神様かんべんしてくれよ。ビル群が強烈に光る渋谷の横断歩道で、イケてる若者たちとアラサーOLの対比はきついでっせ。
ふふ。わたしってやっぱり才能あるのかな、なんてね。
セールストークかも知れなくたって、ネイティブの先生にあれだけ褒められちゃったら、そりゃあ嬉しいよね。ただでさえ、わたしみたいな冴えない系OLはめったにチヤホヤされないんだもん。
仕事終わりに英会話教室に行き、夜も更けるタイミングでようやくアパートへと向かう。
ん?向こう側にいる人達、もしかして女子高生?
神様かんべんしてくれよ。ビル群が強烈に光る渋谷の横断歩道で、イケてる若者たちとアラサーOLの対比はきついでっせ。
でもまあいいもんね。今日のわたしは一味ちがう。なにせロバート先生から「Your English is great.」なんて言われちゃったんだから。
彼女がにやける間に信号が青になる。
おーおー若者たちよ、楽しそうにしゃべるなあ。でも社会人になったらちゃんと勉強しなくちゃいけないんだぞ。
内心で気持ちよく諭す彼女と、制服姿の彼女たちがすれ違う。
「u know? He’s so nasty ‘nd annoying when playing that social game.」
え、待って?なんで英語でしゃべってんの?てかなんで英語でしゃべれてるの?
とたんにさっきの教室での自分が小学生のようにフラッシュバックし、顔が熱くなる。心臓がキュッとなるのを確かに感じる。
恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。ちょっとでも調子に乗った自分のバカ。
わたしと違ってオシャレでコミュ力あって、会社に入ってもうまくやるああいうタイプの子たち。なんだよ、英語までできるのかよ。
肩にかけたカバンを握り込み、寄るはずの無かったコンビニに舵をきる。
こんな日はスイーツで持ち直そう。そうだ、そうしよう。ついでに、いつものダルそうなイケメン店員さんも拝んでおこう。
ウイーン。
ドアが開いて入店した時に聞こえたのは、いつもの「ぃらっしゃいぁせー」ではなく、英語だった。
「So, I am looking for Lucky Strike. You OK? 」
黒人さん、いや、アフリカ系の人がレジでイケメン店員さんと会話してる。会話になってないけど。
どうしよう、助けた方が良いかな?でも上手く対応できなかったらどうしよう。恥ずかしいところ見られたくないし。いやでも二人ともが困ってるよね。
「Um, Would you like a cigarette?」
平静を装うのでいっぱいいっぱいだ。
「Ya! You speak English! Plz tell him so in Japanese!」
あ、良かった、通じた。顔が思わずほころぶ。
「あ、この方は、ラッキーストライクって言ってます。タバコの。」
「あ、助かりました。ありがとうございます。」
え、何その顔、あんたイケメンのくせにそんなに笑顔かわいいの?惚れるぞ?
ウイーン。
はあ、良かった。まだ胸のとこが温かいや。
エクレアを手づかみして夜道を歩く彼女は、一瞬の勇気と日頃の努力のおかげで、スプラッシュマウンテン終わりのような、すがすがしい充実感をコンビニで味わった。
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