【三題噺】「夏至」「スニーカー」「高校生」
6月中旬。今日は夏至だ。昼の時間が最も長い日。俺は今新しいスニーカーを買いにショッピングモール内に入っている靴屋に来ている。学校帰りのため制服だが、このショッピングモールには沢山の制服姿の人をみかける。みんな学校帰りなのだろう。クレープやアイスを食べる女子たち、隣のゲームコーナーに入っていく男子たち。様々だ。
俺はそんな人達を横目に目的の靴を探す。
「あった…」
手に取って見ていたら、店員に声をかけられた。ちょうどいいサイズを探してもらおう、と俺は振り返った。
「……え、お前…」
「…えへへ、久しぶり」
そこにはなんと、元カノが立っていた。首から『STAFF』と書かれたものを下げているのでこの店の店員なのだと伺えた。だが、なぜ数週間前に別れた男の元へ来たのだろう。俺はそればっかり気になってしまい、靴のサイズを聞くことをすっかり忘れてしまっていた。
「…………あのね、私、まだ諦めたくなくて…」
「…………」
「明日、誕生日でしょう? これ、私買うから…。サイズとか色とか、教えて欲しいな」
彼女は俺の事を偶然見つけたから迷わず声をかけたらしい。そして誕生日まで覚えていてくれた。たった数ヶ月しか付き合っていない人の誕生日を。彼女は母子家庭で生活も色々厳しいと聞いていた。けれどこうして人気で話題のスニーカーを自ら買うと申し出た。誕生日プレゼントに、と。俺はもちろん嬉しかったが、別れた彼女からの、というのもあり複雑な気持ちであった。
「……ありがとう。でも、いいよ。これは高いし」
「いいの! 私が買うから!」
「プレゼントはもっと違うのが欲しい…!」
「じゃあ、それを私が――――」
俺は店内だということを忘れて、彼女の腕をひ引っ張り、自分の方へ寄せた。コトン、とスニーカーが落ちる。でも気にしない。今の俺は、スニーカーよりも、欲しいものがあるのだから。
「お前がほしい」
「……っ!」
何も言わない彼女に不安を覚えると、どこからかパチパチと手を叩く音が聞こえた。そこで一気に意識が現実世界へと戻される。
「………ここ店ん中だった……」
「……私なんかでよければ…!」
遅れながらの返事に、更に拍手が巻き起こり、し店内幸せオーラに包まれた。
まだ明るい外を2人で歩く。赤いスニーカーを履いて、彼女に歩幅を合わせて。これからも俺は、このスニーカーを履いて、彼女と共にこれからの道を歩んでいくんだと心に誓った。
ちなみに、スニーカーは店長がタダにしてくれた。