【映画の感想】ファイナルファンタジーXIV 光のお父さん
(前半はネタバレなし、後半はネタバレありです)
※フィルマークスに投稿したものの転載
まずFF14のゲームキャラクターそのものを役者のように使ってしまうという、映画史上類を見ない試みに賛辞を送りたい。
最近では「search/サーチ」という映画が「ソーシャルメディアの画面そのものを物語の舞台としてしまう」というアイディアで話題になっていたけれど、新しいテクノロジーであってもそこに人のドラマがあれば映画の舞台になりうるというのは、映画表現の無限の広がりを感じさせる。
本作でいえば、登場人物が持つ意外な一面をゲームキャラクターに振る舞わせるのみならず、内心の決意を使用キャラクターのキリッとした表情でより格好良く描写するなど、ある種のハイパーリアルとして機能させてもいる。
現実世界の登場人物の振る舞いと、その人物が操作するキャラクターの振る舞いが異なっていたとき、どちらがその人の本心なのか? ということを考えながら鑑賞すると、思いを馳せられる範囲が二重三重に広がってくる気さえする。当初は単なるハートフルものかなと思って見始め、そしてそれは間違っていないけれど、映画としての新しさにも唸らされた。
ゲームの良し悪しはこれまでいろいろなところで議論されている話題だけれど、結局は画面の向こうにいる生身の人間性との関係性次第なのであって、ゲームというのはインタフェースに過ぎない。関係性の姿が表面的には変わったとしても、通信の訳語がコミュニケーションであるように、中で起きているやりとりがどんなものなのかの方が余程大切なのでしょう。
なお、自分はゲームは最新作を結構やるけれどFF14は未プレイという身ながら、初心者のお父さんを媒介として適宜解説が行われるので全く問題は感じなかった。むしろお父さんの立場でも息子の立場でも感情移入できるので、お好きな立場で見るとよろしい。
ごちゃごちゃ書いていますが、久々に映画館で泣きました。
FF14をまんまとやりたくなる、という意味でも上手いこと作られている…というより、作りたい映画のあり方とゲーム会社の思惑がピタッと一致した稀有な例、というべきかもしれない。
(以下スペースの後にネタバレあり)
お父さんに正体をばらした瞬間とその後のやり取りの描写は個人的にはとてもぐっとくるものだった。
お父さんにとっては、自分のために長い時間を割いて息子が手伝ってくれていたこと、不器用ながら努力し続けてきたことを息子が理解してくれたこと。
息子にとっては、お父さんを騙していた状況を静かに受け入れてくれたこと、楽しかった思い出をお父さんが覚えていてくれたこと。
あの言葉少ないやり取りの中で、「ゲーム内でのお互いへの感謝」と「現実世界でのお互いの受容」が一気に押し寄せてくるのは、とても良いカタルシスだった。
お父さんが本当はいつでも優しかったことを思い出す場面も、同じ時間を改めて過ごすことで曖昧だった記憶が玉突き的に思い出される様を表現していて面白い。単にエピソードとして示すのではなく、主人公とお父さんがゲーム内で照応する出来事を再体験して初めてその過去が明らかになるという作り方は、他者との関係の再構築の姿という意味で上手い表現であると感じた。
ゲームというある意味ではリセット可能な関係になりうる舞台を通じて、家族の絆というリセットできない関係を描き出すという試みは、ゲームも現実もどちらもないがしろにせずそれぞれの特性を活かすことで成功したのだな、と。ゲームは小さな成功をいくつももたらしてくれる遊び場であり、60歳を超えても新しく学んだり、それを現実に活かして自分の行いを反省したりできる。それがしっかり描かれたのがとても良かった。
こんな家族のあり方もいいよね、と思わせる一作でした。おすすめです。
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