【映画の感想】シェフ 三ツ星フードトラック始めました
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです)
※フィルマークスに投稿したものの転載
「あれ? まだ見てないアベンジャーズあったっけ?」と思わず呟いてしまいそうになる配役はさておき、アベンジャーズでハッピーを演じたジョン・ファヴロー監督・主演によるハッピーな映画がこちら。というか、この人アイアンマンの監督だったのか…全然知らなかった…。
総料理長でありながら店のオーナーと折り合いの合わないカールは、自分を曲げてオーナーの言う通りの料理を批評家に出したところ酷評され、いろいろあって店を辞めてしまう。その後元妻と息子と訪れたマイアミでフードトラックを始めることにし、マイアミからロサンゼルスまで売り歩きの旅を始める…というのがあらすじ。
テンポの良い展開、陽気な音楽、そして何をおいても美味しそうな料理、料理、料理…。しかしタイトルにもあるようにフードトラックが彼らの舞台なので、気取ったところもなくとにかく「人が食べて喜ぶ」ことを重視した料理の数々。見ているだけでお腹が鳴る。
とはいえ、この物語の主題は当然美味しそうな料理の描写だけではなく、料理を通じた人と人との関係性を扱っている。Twitterを「新たな他者との関係性」を象徴するギミックとして有効に機能させながら、オーナー、同僚、敵、元妻、息子、そして客と世の中の人々…と、多くの人を巻き込みながら展開していく。食べる、というのは生活の根幹であり、人とのつながりを描くにはとても良いテーマなのだと再認識。
(以下スペースの後にネタバレあり。とはいえ読んでも作品の面白さにはほぼ影響はないかと思います)
オーナーとの対立、批評家との対立、炎上を通じた世間への対立という敵対描写と、同僚との友情、元妻との交流、息子との和解、たくさんのお客さん…という味方の描写が上手くバランスしており、さまざまなものを失いながら新しいものを手に入れていく再生の物語として綺麗に描かれている。
その転換点が元妻の元夫、というのは敵と味方の狭間に立つ人物として面白く、「どうにもできない過去を受け入れる」という心情と対応しているようにも見える。
そして再生の物語といえば旅。限られた上映時間の中で無理なく時間の経過を感じさせる手法としてフードトラックの旅を選んだのは秀逸で、カールが息子と新しい関係性を築いていく様子を料理の手伝いという生業の中で描くのは非常に納得感がある。父親の仕事と誇りを間近で感じられた息子、というのも親子の関係としてこの上ないものだろう。
最後に辿り着くのが敵との和解で、敵自身の手により幸福を手に入れるというのもオチとして大変綺麗。ただそこはフードトラックならではの魅力(新しい人との関わり方)を見出したカールが断る、という展開でもよかったかなぁとは思わなくもない。
表向きは楽しく愉快で美味しそうなコメディだけれど、その裏にはしっかりとテーマを過不足なく描き出すストーリー展開が設計されているという良作。見ているだけで自然と笑顔になってしまうおすすめの一作です。