【帰省日記】変わりゆく街並みを眺めて
駅前の山が切り崩されていた。
跡地にはマンションが建つらしい。
得体の知れない山だった。
古びた風呂屋の看板が斜面に突き刺さっていて、竹木がまばらに生えていて、ぽっかりと空いた穴が防空壕だったことは昔から知っていた。結局、一度も入ることはなかった。
山の横には、「らーめんのくち」があった。
とび出た小窓のように露わに立っていて、急すぎる階段と古臭い看板が印象的だった。
調べたら、臨時休業していた。おそらく、事実上閉店だろう。ここも一度も訪れることはなかった。
どんな味だったんだろう?店主はどんな人だったんだろう?店を畳んだ後、どうしているだろう?会ったこともないラーメン屋の店主に想いを馳せる。
洗足学園大学の向かいにある「ゼネラル体育館」も取り壊しになって、学生マンションが建つらしい。色褪せた青白い看板が鮮明に思い出される。人が入るところは見たことがない。
自宅マンションの向かいにあったタバコ屋もいつのまにか消えて、駐車場になった。
得体の知れないオブジェクトが、
ありきたりな建物に書き換えられていく。
一度も訪れたことはないのに、いざ取り壊されると寂しい。通ってもいなかったのに、以前の姿は網膜に鮮明に焼き付いている。
溝の口は僕にとって名前のない街のはずだった。副都心でもベッドタウンでもない。
乱雑に色んな建物が立っていて、「整然」とは程遠かった。様々な人が様々な思いで建てたオブジェクトが乱立していて、一つの街として成り立っていた。
それが、「都市開発」によって整えられていく。
「街の発展」という大いなる意志によって、形が変えられていく。少し残酷だ。
街が、知っている言葉で書き換えられていく。
変わりゆく街を、変わらずに愛していけるだろうか。