はゾフィー。ユーロライブで「弱い人たち」によるコントを何度か拝見していたけれども、ゾフィーのみでのコントを観るのは今回が初。予想していたよりもあっさりとしているというか、グズグズ感のあまりない、掴みやすいコント。報道番組でわかりにくい例えを用いているうちに、いつのまにか違う話にすり替わっているという作品が、よく練られていて楽しく観ることが出来た。
ところでコントに謎は必要だろうか?率直に言って、今回のテアトロコントで最も笑えず、意味がわからなかったのはトリコロールケーキだった。だが、個人的に最も印象深かったのもトリコロールケーキだった。コントに笑いではない、いったい何を求めているのだろうか?あるいはそれはコントの正しい見方ではないのかもしれない。少なくとも瞬発的な笑いはトリコロールケーキの『チカラ』という作品には全くと言ってもいいほど含まれていなかった、だからこそ、なのかもしれない。劇場にわざわざ足を運ぶ理由のひとつに「テレビでは絶対に出会えないタイプのものが観たい」ということを挙げるひとも多い。いまでもトリコロールケーキの謎について考え続けている、30分かけてまんまと術中にはまってしまったのだ。30分かけないと不可能な呪い(?)があることを知った体験だった。