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歯の矯正と〈ジャネーの法則〉何歳までできる?歯科矯正

誰にとっても同じはずなのに、時間の感じ方は年齢で変わりますよね。
小学生時代、あんなに長かった授業時間の 45 分が、
今となっては体感 45 秒ですよ!

〈 ジャネーの法則 〉という仮説があります。
年齢が上がるほど、1 年が人生全体に占める割合としては小さくなるので、時間が経つのが早く感じられるという説です。
同じ 1 年でも 10 歳の子の 1 年は、10 分の 1 ですが、
50 歳になるとその 1 年が、50 分の 1 にしか相当しないので短く感じるというわけです。
これを歯科矯正に当てはめると、高齢になってから受けた方が、小学生で受けるよりも早く終わったように感じるかもしれませんね。

成人矯正は当研究所でも 10 年前より確実に増えています。
歯科矯正は子供のするもの。
こんな認識をもっている方も、だいぶ少なくなってきたとはいえ、未だ年齢の壁が存在しています。
でも何歳まで歯科矯正は可能なのでしょう?


年齢は関係ない!

歯が動くかどうかの 1 点に絞って言えば、生きている間はいつまでも歯科矯正ができると言えます。
大人になると歯が動かなくなるというのは単なる都市伝説です。
歯科矯正においては年齢など意味がありません。暦年齢じゃないんです。

小学生ですら暦年齢は役に立たず、歯齢(歯の生え変わり段階)が使われます。
例えば、小学校 6 年生でも生え変わりが完了していれば成人と同じ治療方針になる場合が多く、同じ 6 年生でも生え変わり段階が 3 年生程度であれば、低学年用の治療方針が採られる場合が多いのです。
歯の動くスピードに関しても 40 代、50 代のミドル層は 20 代と違いを感じません。
しかし 6 5歳以上のシルバー層となると、事情が少し変わってきます。

シルバー層特有の事情

①    リアクションが遅い

矯正力をかけてから歯の移動が起こるまでにタイムラグが出てきます。
当然、治療期間が延長します。
動くのが遅いと、つい強い力をかけたくなるのですが、そこは辛抱。
待つしかありません。
令和 4 年の歯科疾患実態調査では矯正歯科治療経験の有無を調べていますが、60 代で現在治療中なのは 0.5 %、70 代以上ではゼロ。
これではデータを取るのも難しいので、僕の経験から語らせてもらうと、
60 代前半までは 20 代 とほとんど治療期間は変わらないと思っています。

さすがに 70 歳だと僕の予想治療期間より1年長くかかりました。
これを個人差と取るか?一般論と取るか?の問題もありますが、動物実験では加齢により矯正力に対する反応が遅れることが分かっています。
シルバー層が 20 代と同じゴールを目指すなら、彼らよりも 1 年は期間を多めに見ておくのが無難だと思います。
あるいは最終ゴールを低めに設定して、時間を短縮するのも有りかもしれません。

②    歯の欠損がある

年齢が上がる程、歯の欠損は増えてきます。
平成 11 年の歯科疾患実態調査では歯の寿命の調査をしており、それによると寿命が短いのは左下第二大臼歯で男性 50.0 年、女性 49.4 年となっています。
平均すると歯は 50 歳で1本無くなってしまうようで、その場所は第一大臼歯や第二大臼歯といった奥歯である確率が高いと報告されています。
人間の寿命は延びていても、歯の耐用年数はそれほど延びていないのです。
虫歯や歯周病の進行による脱落もあるでしょうが、長期の保存が難しいと判断された歯は、歯科医院で抜歯を勧められることもあります。
そんな時、奥歯だし…見えないし… と思って放置しておくと、歯からの刺激が無くなった部分のあごの骨は痩せていきます。
上あごでは奥歯が無くなると骨が減り、その結果、上顎洞(じょうがくどう)という空洞が広がっていきます。
下あごの歯が無くなっても空洞はできませんが、やはり骨は痩せていきます。
歯が無くなった後、放置してあった場所への歯の移動は時間がかかるのです。
奥歯が抜けた時が始め時かも…

③ 歯周病にかかっている

歯科矯正の原理は、外から力を加えて歯を支える骨を溶かし、その後、動いた位置で骨が新しく作られる〈骨改造現象〉です。
「矯正は痛い」と認知されていますが、これは軽い炎症反応を利用して骨改造現を起こしているから。
歯周病にかかっていると、元々持っている炎症が歯科矯正によってさらにひどくなることがあります。
こんな時は矯正歯科治療に先立ち、歯周病の処置が先行されます。
治療を始めてよい状態は、
教科書的には
1.歯周ポケットが3ミリ以下、
2.プロービング後の出血が無い(先のとがったもので歯茎を触っても出血しない)
3.歯槽骨の吸収が歯根の 1/2~1/3 にコントロールされている(歯の根っこの見え方が少ない)
とされています。

66 歳
64 歳

上は66歳、下は64歳。上は危ない。
歯を動かすには骨が健康かどうかが大事です。

④    あごの成長が無い

子供の場合、あごの成長の促進・抑制(できないことが多いが…)を治療計画に組み入れることがあります。
しかし成人の場合、あごの成長がないため、あごの大きさをコントロールすることはできません。そのため上あご・下あごの位置自体を変えてかみ合わせを治す、手術を併用した〈外科的矯正治療〉の適応症も増えてきます。
ただ体力的な問題から、シルバー層には手術を勧めづらい現実があります。


以上 4 つがシルバー層特有の事情です。
若年者に比べて制限は出てきますが、暦年齢は関係ありません。
年齢で歯科矯正を迷っている方!
ジャネーの法則を活用してみたらいいんジャネ?


参考文献
平成11年歯科疾患実態調査
令和4年歯科疾患実態調査
宝泉寺紋太朗:それを歯の矯正とよばないで,日本橋出版,東京,2024.

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