格闘技の魅力ー朝倉海の敗戦に思うこと
12月8日、UFC310メインイベントにて、
フライ級タイトルマッチ
「パントージャ(王者)vs朝倉海(挑戦者)」が
行われました。
日本最大級の総合格闘技団体「RIZIN」(※)の
バンタム級王者である朝倉海が、
世界最高峰の舞台であるUFCの初戦で
異例のタイトルマッチということで、
注目度は非常に高く…
めざましテレビで取り上げられたり、
当日のTwitterトレンド上位を一時独占するなど、想像以上の熱気に驚かされました。
私自身、この試合を見て思うところがあるので、「なぜこれほどまでに注目されたのか?」
という点も含めて書いていきます。
UFCとは?
なぜこの試合が大きな注目を集めたかを
話す前に、戦いの舞台であるUFCについて解説します。
UFCとは、アメリカを拠点とする世界最高峰の総合格闘技団体です。
完全な実力主義のもとで成り立っており、
負けが込んだ選手は容赦なく切り捨てられる「魔境」です。
UFCチャンピオンとは、
「世界で一番強い」ことを意味します。
完全な実力主義であるからこそ、ヒエラルキーのトップに君臨するチャンピオンは大きな存在感を放っており、すべてのMMAファイターが憧れる大舞台です。
今回王者として対したパントージャは、
そんなUFCのフライ級チャンピオンであり、
直近で2連続王座防衛を果たした実力者です。
RIZINとは?
一方の朝倉海が所属する「RIZIN」は、日本最大級の総合格闘技団体です。
2015年の旗揚げ以降、10年間国内人気を保ち続け、かつては「メイウェザーvs那須川天心」、
「朝倉未来vs平本蓮」などのビッグマッチを成功させた実績があります。
朝倉海はRIZINバンタム級のチャンピオンであり、RIZINの中でも実力・人気ともに最高クラスの選手です。格闘技を詳しく知らない人でも、名前に聞き覚えがあるのではないでしょうか。
パントージャvs朝倉海が
意味すること
いわば今回の対戦は、
「UFC王者vs RIZIN王者」であり、
さらに言えば「世界vs日本」です。
「世界vs日本」という構図は、野球やサッカーなどの他競技においては頻繁に見られる光景なので特別感はあまりないかもしれませんが、
こと日本総合格闘技においては、スポーツとしての歴史が始まって以来初めて実現したビッグマッチであると言えます。
総合格闘技はそもそもスポーツとして成立してからまだ歴史が浅く、メジャーになったのは2000年代に突入してからです。
さらに、総合格闘技は他競技におけるW杯のように国同士で戦うイベントが存在せず、世界各地でそれぞれの団体が活動している状況です。
そんな中で組まれた今回のタイトルマッチ。
まさに日本格闘技始まって以来最大のビッグマッチと言えるでしょう。
試合結果
運命の試合当日。
結果は、2Rリアネイキッドチョークで
パントージャが勝利しました。
大方のファン予想では「寝技ならパントージャ、打撃なら朝倉海」でしたが、蓋を開けてみると圧倒的な実力差がありました。
一部では「1Rの跳び膝があと少しズレていればKOもありえた」との楽観論が見受けられますが、正直言って今回の結果は朝倉海の完敗だったと思っています。
総合力、スピード、対応力、そして海が優勢と見られていた打撃においても、全局面でパントージャが圧倒していました。
「世界vs日本」のビッグマッチは、
日本の完敗で終わりました。
敗北の絶望感、
しかしこれが格闘技の醍醐味
今回の結果は、日本格闘技ファンにとっても、そして朝倉海を応援していた自分にとっても
沈む結果でした。
ですが、これが格闘技の醍醐味です。
夢にまで見たビッグマッチで、大きく膨らんだ期待感が圧倒的な実力を前にして打ち壊されるこの絶望感が、私はたまらなく好きです。
悔しい結果だけど、これが格闘技です。
一つ一つの試合が大きな重みを持つ格闘技だからこそ、
誰もが待ち望んだビッグマッチだからこそ、
負けた時の絶望感は何にも代えがたく、あの日の結末を目にしたものにしか味わえない感情です。
私たちは、朝倉海の歩んだ軌跡と、日本格闘技の歩んだ軌跡を知る者であり、体験した者であるからこそ、この絶望感を味わえるんです。
振り返ると、これまで幾度とあった日本格闘技のビッグマッチはことごとく敗北に終わっていた気がします。
2000年代、日本人レスラーがグレイシー一族に蹂躙され、桜庭和志が台頭したかと思えばヴァンダレイシウバに負け…
そして現代においても、 RIZINのNo.1スターである朝倉未来がクレベル・ケラモフら海外勢に封殺され、2022年の大晦日に行われたBellator対抗戦では RIZIN勢が5戦全敗し…
日本格闘技は、負け続けの歴史であったと言えます。負けるたびに成長し、その先で再び負けてを繰り返し、夢を見ては現実を思い知る絶望感を幾度と味わってきたのが、日本格闘技です。
そんな日本格闘技始まって以来の最高到達点とも言える今回のビッグマッチで、再び絶望を味わったのです。
ハッピーエンドで終わらない、残酷な現実を見せてくれるからこそ、私は格闘技が好きです。
夢を見せてくれた朝倉海と RIZIN、そして
残酷な現実を見せつけてくれたパントージャとUFCに最大級の賛辞を送ります。
ここまでお読みいただきありがとうございました!